第103話



数日後


 獣魔部門、集団戦部門の二部門では波乱はみられず、どちらも優勝候補と呼び声高かった組の優勝だった。


 大会は終わり既に結果は出揃っていたが、予想外の謎の人物が優勝した武闘王部門はその驚きから盛り上がり、予想を外さない結果となった二部門はその優勝候補を倒しうる者たちが出てくるかどうかで盛り上がっていた。



「どんな結果でも盛り上がるんだな」


「まぁ、楽しめれば何でもいいというところなんでしょうね」


 その言葉は的を射ており、住民は盛り上がるための話題を求めているだけであった。しかし、その賑わいが知らず知らずのうちに経済を動かしているのも事実だった。


「普段から小さい大会みたいなものはあの闘技場で開かれてるみたいですし、元々戦いが好きというのも大きいみたいですね」


「そういうのが根本にあるから、この国も潤うんだろうな」


 戦いを一つのビジネスにするのは、流行廃りもあるため難しいものではないかと蒼太は考えるが、千年以上続いて尚これだけの盛り上がりがあることから、生活の一部として成り立っているのだろうと考えを改めることにした。



 蒼太とディーナがいまだ大会の熱気冷めやらぬ街中を抜け進む先は王城だった。


 昨日の晩に城からの使いが再度宿を訪問し「大会も終わったため、約束のものを引き渡したい」との伝言を伝えていった。


「さてさて、素直に本を渡してくれればいいんだがな」


「何か言ってくると?」


 蒼太の言葉にディーナは問いかけるが、蒼太は首を横に振った。


「それなら問題はないんだがな、こちらは結果を出したわけだから難癖以外には言葉で何とかすることは出来ないだろうから、それを正論で正せばいいわけだ」


 そこまで言うと、蒼太は眉間に皺を寄せる。


「問題はだ、倉庫から目的の本が撤去されてしまった場合だ。やらないだろう、と信じたいところだがあの文官はそもそも今回の賭けには反対していたからな。俺が優勝を決めた時、あいつら全員難しい顔をしていた。予想を外されて困ったんだろうな」



「あの時、そこまで見えていたんですか」


 会場からVIP観覧席まで距離があり、その表情まで掴んでいたことにディーナは驚いた。


「あぁ、結構目はいいほうなんでな。それに表彰式の時にも歓声に合わせて少し声をかけたが、動揺がみられたよ。顔が引きつってたな」


「目がいいってレベルじゃないような……っていうか、そんなことをしたから王様の様子がおかしかったんですね」


 ディーナが蒼太を見る目がジト目になっていた。



「まぁ、向こうの要求がたいがいだったからな。あれで少しはやり込められたんじゃないか?」


 ディーナは大会への参加という自分の希望をかなえてくれた王様に不満がなかったため、肩をすくめるだけに留めた。



 二人が城門までたどり着くと、衛兵に名前を告げ大臣に連絡をとってもらうよう頼んだ。衛兵は二人の顔を覚えており、また二人が来るという連絡も受けていたため、取次ぎは素早く行われた。案内の騎士がやってくると、控え室ではなく謁見の間へと直接案内された。


 扉の先には、前回と同じ顔ぶれが並んでいた。蒼太とディーナが王達の近くまでやってくると、王が口を開いた。


「よう、わざわざ来てもらって悪いな。今回は大会参加ご苦労さんだったな、まさかあれだけの力を持ってるとは思わなかったぞ」


「どーも」


 褒める王に対して、それより早く報酬の話をと思っている蒼太とではその言葉に温度差があった。



「それで、報酬の方はどうなってるんだ? そっちの大臣さんは反対していたみたいだが」


 蒼太はルードレッドに視線を送るが、ルードレッドには慌てる様子はみられなかった。


「まぁ、そうだったんだが……どうやら試合を見てお前よりに気持ちが傾いたみたいでな。反対する者はいないさ」


「それならいいが、本を書庫から移動している。なんてことをしていたら、さすがに俺もキレるかもしれなかったからな、安心したよ」


 蒼太は表情をほとんど変えずにそう言った。



「まさか、そんなことをするわけないだろう。約束だからな」


 王は笑顔でそう答えるが、王を含む面々の内心は冷や汗をかいていた。昨日の夜の話し合いでは、本の移動を行ってはどうか? といった案も実際に出ていた。しかし、万が一蒼太と敵対した際のデメリットを考えその案は却下されていた。


 今、ここにいる中では将軍が一番の実力者だが、その彼が蒼太の試合を見た後で勝てる、と断言することは出来ないと言ったこともその理由の一つだった。


 それゆえ、蒼太とは友好関係を結んでおくことが、国にとって最も良い選択肢だという結論に達していた。



「早速案内させよう、ルード頼むぞ」


 ルードレッドが王の声に頷く。


「それではソータ殿、私の方で案内させて頂きます。参りましょう」


 ルードレッドは王に一礼すると、蒼太たちを書庫へと先導していく。蒼太とディーナもそれにならい一礼し、ルードレッドの後についていった。



 以前部屋名を確認した書庫の前までくると、ルードレッドは鍵を開ける。


「どうぞ、中へお入り下さい。今回のお約束では、ソータ殿が必要とされる本を差し上げるというものでしたのでご自由にご覧下さい」


「あぁ、助かる。ありがとうな。ただ……ちょっと蔵書量が多いから、数日通わせてもらうことになるかもしれないが、それは構わないか?」


 書庫は入り口に対して想像以上の広さをしており、地下へと続く階段まで存在していた。下手をすると図書館の所蔵量と肩を並べるくらいの本の量であり、更に図書館には置けないような貴重な本が大量にあるため、蒼太はグレヴィンの本以外にも必要な本があれば手に入れておきたいと考えていた。



「えぇ、構いませんよ。門番の衛兵に私の名前を出せば話が通るように伝えておきましょう。昼間であれば誰かしらここにいるようにしますので、鍵も開けておきます。少し蔵書の整理も必要ですから、ついでにやらせればちょうどいいでしょう」


 ルードレッドは、すでに本の持ち出しも納得しているようで言葉にも棘はなかった。


「それじゃ、さっそく本を読ませてもらうことにするよ」


「はい、終わりましたら誰かに声をかけて下さい。それと本をお持ちになる際は、どの本を持っていくか私の方へ伝わるように伝言をお願いします。それでは、失礼します」


 一礼し、ルードレッドは退室していく。



「ディーナ、それじゃあ本をみていくか」


「はい!」


 元々本を読むのが好きな蒼太とディーナは、目の前の本にわくわくしていた。

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