第99話



「このまま一方的にやられるわけにはいかないな。出し惜しみはなしでいこう」


 レイショーは、剣の柄に巻いてある布を剥ぎ取っていく。


「おいおい、そいつはどういう仕組みだよ」


 グレイは布が取られたレイショーの剣を見て、目を見開き驚いていた。



「とっておきってやつだよ。出来れば見せたくなかったんだけどな……そうも言ってられないだろ!」


 その手に持つ剣は先程までと違い、金属の刀身は消え炎と氷の魔力剣になっていた。観客も審判もグレイですら、その武器の変容に驚き見入ってしまっていた。しかし、レイショーにとっては武器の変化はあくまで目くらましだった。


 レイショーの動きは、今までのどの動きよりも素早くあっという間にグレイへと迫っていた。



「さっきと立場が逆だな!」


 レイショーは先程のグレイの攻撃の時と同じように、次々に攻撃を繰り出していく。グレイは、アンダインでレイショーの攻撃を受けていくが、アンダインが纏う水の魔力は炎の剣により蒸発し、氷の剣によって凍らされその刀身をさらしていくことになる。



 周囲から見れば武器が本当の力を発揮したために見えたが、その実隠し玉は武器だけではなく靴・鞘・腕輪・指輪など全てが魔防具であり、今までその力を使わずに戦っていたため全てを発揮した際の実力は他選手に見劣りしないものだった。


「力隠しすぎだろ!」


 グレイはアンダインに込める魔力を一瞬だけ限界まで高め、二剣を弾き飛ばした。弾かれたレイショーは勢いそのまま後方へ飛び、グレイとの距離をとった。



 蒼太はここまでの戦いで、最もわくわくしていた。相手は格段に下の選手だと思いこんでいた。しかし、今戦っている相手は一回戦で戦ったカルロスを上回る実力を持っているといっても過言ではなかった。


 装備の性能をここまで隠して戦っていたレイショー、そしてその能力を発揮する際もデコイを入れることで使いたい目当てのものから目を外させてきた。装備の力に頼りきらず、それを使いこなしていることに感動すら覚えていた。



「あんた、本当にAランクなのか? 一回戦でやったあいつより手ごたえあるぞ」


「そういってくれるのは嬉しいが、正真正銘Aランクさ。俺は基本ソロでやってるからな、あちらさんはでかいクランだから集団戦が得意なんじゃないか?」


 お互い軽口をたたいていたが、走り出したその動きは目で追うのがやっとだった。



 グレイは一回戦同様、自分に優位な状況を作り出すため足場に水を撒こうとするが炎の剣の熱量で水は蒸発させられていく。観客の熱気もあり、会場内の気温はどんどん上昇していた。


「これは、らちがあかないな」


 グレイは仮面の下で額に汗を浮かべていた。戦闘開始前、グレイはスマートに倒して決勝に備えようと思っていた為、暑さも手伝って膠着状態である現状に苛立ちを覚えていた。



 現状を打破する手がないのはレイショーも同じようで、焦燥感を感じていた。装備のおかげもあり、対等に戦えてはいるがグレイは底知れぬ強さを感じさせている。自分が必死で戦っている今も本気を出していないのではないか? そんな疑問が頭をよぎっていた。しかし、その考えを首を横に振ることで追い出そうとしていた。


「ダメだ、そんな考えは捨てないと!」


 口に出すことで、自分に言い聞かせグレイへの攻撃を繰り出そうとする。



「何かを吹っ切ろうとしてるみたいだな、俺も、そろそろ……いくぞ!」


 グレイは刀身に雷を纏わせる。その雷は徐々にグレイの身をも包んでいた。


「な、雷だって!?」


 グレイは、レイショーへと斬りかかっていくがその速度は先程までのものを遥かに越えていた。雷の魔法を身にまとったことで、見た目へと注目を集めさせ、風魔法で自分の移動速度を上げ、更に付与魔法で身体機能の上昇させ、武器の硬度もあげていた。



 レイショーは先程までと同様に、二本の剣でグレイの攻撃を受けようとしたが受けた瞬間に、アンダインが纏う水を伝って雷魔法が二本の剣に伝導していく。


「うわっ!!」


 レイショーは慌てて飛び退いたが、完全に遮断することは出来ずその手には痺れが残っていた。


「まずい!」


 レイショーがそう口にした時には、グレイの次の攻撃が襲い掛かってきている。剣で受けることはダメージを蓄積すると判断したレイショーは回避を選択する。直撃は免れているものの刀身に纏う魔法の余波によるダメージを受けていた。その一つ一つは致命傷と呼ぶには程遠いものだったが、蓄積されることでレイショーの動きを徐々に鈍らせていた。しかし、グレイの動きは反対にどんどんその鋭さを増していた。



「そろそろ、決着をつけようか」


 縦の攻撃を続けていたグレイが横薙ぎにしようとアンダインを振るうと、レイショーは慌てて剣の腹で防ぐため身体の横へと剣を構えた。


「ま、まずっ!」


 レイショーは慌てていたため、雷魔法のことが一瞬頭から抜け落ちてしまっていた。剣で受けることで刃による一撃は防ぐことが出来たが、雷魔法はそのままレイショーの身に直撃することになった。


「ぐわああああ」


 そのままレイショーは吹き飛ばされる。そこへグレイは追い討ちとばかりにレイショー目掛けて炎・水・雷の魔法を放っていた。その全てが直撃し、レイショーは立ち上がることが出来ないどころか、ぴくりとも動かなくなってしまった。



 身体から煙があがっているレイショーを見て、グレイはぽつりと漏らす。


「やりすぎた……か?」


 判定の声があがる前に、レイショーの下へと医療班が駆け寄っていく。


 治療が迅速だったこと、服の下に身に着けていた防具に魔法耐性があったため気絶と怪我程度で済んでいた。回復が進むと、レイショーは目を覚まし、痛みに耐えながら身体を起こしていく。


「あ、あれはやりすぎだろ。死ぬかと思った、ぞ」


 それだけ言うと、レイショーは再度気絶してしまった。



「おー、生きててよかった」


 グレイは頭を掻きながら、素直な感想を口にした。


 レイショーの無事を確認した審判が勝者の宣言をする。


「準決勝第一試合、勝者グレイ!!」



 観客はグレイの勝利を予想している者が多く結果もその通りとなったが、レイショーの予想以上の戦い振りに興奮しスタンディングオベーションが見られるほどの盛り上がりで歓声と拍手が沸き起こっていた。



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