第100話
グレイは観客の声援に右手を挙げて答えると、控え室へと戻っていく。その途中、通路でガルギスとすれ違った。
「おめでとう。やっぱり、強かったな」
ガルギスはにやりと笑みを浮かべるとそれだけ口にして通路を進んでいった。やっぱりという言葉に違和感を覚えたグレイは振り返りその背中を見たが、ガルギスは振り返ることなくそのまま通路を抜けていった。
言葉の真意を問い質すことが出来なかったので、控え室への歩みを再度進めることにした。グレイが通路を抜け控え室についた瞬間、背中から一際大きな歓声が聞こえた。その歓声はガルギスの勝利が決定されたことへのものだった。ガルギスは決勝トーナメントに上がってからの二試合とも一瞬でけりをつけていた。
グレイが控え室で待っていると、ガルギスが戻ってきた。
「お疲れさん」
グレイは労いの言葉をガルギスへとかけた。彼は怪我一つ負っている様子はなく、またサンタナとガルギスの実力差から彼が勝つであろうとグレイは予想していたため、この結果を不思議に思うことはなかった。
「お互いにな」
ガルギスは左手を挙げて言葉を返した。
「……いつから気づいてたんだ?」
グレイから話を切り出す。
「あー、その姿見る限り正体を隠してるんだろ。他に気づいてるやつはいないと思うから安心しろ。俺は前に会った時の歩き方や、その身に纏う雰囲気とか発してる魔力とかそういうので判断してるんだ」
「はー、それじゃあ最初からわかってたってことか」
グレイは仮面に手をあて上を向いた。
「まあな。でも、安心してくれよ。俺は誰かに言うつもりはないからな」
ガルギスは、裏表のない笑顔でそう答えた。
「そのかわりと言っちゃ何だが、決勝は本気できてくれよ?」
「あぁ、わかったよ」
ガルギスが突き出した拳に、グレイも拳をあてる。
その後は、控え室へ来た係員が明日の流れを説明し、そこで解散となった。
宿に戻り、夕食を終えると蒼太とディーナは蒼太の部屋に集まっていた。
「ソータさん、これが今回の賭けで手に入れたお金になります」
ディーナは部屋にあった備え付けのテーブルの上に金の入った袋をマジックバッグから取り出し置いていく。
「おいおい、何かすごい増えてるんだが……」
「よいしょっと、これで最後です」
ディーナはある程度まとまった額の小遣いを蒼太から貰っていたが、それが何百倍にも増えていた。
「これ、どうしたんだ?」
「実はですね、ソータさんの試合以外にも賭けていたんですよ」
ディーナは得意そうに胸を張ってそう言った。
「予想が難しい試合もあっただろ」
「ふっふっふー、全戦的中です!」
ディーナは喜びを表すようにピースをする。
「賭けに勝ったらそのお金を次の試合に全部賭けて、また勝ったら次の試合っていう風にやったらここまで増えました」
「その賭け方はギャンブラーも真っ青だな。普通だったらどこかで止めてもおかしくない」
「自信あったんで思い切ってやってみちゃいました」
ディーナは予選から集めた情報や各選手の動きを見て分析していた。
「この金はディーナが使ってくれて構わない。ディーナが稼いだ金だからな」
「いえいえ、元はといえばソータさんのお金です。これはソータさんが使って下さい」
ディーナは勢い良く首を横に振り、金を蒼太へと押し返す。
「俺も金には困ってないからなあ……じゃあ、こうしよう」
蒼太は一つ袋を手前に引き寄せると、ディーナに渡した分に少し追加しただけの金貨を抜き取り、残りをディーナへと押し返した。
「俺が最初にディーナに渡した分に、金を用意した分の手数料ってことで、残りはディーナが好きに使ってくれて構わない」
「うーん、じゃあとりあえず私が持ってることにしますね」
ディーナは不満が顔に浮かんでいたが、渋々その金を受け取ることにした。マジックバッグに全て詰め終えると、ディーナは立ち上がった。
「それじゃ私、部屋に戻りますね。おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
ディーナは部屋の入り口へ向かい、扉から出ると顔だけ中に入れ蒼太へ激励の言葉をかける。
「ソータさん、明日の決勝も頑張って下さいね」
そういってウインクして部屋へと戻っていった。
「明日は恐らく一番の激闘になるだろうな」
サンタナ、トバインと二人の優勝候補を一撃の下に倒しているガルギスのその実力は未だ底が見えない。そう考えた蒼太は、ここまでに使った装備ではなく別の装備を用意するため、亜空庫の一覧を確認していく。その作業は夜遅くまで続いていた。
翌日
蒼太はディーナと共にいつものレストランで昼食を摂っていた。大会のことはもちろん店の二人には伝えていなかったが、蒼太とディーナの表情から何かを感じ取ったようで、本日のシェフのお勧めは力がでそうな栄養のあるメニューに変更されていた。
二人ともその料理に舌鼓を打ち、シェフたちの心意気を感じ取ってから闘技場へと向かった。
蒼太はグレイへと変装し、闘技場の控え室へと入る。仮面や偽装の腕輪はそのままだったが、腰にある剣やマントの下の防具などはレイショー戦までのものとは一変していた。控え室に入ると、係員が一人先に待機しており、グレイが到着したのを確認すると今日の流れの説明を始めた。
「こんにちはグレイ選手。早速ですが、本日の流れを説明させて頂きますね。まず、合図がありましたらグレイ選手、ガルギス選手の両名は昨日までと同様通路から舞台へと向かって頂きます。お二人が中央まで行きましたら、王様からの試合前のお言葉を頂きますので、王様のほうへ向き直ってください。それが終わったら、次にお二人の紹介アナウンスが流れることになっています。これまでの戦い振りや運営のほうで新しく調べた情報が流されることになりますね。その後、開始位置についてもらい試合開始となります……ここまでよろしいでしょうか?」
「あぁ、問題ない」
「それでは、入場にタイミングになりましたらこちらからお声がけしますので、しばらくここでお待ち下さい」
現在、同様の説明をガルギスも別の職員から受けている最中だった。
会場では、決勝前のパフォーマンスが行われていた。
決勝開始まで、残り二十分……。
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