第95話

「け、決着です! D組の勝者はご覧の二人です!!」


 爆発の煙が残っている間にグレイは他の選手を気絶させていた。魔法を斬ったのも他の選手にまぎれて行い、他の選手も魔法で倒されたように見せかけた。しかし、他組を勝ち抜いた者たちなどの実力者はグレイが行ったことに気がついていた。



「この後、舞台上で決勝トーナメントの組合せの抽選を行いますので控え室にいる選手の方々は舞台へとご登場下さい。D組の勝ち抜いたお二人はそのままでお願いします」



 グレイは舞台中央で待ち、エルフの魔法使いは取り乱した自分が恥ずかしくなり顔を赤くしながらグレイの側へと移動した。尚、倒れている選手達はその間にスタッフによって医務室へと運ばれていった。


 各組の予選通過者も順次控え室から姿を現し、グレイ達の周囲に集まっていく。選手同士に会話はなく、それぞれが様子を探り合っている様子だった。


 そこへアナウンスを担当している男がやってきた。


「皆様、予選突破おめでとうございます! それでは、早速で申し訳ありませんがこちらのくじを引いて下さい」


 男が用意した箱からA組、B組、C組、D組の順でくじをひいていく。グレイは七番目だった。



 くじ引きの結果は以下となった。


 第一試合:テネシー(第五部隊副長)VSレイショー(二刀の使い手)


 第二試合:グレイ(蒼太)     VSカルロス(Sランク冒険者)


 第三試合:サンタナ(第一部隊長) VSプラム(エルフの魔法使い)


 第四試合:ガルギス(白虎の獣人) VSトバイン(白虎の獣人)


 この結果はこの場でアナウンスより発表され、観客が会場を後にする頃には闘技場内の掲示板はもちろん、外の掲示板にもトーナメント表が記載されていた。



 トーナメントの賭けは闘技場の外でも行うことが出来るため、入場券を入手出来なかった者も掲示板の前でその結果を予想していた。第一試合はカルロスのお目こぼしを受けたという評価になっているレイショーの人気が低く、第二試合はSランクのカルロスが圧倒的な人気だった。第三試合は実績のあるサンタナが八対二で優性、第四試合は両者とも白虎の獣人ということもあり、五分五分といった掛け率になっていた。



 午前中は武闘王部門の予選が行われたが、午後は獣魔部門・集団部門の予選が行われる予定になっている為、個人戦の参加者は早々に闘技場を後にすることになった。


 蒼太は物陰で変装を解き、ディーナと合流すると闘技場の外の賭けの受付へと向かった。


「第二試合、グレイの勝ちにこれだけ賭ける」


 蒼太はカウンターの上に金貨を入れた袋をどかっと置いた。


「はい、おあずか……えっ!? こ、これ全部ですか?」


 受付の男は袋を開いて驚き、蒼太へと質問したが蒼太は黙って頷くだけだった。


「わ、わかりました。枚数を数えますので少々お待ち下さい。おい、ちょっと手伝ってくれ」


 受付の男性は奥で休憩していた職員を呼び二人がかりで枚数を数えていく。



 それから、数分後二度目のチェックが終わった。


「はい、それでは金貨200枚お預かりします」


 受付の男性は枚数のところだけ小さい声で言い、賭けの半券を蒼太へと渡した。


「あぁ、ありがとう。ディーナ、これでグレイが勝てば大もうけだな」


「はい!」


 そう話す二人を見て受付の男はカルロスに勝てるわけないだろうという気持ちと同時に、妙な自信を見せる二人を見ている内に、もしかしたらという気持ちが湧き上がっていた。



 二人はグレイ以外の試合の予想などを一通り見聞きした後、例の路地裏の店で腹を満たすことにした。今では迷わずに辿りつくことができた。近くまで行くと店から食欲をそそる匂いが漂ってきていた。店の中に入ると、いつものように女性店員が迎え入れてくれた。ここ一週間で蒼太達とだいぶ話すようになった彼女の名前はゾフィといい、シェフの名前はシルバンという名だった。


「いらっしゃいませー、ってソータとディーナじゃない。よく来たわね、武闘大会は面白かったかしら?」


「ゾフィさん、こんにちは。えへへ、美味しいから今日も来てしまいました」


「武闘大会はなかなか面白かったよ、強いやつらも何人か参加してたからな」


 二人は挨拶と質問の答えを返しながら、いつも通りの決まった席へとついた。



「さて、注文は何にする?」


 ゾフィは二人から返ってくる答えは予想出来ていたが、念のため聞いた。


「「シェフのお勧め!!」」


 ここ一週間通っていたが、シェフのお勧めは毎回違う料理でその全てにハズレがなかった、というよりも二人にとっては大当たりしかなかった。


「ふふっ、あなたたちは余程あの人の料理を気に入ってくれたのね。じゃあ、伝えてくるわ」


 そういうとゾフィはシルバンへと注文を伝えに行った。



「さてさて、今日は何が出てくるかな?」


「うーん、楽しみです! この待ってる時間がいいですよね!」


 二人が楽しみにしていると、ゾフィが一つの料理を運んできた。


「出来上がるまでこれでも食べてて、サービスよ」


 テーブルの上に来た料理は温野菜とトーストで中央にはバーニャ・カウダソースが器に入って置かれていた。二人は、一口食べて気に入り、二口食べると手が止まらなくなった。ソースはもちろんだったが、野菜も一級品を使っておりトーストも王都でも人気のパン屋から毎日仕入れているものだった。



 あっという間にそれを食べ終えた二人の顔には満足感が浮かんでいる。そこへ次の料理が運ばれてきた。


「はい、今日のお勧め。ブルーリーフィッシュの塩包み焼きに、十六種の野菜を使ったスープよ」


 ブルーリーフィッシュは繊細な魚でなかなか獲ることが出来ず、高級魚として扱われている。その魚を塩で包み、オーブンで焼いた料理だった。通常なら時間のかかる料理だったが、蒼太達が今日も来るだろうと予想し早めに仕込んでいたため、早々にテーブルに運ばれてきた。スープも前日から仕込んでおり、多種の野菜の旨みが出ていた。



 これらの料理の良し悪しは二人の顔を見たものならば瞬時に判断できただろう。

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