第97話



 予選で多くの選手を一網打尽にした、ように見えた魔法をサンタナは傷一つ負わずに防いだことで観客席からは結界が震えたことへの恐怖心による反動も手伝って、前の試合を上回らんばかりの歓声と拍手だった。


 サンタナは膝をついたプラムに手を貸していた。


「お前なかなかやるな、まさかエルフがここまで動けるとは思わなかったぞ。最後の魔法も肝を冷やした」


 プラムは素直に差し出された手に掴まり立ち上がった。


「よく言うわよ。まさかアレを正面から防がれるとは思わなかったわ、しかも傷一つなしとはね。自信なくすわよ」


 立ち上がるとプラムは服についたほこりを払い、改めてサンタナの手を取り握手をする。全力の魔法を防がれた割にプラムの顔はどこか清清しかった。



「勝者サンタナ! 見事な戦いを繰り広げた二人に再度大きな拍手を!!」


 アナウンスに促されると、お互いの健闘を称えあう姿に再度大きな拍手がおこった。二人は観客席へ礼をすると、それぞれの控え室へと戻っていく。


 プラムの魔法の爆発によって舞台は大きなダメージを負ってしまった。そのためしばし休憩時間をとり、その間にスタッフが修理を行っていく。思わぬ休憩時間となってしまったが、次の試合を控えた二人はそれぞれ控え室で目を瞑り集中を切らさずにいた。



 ここまでの二試合が大きな盛り上がりを見せ、予定外の休憩時間が出来てしまったが舞台に上がった二人の表情からはその影響はみじんも感じ取れなかった。二人の視線は舞台に上がった瞬間からぶつかり合っており、そのまま舞台中央まで行くと睨みあう。


「よくのこのこと出てこられたな」


 トバインはガルギスを見下すようにそう言った。


「お前こそ、親父さんの後ろにいつも隠れていたのに今日は出て来れたんだな。その勇気だけは認めてやるよ」


 ガルギスはトバインに言われたことを気にも留めず、そう返した。トバインはそれを聞いて、表情に強い怒りが浮かんでいた。


「今日こそ、這い蹲らせてやる」


 トバインは怒りを抑えながらそれだけ言うと、背を向けガルギスから距離をとった。ガルギスは何も言い返さず肩をすくめるとトバインと反対へ向かい距離をあけた。



 二人が距離をとり構えたのを確認すると、開始をアナウンス役が合図する。


「それでは、一回戦最終試合。ガルギスVSトバイン、試合開始!!」


 二人の予選での戦いぶりから、似通った戦闘スタイルをしており二人の実力は本物だったためこの試合は長引くだろう。そう誰もが予想していた。それは蒼太も同じだったが、その予想は大きく覆されることとなった。



 二人は開始の合図とともに走り出すと、そのまま中央でぶつかった。大きな岩と岩がぶつかりあったかのような重く大きな音が会場に響きわたった。あまりの音とその衝撃に観客の多くは思わず目瞑り、耳元を押さえてしまう。それを見逃さなかった者達はその結果を一歩先に知ることとなった。


「が、ガルギス……」


 トバインは最後にガルギスの名前を呼ぶと、そのまま崩れ落ちた。



「えっ!? け、決着です、か?」


 アナウンスは一瞬の出来事に状況を把握できずにいた。ガルギスは両手を広げ、この状況を見ればわかるだろ? と会場全体にアピールした。


「け、決着のようです! 勝者ガルギス!! 一瞬の出来事でしたがガルギス選手の勝利です!!」


 二人がぶつかった後、会場は静まり返っていたがアナウンスの決着を伝える声をきっかけにはじけるように歓声が戻ってきた。



 二人とも同じことを考え一撃必勝を狙い、最初の一撃に全身全霊の力を込めていた。走り出しの速度は同じ、加速度はトバインがほんの少しだが上回っていた。しかし、上手さ・見切り・捌き・身体の使い方の点でガルギスが勝っており、ぶつかる瞬間トバインの拳を捌き、受け流し、トバインの胸へとカウンターの一撃を放った。



 歓声の中、ぴくりとも動かないトバインの下へ医療班がかけより医務室へと運ばれていった。それをガルギスは冷ややかな視線で見ていた。


「昔から変わらないな、だからお前はいつも俺に届かないんだよ」


 そう言ったガルギスは左の肩を抑えていた。トバインの一撃を捌いたガルギスだったが、避けきれずに肩を掠めていたからだった。



 これで一回戦は終わり、準決勝のカードが決まった。



 第一試合:レイショーVSグレイ


 第二試合:サンタナVSガルギス



 優勝候補と言われていた、Sランク冒険者カルロス・武官インガルドの息子トバインの脱落を示しており多くの予想屋の予想を大きく覆す結果となった。


 VIP観覧席で見ていたインガルドは自分の息子が負けたことに驚きはなかった。


「やはり、ガルギスには適わない、か」


 インガルドは自分の息子の才能を認めていたが、それ以上の才に加えて努力を怠らないガルギスの力をそれ以上に認めていた。


「ふむ、これはなかなか面白いことになったな。騎士団から残っているのはサンタナだけ。そして、グレイの次の相手はAランク冒険者のレイショーときたものだ、勝ちは決まったようなものだな。ルードレッド、ソータはなかなかやるな」


 王の言葉を聞いたルードレッドは右手で顔を覆う。



「くっくっく、いやあ楽しいな。インガルド、どうだ誰が優勝すると思う?」


 インガルドはふむ、としばし考え込んでから予想を話し始める。


「そうですね、このままいけばグレイ殿が優勝するのではないかと思います。我が息子を倒したガルギス、そしてサンタナも相当の実力者ですが、彼からは底知れぬものを感じます。申し訳ないがレイショー殿は他の三人に比べると格段に劣ります」


「インガルドが言うと真実味が増すな。だ、そうだがルード。楽しみだな」


 二人の言葉にルードレッドは一層頭を痛めていた。

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