第70話
まず最初に訪れたのは不動産屋だった。家の管理を頼んでいたフーラに鍵を返してもらうために店の中へ入ると、彼女はカウンターで居眠りをしていた。
「フーラ。おい、フーラ起きてくれ」
声をかけても起きないため、蒼太はフーラの肩を揺らすことにした。
「フーラ、客だぞ。起きろ」
すると、やっと目を覚まし身体を起こす。
「ん、あー」
顔をあげると周囲を見渡し、蒼太がいることを確認し徐々に覚醒する。
「やっと起きたか、帰ってきたから鍵を返してもらいたいんだが……話聞いてるか?」
「ふわぁ……うーん。聞いてるよー」
あくびをし、伸びをして身体を目覚めさせ、やっと現在の状況を掴んだ。
「ふー、やっと身体が起きてきた。ごめんね昨日は書類の整理をしていて、寝るのが遅かったもので」
フーラは椅子から立ち上がると改めて挨拶をした。
「ソータさんおかえりなさい、早かったね。まさかひと月で帰ってくるとは思わなかったよ。目的は……達成できたのかな?」
蒼太の後ろにいるディーナとローリーに視線を移しながら質問をした。
「まぁな、ちなみに一人は俺の連れじゃなくエルミアの母親だぞ」
「ふえー、エルちゃんのお母さんかぁ、わっかいなあ。言われて見ると目元が似てないこともないような……って、そっちの金色の髪の人がエルちゃんのお母さんでいいのよね?」
ローリーを指差しながらフーラは訪ねた。
「はーい、あってまーす。エルミアちゃんのお母さんのローリーでっす。一応この街に住む予定なのでよろしくお願いします」
「……えーっと、本当に親子?」
ローリーに手をとられ握手をさせられているフーラは蒼太に最もな疑問を投げかけた。それに対して蒼太は無言で深く頷いた。
「まぁ、ローリーはこの街に住んでればまた会うこともあるだろうから挨拶もそのへんでいいだろ。とりあえず鍵を返してもらいたいんだが……」
「あ、そうだね。ちょっと待っててね」
そう言って奥の部屋に入り、しばらくして鍵を持ってきた。
「ごめんね、預かり物をなくしちゃ困るから金庫にいれてたんだ。お金のほうも今準備するね。えーっと……」
客商売は信頼が大事だと考えているフーラは、万が一を考え屋敷の手入れをする時以外は金庫に鍵をいれていた。また、貴重品とお金の金庫も別管理にしていた。
「あー、いやそれはまだ預かっておいてくれ。またしばらくしたら旅に出ることになると思うから、その金はその時のためにとっておいてくれるか?」
フーラは金庫をあけようと移動しようとしていた足を止め、蒼太の言葉に頷いた。
「わかったわ、必要になったら言って頂戴」
「それじゃ、確かに鍵は返してもらった。また旅に出る時は話にくるから、その時はよろしくな」
「はーい、またよろしくね。あと、ローリーさんとそっちのあなたもお部屋が必要になったら来て頂戴、賃貸物件の情報も入ってくるから」
「はい、その時はお願いしますね」
「わたしはとりあえず母さんのところにころがりこもうかなあ」
ディーナとローリーはそれぞれの反応を返して店を後にした。
不動産屋を出るとまっすぐ自宅へと向かった。
屋敷にたどり着くと、ディーナとローリーは屋敷を見あげた。
「ここがソータさんのお家ですか?」
ディーナは普通の一軒家を想像していたが、たどり着いてみたら屋敷サイズだったため驚いていた。
「そ、ソータさんお金持ちだねー」
ローリーも同じ想像をしていたため、屋敷の大きさに驚いていた。
「あぁ、拠点にするならある程度の広さは欲しかったからな。人が増えてもいいし、広いほうが閉塞感がなくていいだろ」
蒼太は二人の言葉に返答を返しながら、魔道具の鍵で家を開城した。
「い、今のって何? 何もないとこで鍵を回したよね?」
「あぁ、これか。これはそういう魔道具なんだ。昔の旅で仲間と一緒に作った」
ローリーは蒼太の言葉にショックを受けていた。初めて見た高いレベルの魔道具、しかもそれを目の前の彼が作ったという。もちろん錬金術のスキルだけでは作れない代物だったが、確かに使われているはずの未知の錬金術に驚いていた。
「まぁ、これも試作段階で開発やめたから世の中には出回ってないし、現存するのも2、3本くらいじゃないかなあ」
「その製法を教えて……もらうわけにはいかないだろうね」
蒼太は軽く横に首を振った。
「悪いがこれは無理だな、俺一人で作ったわけじゃないし、使いようによっては危険なものだからな。俺達が作ったものなら魔力で追えるからモノが流出してもどうにかなるが、それ以外に出来ると困る」
「だよねえ、ごめん。言ってみただけだから気にしないで」
ローリーは肩を落としながらも蒼太に謝罪した。
「さて、鍵も開いたし中に入ろうか」
門から中へ入るとエドの休憩場所を用意し馬車本体を外し解放する。
「じゃぁ、エド俺らは中にいるから何かあったら声をかけてくれ」
エドは蒼太の言葉に頷くと、水と食事を摂りに休憩場所へと移動した。
家の中に入り右のリビングへと二人を通すと、二人はソファに勢いよく座り込んだ。
「あー疲れたー」
「私もさすがに疲れました……」
長時間・長期間の移動による疲労、そこになれない場所に来たことでの精神的疲労が加わっており、それが休める場所へたどり着いたことでどっと襲ってきていた。
蒼太は一人疲れを見せず、二人の前に冷たい飲み物と食事を用意していた。その匂いで二人の食欲は刺激され、なんとか身体を起こすと勢いよく昼食を摂った。余程空腹だったらしく、蒼太はその後追加の食事を出すこととなる。
食事を終えると、二人はソファにもたれかかりそのまま眠りについてしまった。
「少し休んだらカレナの店に行く予定だったんだが……起こすのはかわいそうだよな」
蒼太は亜空庫から毛布を取り出し二人にかけると、器洗いと風呂沸かしを始めた。
二人が目を覚ましたのは日が暮れ始める頃だった。
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