第三章
第80話
カレナの店を出た二人は、冒険者ギルドに遠出の報告に行ったがアイリやミルファはいなかったため事務的な報告のみで、ギルドを後にした。アイリは休日のため、ミルファはギルドマスターと共に来客の対応をしていたため席を外していたが、この日の受付は何故自分を呼ばなかったのか? とミルファの静かな怒りを買うことになるが、それは数時間後の話になる。
不動産屋でフーラに留守番を頼むと、宿に戻りゴルドンから食事を受け取った。
「長旅になるだろうから、多めに作っておいた」
その言葉の通り、五十食分用意されており全て異なる料理だった。
「ありがとうな」
「ありがとうございます」
ゴルドンは二人の言葉に右手を挙げて返事とし、その場を支払い担当のミルファーナに任せると再び厨房に戻っていった。
「すいません。あんな態度ですけど、料理を好きだと言ってくれたお二人のことを気に入っているんですよ」
料金を受け取りながら、ゴルドンのフォローをいれていた。
「あぁ、わかってるよ。手抜きのない料理からそれは伝わってきている。旅の楽しみが増えるから助かっていると伝えておいてくれるか?」
「私も、今まで食べた料理よりとても美味しいですって伝えておいて下さい」
ミルファーナは笑顔で頷いた。
宿を出て、北門から二人は旅立っていく。
見送りもなく、静かな旅立ちだったが二人の顔は晴れやかだった。それは目的はあるものの、純粋に旅を楽しもうという気持ちが大きいためだった。
旅立ちに際して、魔物や盗賊などとの戦闘を考えて蒼太はディーナとエドの装備を用意していた。エドには身体能力をあげる髪飾りをたてがみにつけ万が一戦闘になってもその身を自分で守ったり、素早く戦闘領域から退避出来るようにとのチョイスだった。
ディーナにはエルフが最も得意とする弓を長距離用として、近距離用としてはショートソードを用意した。その二つとも蒼太の亜空庫にしまわれていた過去の遺産だった。
弓は名を『銀弓』といい、その名の通りディーナの髪の色に良く似た銀色をしていた。素材は銀、ではなく白金に魔鉄を混ぜたものを使っており製作段階で魔力による強化も行われている。使用者は登録制で現登録者、もしくは製作者によってその更新が行うことができ、製作者の一人である蒼太が使用者をディーナへと書き換えていた。
矢には鉄のやじりの一般的なものを用意したが、放つ際に弓を通して魔力を矢に込め威力を増すことが出来る。また、矢がない場合でも魔力を強く込めることで、魔力矢を生成することが出来た。魔力矢は魔力を多く使うため、通常の矢も用意していた。
ショートソードは鉄鉱に魔鉄を混ぜた素材で作ったもので、魔力との親和性がやや高いものだった。
動作に機敏さを求める戦闘スタイルであるため、防具は再生能力を持つ竜鹿と呼ばれる竜の鱗を持つ鹿の魔物の革で作られた胸当てを選んだ。
それに比べて蒼太は鉄の剣と、革のマントという軽装備だったが蒼太は自分で装備の出し入れを行えるためこれで十分と判断していた。また、蒼太のことが伝わっている可能性も考え今回の旅から偽装の腕輪は外すことにした。
「それにしても、ディーナもなかなか激動の人生だな」
ふいに蒼太がそんなことをつぶやいた。ディーナは御者台の近くにいた為そのつぶやきが耳に入り返事を返す。
「そう、ですか?」
自分ではわかっていないため、疑問符のついた返事だった。
「元々その、王族内でもあまりよく思われていなかっただろ」
「ふふっ、気にしなくていいんですよ。母は正室でも側室でもなかったですからね。仕方ないことです」
ディーナは蒼太が気をまわして言葉を濁したことを嬉しく思い、笑みが浮かんだ。
「まぁ、それでだ。ソルディアの最後を見ることにもなったし、更には約千年間も封印されることになったわけだ。激動というか不遇というか」
「うーん、それでも兄さんとの繋がりも確認出来ましたし、封印されたからこそこうやってソータさんと旅が出来るわけですから……今はすごく幸せですよ?」
そういうディーナの顔は満面の笑顔だった。
「そ、そうか。それならよかった……変な話をしてすまなかったな」
後ろを振り返りながら話していた蒼太は、赤くなった自分の顔に気づいたため前を向いていた。
獣人族領までは、エルフの国以上に距離が離れておりいくつかの町や村を経由しながら進む予定になっていた。宿がある場合はそこで休み、小さい村で宿がない場合はマジックテントによる野宿をして旅を続けていく。
獣人族領へと近づくにつれて、冒険者や騎士、武芸者などが目に付くようになっていた。
中規模の街にたどり着き、宿をとることにした。
疲労の濃いディーナは部屋で休憩することにし、蒼太は一人で情報集めのため一階の酒場兼食堂へと向かった。
そこいたのは、そのほとんどが腕に自信がありそうな者達だった。
蒼太は疑問に思い、酒場のカウンターで酒を出している店員へと声をかける。
「なぁ、なんか武装してるやつらが多いけど近く何かあるのか?」
「あんた知らないでこの街に来たのか? ここに来るくらいだからてっきり武闘大会の参加者だと思ったぜ」
その店員は、髭を生やし強面だったが気のいい笑顔で蒼太の疑問に答えた。
「なるほどな、それでこんなに武装してるやつが多いのか」
「あんたもなかなかやりそうだな。武器は大したことのない物を持ってるが、実力を隠してるな」
店員は目を光らせて蒼太を見ている。鑑定スキルを使っている様子はなく、長年の経験からその力を読み取っていた。
「がはは、おいあんたも眼が曇ったもんだな。こんなガキが実力を隠してるだと? こんな細っこい身体じゃ俺様の一撃がかすっただけでぶっ殺しちまうぜ。なぁ、お前らもそう思うだろ?」
そう言った男は戦士風の装備で、その装備もレベルの高いものを持っていた。
男の後ろには仲間が数人おり、皆男の言葉に同調し蒼太のことを口汚く罵っていた。
「おい、やめねーか! 俺の客に絡むなら出て行け!!」
店員は睨みをきかせ、男達を怒鳴りつけるが男達は酔いがまわっていることもあり店員の言葉に耳を貸そうとしなかった。
「耄碌したあんたの言葉なんてこわかねーさ。それより、小僧。お前も武闘大会に参加するつもりなのか?」
「いや、俺は……」
「やめとけやめとけ、お前みたいなのが参加しても良くて怪我、悪けりゃ死ぬかもしれないぞ。がっはっは!」
自分は参加するつもりはない。そう答えようとした蒼太の言葉を遮るように男は言葉を被せてきた。
「どれ、俺が実力を試してやるよ」
男の仲間の一人がそう言って前に出てきた。長髪でともすればイケメンと呼ばれる部類なのかもしれないが、その顔には性格の悪さがありありと浮かんでいた。
「だから、俺はさん……」
「待て待てー!! お前ら、弱い者いじめは俺が許さんぞ!!」
参加しないと再度言おうとした蒼太の言葉は突如現れた獣人族の男によって再び遮られることとなった。
「今度は一体誰なんだ……」
蒼太はうなだれながらそうつぶやいた。
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