第96話

★翌日、闘技場控え室


 既に控え室には選手が集まっていた。二つの控え室に別れ、それぞれが初戦で当たらないもの同士で部屋割りが分かれている。テネシー・グレイ・サンタナ・ガルギスが同じ部屋で、残り四人が別室になっていた。



 各選手は後々対戦する可能性もあったため、会話はなかったがテネシー・サンタナ・ガルギスの三人の視線はグレイに集まっていた。騎士団所属の二人はその正体を知っていた為、ガルギスはD組の試合中グレイが何をやってのけたかを見抜いていた為だった。



 二日目の開始の挨拶が行われると、アナウンスによって第一試合の二人の名前が呼ばれた。テネシーはサンタナに目配せすると、お互い頷き、テネシーは舞台へと向かった。


 第一試合は前評判からは注目度は低かったが、二人の実力は拮抗しており好試合と呼べるような戦いになった。レイショーは予選で使った物とは異なる武器を用意しており、結果としては使用する武器の差でレイショーが勝ち抜いた。



 第二試合は、優勝候補筆頭のカルロスと謎の仮面の男グレイとの試合でカルロスが順当に勝ち上がるだろうと予想されていたため、戦いとしての注目度は低かった。



 カルロスも観客同様すぐに終わると考えていたが、現在の自分が置かれている状況に焦りを覚え思わず声を出してしまう。


「俺がなんで、こんな!」



 試合開始当初はカルロスの大剣による連撃にグレイが押し込まれているように見えていた。しかし、グレイはカルロスの動きを伺っていただけで、一瞬の隙をつかれたカルロスは、グレイのアンダインの刀身が纏う水魔法によって大剣を絡めとられ、その手から弾かれる。



 そして、得意の炎魔法もアンダインから放たれた水魔法によって相殺されてしまっていた。カルロスの大剣は持つものの身体能力を数倍に引き上げるものだった。それを奪われてしまったカルロスの動きは途端に鈍くなっていた。そして武器を失った今、頼みの綱となる炎魔法も全てグレイによって防がれてしまう。



 グレイは魔法を相殺する際に、それを上回る威力の魔法を使用することで周囲へと水を撒いていった。カルロスが魔法を撃っても無駄だと諦める頃には足元は水浸しになっていた。そしてカルロスがそれに気づいた時、その水がグレイの元へ集まっていく。


「な、なんだって!?」


 カルロスが集まっていく水の動きを目で追っていくと、そこには水の魔法で作り出した竜の中にいるグレイの姿があった。


「これで止めだ。行け、ウォータードラゴン」


 グレイの言葉と共に、水の竜がカルロスへと襲い掛かった。



「ぐおおおおおおぉぉ!!」


 カルロスは大剣のサポートを失っていたが、元々の能力を振り絞り炎の魔力を身に纏う事で水の竜の攻撃に耐えていた。しかし、耐えるだけで精一杯でその場から動くことが出来なかった。


「これ、くらい、耐えて見せる!!」


 クランリーダーであり、Sランク冒険者である自分がたかだか決勝トーナメントの初戦で負けるわけにはいかないという意地のみで耐えていた。


「お疲れ様」


 グレイは水の竜を後ろから追いかけており、カルロスのがらあきの胴へとアンダインで斬りつけ、更にそこへ水魔法の一撃を放った。


「うわあああああああああ!!」


 それがカルロスの最後の叫びだった。


 場外に吹き飛ばされたカルロスは気を失っており、医療班が駆け寄り治療を始めた。カルロスのダメージは深く重症だったが、それでも鍛えられていた肉体によって一命を取り留めていた。



「……はっ! しょ、勝者グレイ!! まさか、まさかカルロス選手、一回戦で敗北となりました!!」


 予想外の結果に気が抜けていたアナウンス役だったが、正気を取り戻すとグレイの勝利を告げた。そして、その声を皮切りに会場は今までで一番大きな歓声に包まれた。グレイは控え室に引き上げ、カルロスは医務室に運ばれ、アナウンス役は次の試合のコールをしようとしたが、しばらく拍手と歓声は収まらなかった。



 その後、第三試合は興奮冷めやらない空気の中で開始されることになった。この試合も優勝候補のサンタナが圧勝すると予想されていたが、その予想を覆し、エルフの魔法使いプラムは善戦していた。彼女は付与魔法を使い身体能力を向上させることで、サンタナの動きに対応していた。更に何種類もの魔法を使いサンタナを翻弄していく。


 しかし、サンタナはその一つ一つを拳による一撃で撃破していた。自分が優勢だと思っていたプラムは自分の魔法が全て効いていないことによって疲労感がその顔に浮かんでいた。


 彼女はこのままではジリ貧になってしまうと考えサンタナから距離をとると、予選で使った大規模爆発魔法の準備をする。サンタナはその詠唱を止めることが出来たが、あえてそれをせずに魔法が発動されるのを待っていた。



「予選で貴様が使った魔法だな。いいぞ、使ってこい!!」


 彼は相手の得意な技を受けきり倒そうと、それが自分の力を証明することになると、そう考えていた。


 プラムの魔力は増大していき、ピークに達したところで魔法が放たれた。


「バーストボム!!」


 彼女の手を離れた魔法はサンタナへと襲い掛かった。いくらサンタナが強者であろうとも、これだけの威力の魔法には耐えられない。観客もプラムも、その他の参加者もそう思っていた。


 魔法はサンタナに接触すると、予選の時以上の威力で爆発した。観客を守るための結界もビリビリと震え観客から悲鳴があがる。



「皆様、落ち着いてください! 結界はその一つが強力なもので、それが複数枚張られています。観客の皆様に魔法が届くことはありません!!」


 慌てた運営がアナウンスする。



 煙で舞台上は見えなくなっていたが、その煙をプラムが風魔法で吹き飛ばした。そこには魔法を放ったプラムと、全身が鎧に覆われたサンタナの姿があった。戦闘開始時と異なる姿のサンタナに皆が驚愕する。


「なかなか強力な魔法だったが、この鎧を突破することは出来なかったようだな」


 サンタナのそれは耐魔防御の高いもので、普段は手甲に収納されているが装着者の判断で全身を覆う鎧に変化するものだった。


「今度は俺の番だな」


 サンタナは鎧を手甲に納め、攻撃に移ろうとするがそれはプラムの声によって止められた。



「……まいりました。もう、私には手がないわ」


 プラムは最後の風魔法を魔力を振り絞って使ったため、立っているのもやっとだった。

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