第69話
「あんなに泣いてくれるとは思わなかったなー」
ローリーは馬車の中で膝を抱えて座りながら、目を泣き腫らし赤くしてつぶやいた。
三人は既にエルフの国を出て、トゥーラへと向かう道中だった。
蒼太は御者台でその声を聞きながら手綱を握り、ディーナは何も言わずハンカチをローリーへと手渡していた。
★
ローリーが旅立つことを決めた日、夕飯の際に蒼太達についていきトゥーラへ向かうことをアレゼルへと話した。
その話を聞いたアレゼルは顔面蒼白になり、食事をその場で切り上げ部屋へと篭ってしまった。
扉の前で皆がそれぞれ声をかけたが、反応はなかった。
翌朝食にもアレゼルは顔を見せず部屋に引き篭もったままだった。
結局そのまま三人は旅立ちの準備をすることとなった。
馬車の用意が終わり、いよいよ工房を離れる段になっても顔は見れずナルアスにだけ別れを告げた。
ローリーもいつもの明るさは影を潜め、馬車の中も沈んだ空気だった。
蒼太も口を開かず、無言で手綱を握り谷での検問へと進んだ。
そこで多少の時間はかかったが、短剣のこともあり以前に比べスムーズに話は進んだ。
ローリーの件も蒼太達に同行するということで、渋々ながらも通行の許可が降りた。
そして、検問を通過し馬車に乗り込んだ時遠くからローリー達を呼ぶ声が聞こえた。
時間的にどうやって蒼太達に追いついたのか謎だったが、アレゼルは検問を出発する前に追いついていた。
馬車から降りたローリーは息を切らせたアレゼルの下へと歩み寄る。
アレゼルは手紙をローリーに渡すとその場で大きな声で泣き出した。
「ごめんなさい、本当は、もっと話したかったのに、うわーん!!」
それを聞いたローリーも同じように涙を流した。
「いいの、わたしが急に、言ったがら、ちゃんと言わながったから!!」
それから二人は自分が悪いと言い合いながら涙を流し続けていた。
蒼太とディーナはそれを温かい目で見守っていたが、周りにいた職員は何事かと驚き遠巻きに二人を見ていた。
二十分程して、ようやく涙が落ち着いてきた二人は別れの言葉を交わした。
「ローリー様、逃げちゃってごめんなさい。ずっと一緒だったからショックでどうしていいかわからなくなって……」
「ううん、いいんだよ。わたしも何て声をかけたらいいかわからなくて、結局そのままにしちゃったから」
「でも……」
また同じループにはまりそうになっていた二人に蒼太が声をかけた。
「どっちが悪いとかはいいだろ、それよりこれでしばらくは会えなくなるんだ。何か話したいことがあるんじゃないのか?」
アレゼルは蒼太の言葉に頷いた。
「あの、今まで色々ありがとうございました。ローリー様と一緒ですっごくすっごく楽しかったです。師匠達が洞窟に向かった時も、ボクの話を聞いてすぐに行ってくれたし、すごく頼りになって……すごくかっこよかったです!」
話してる間に次々に目から涙がこぼれていたが、それでも途切れることなく言いたいことを口にした。
「ありがとう、わたしもアレゼルと一緒にいてすごく楽しかったよ。師匠もいれて三人での生活は本当に楽しかった。でもごめんね、エルミアを娘をずっと放ってはおけないんだ、アレゼルと同じくらいエルミアも大事な存在だから……」
二人の会話は続いていたが、蒼太はその話を聞かないように二人から距離をとった。
それからしばらく二人は語り合い、最後にアレゼルから手紙らしきものがローリーへと手渡された。それは蒼太とディーナの分もあり、二人はそれをローリーから受け取っていた。
最後には、二人とも笑顔で別れることが出来た。
★
蒼太は、手綱を握りながらアレゼルからの手紙を取り出し封を開けそれを読み始めた。
そこには助けたことへの礼に始まり、短い期間ながらアレゼルの思いがつづられており、最後にはローリーのことをよろしく頼むといった言葉で〆られていた。
「アレゼルとローリーはまるで姉妹みたいだな。離れる問題児の姉を心配する妹みたいな構図だ」
そのつぶやきは、風に乗ってどこかへと消えローリーへと届くことはなかった。
蒼太がアレゼルを助けた森にたどり着くと、入る前に一度休憩をとることにした。
鞄から座布団代わりの毛皮を取り出し、そこへ各自が座ると同じく鞄から取り出した食事を摂る。
休憩を終え森の中へ入るが、依然として魔素の濃さは感じるものの空間魔法の痕も既に消えていた。
どこからか見られているような気配を感じてはいたが、蒼太達へ何かを仕掛けてくる様子もないので、気にしないことにして少し早足で森を抜けた。
そこからトゥーラまでの道のりも何事も起きず、順調な旅となった。
途中、ローリーが飽きてしまい不穏なことをつぶやくこともあり、何かのフラグになるのではと内心不安を覚える蒼太だったが結局何事もなくトゥーラへとたどり着いた。
入場の前に蒼太は偽装の腕輪を身につけた。また、一人で旅に出たはずの蒼太が、二人のエルフを連れて帰ってきたことに驚かれたがエルミアの母であることを告げるとそれ以上の追及はされず、すんなりと通ることが出来た。
「まずは、俺の家に戻ろう。馬車を置いたらカレナの店に一緒に行こうか」
蒼太の提案に二人は頷いた。二人は馬車での長期間の旅にやや疲れを見せており、ゆったりと休める場所での休憩を望んでいたため、蒼太の提案は願ったりかなったりといった様子であった。
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