第62話


「狭いな……」


案内の男、名前をドルスと言う。その彼が用意した馬車は貴族の移動にも使われる馬車であり、本来の使用方法であれば十分な広さを確保できていた。




「狭いですね……」


ドルスも蒼太の言葉に同意した。




乗車定数四人の馬車に、現在乗っているのはソータ、ディーナ、ナルアス、アレゼル、ローリー、ドルスの六人だった。


「すいません、私も同乗する予定だったもので……別で馬に乗ってくればよかったのですが」


「いや、俺もまさか全員来ることになるとは思いもしなかったからな」


「す、すいません、ボクも付いてくつもりはなかったんですけど……」


全員の視線がローリーに集まる。




「ん? いいじゃない、せっかく面白そうなことになりそうなんだから、逃す手はないでしょ!」


洗い物を早めに終えていたローリーは蒼太達の会話を立ち聞きしており、新しい王に対して興味を持っていた。


そして、王城に行くなど恐れ多いと拒否していたアレゼルまで巻き込み同行させていた。


その結果がこのぎゅうぎゅう詰め状態だった。




蒼太は自分の馬車を出すかと提案したが、しばし考えた後ドルスに却下されていた。


城に迎え入れるには馬車自体の格が低いことが対外的に問題があるとのことだった。




「狭いのは城に着くまでの辛抱として……着いたらどういう流れになるかは聞いているのか?」


「えーっとですね、まず入城したら王や大臣の下へ連絡がいく事になっています。それから準備が出来るまで別室で待機して頂くことになると思います」


「ただ休憩するだけじゃつまらないから、お茶とお菓子用意してね」


ドルスの回答にローリーが注文をつけた。




「わ、わかりました。他の方々も何かご要望はありますか?」


ドルスはそう答えたが、ローリーはナルアスに頭を小突かれていた。


「何するんですか!」


「あなたという人は、少しは遠慮という言葉を覚えなさい!」


「えー、別にいいじゃないですか。ドルスさんもわかったって言ってるし」




そんなやりとりをする二人をよそに蒼太はドルスの問いに答える。


「特にはないが、俺らの待機する部屋に見張りをたてたり、話を盗み聞きするようなことはするなよ」


「そ、それは……」


「しても構わないが、その時はそいつらを敵とみなすからな」


蒼太は少し威圧的な態度になる。




「つ、伝えておきます」


ドルスは蒼太の目が笑っていないことから、本気であると受け取った。


そんな蒼太の隣に座るディーナは、それを咎めるでもなくただ笑顔で蒼太を見ていた。


実際、蒼太が敵とみなした場合でもこらしめる程度で酷いことはしないとわかっているゆえの反応であった。




アレゼルは城が近づいてくるごとにその緊張が増していた。


蒼太は前回の召喚時に城へ行ったことがあり、今回も人族の王城に召喚されている。


ディーナは元々王族であり、ナルアス・ローリーの二人は錬金術師として登城経験があったが、この中で唯一アレゼルだけは初体験だった。




「アレゼルさん、大丈夫ですか?」


ディーナが顔色の優れないアレゼルの手を握りながら声をかける。


「でぃ、ディーナ様。ぼ、ボクお城に行くのなんて初めてで、それなのに王様にも会うって……服もこんなだし」


師匠と姉弟子が依然として揉めていたため、頼ることが出来ず、そこに声をかけてくれたディーナのことがアレゼルは女神に見えていた。




「安心して下さい、みんな居ますし、相手方もこちらに格式などは求めていませんから。服についても、問題があればきっと用意してくれます。そうですよね?」


ディーナはアレゼルの手を握ったままドルスに笑顔を向けた。アレゼルからは縋るような視線が送られ、ドルスは逃げ場がなくなる。


「だ、大丈夫です。たぶん……」




「多分?」


蒼太が追い討ちをかけた。


「い、いえ、必ずご用意します!」


それが止めとなり、ドルスは肯定以外の答えをもてなかった。


「ん?」


馬車が止まったため、扉についている小窓から外を眺めるとどうやら城についたようだった。




御者が入り口でやりとりをしていたが、確認のために蒼太達の下へとやってきた。


扉をノックされる前にドルスが扉を開き対応をする。


「ドルス殿、こちらの方々が例の? それにしては、人数が……」


「こちらが王がお会いになりたいと望んだ方です、他の方は付き添いということで……人数の指定はされていませんから大丈夫だと思います」




門番の男達はジロジロと不躾に蒼太達を見ていたが、その態度にドルスが慌てた。


「も、もうよろしいですかな? 皆さんには時間を割いてきて頂いてるので、もう行きたいと思うのですが」


「あ、えぇ失礼しました。どうぞお通り下さい、御者には伝えてありますが入ったら扉の前で降りて頂いて中にお入り下さい」


ドルスの必死な表情に門番も職務を思い出し、門を開きに戻った。




馬車へと乗り込み、御者に合図すると馬車は動き出した。


「す、すいません。詳しい話は下の者には伝わっていなくて」


「気にしなくていい、入れれば問題ないさ」


蒼太は汗を浮かべるドルスにそう声をかけた。




門を抜け、しばらくすると再度馬車が停車した。


すると、外から扉があけられ執事服の男性がお辞儀をしていた。


入り口側にいたドルスが先に降り、その他の面々もそれに続く。


「ソータ様、ディーナ様、そして皆様いらっしゃいませ。ここからは私が案内させて頂きます。ドルス様、ここまでありがとうございました。職務に戻るよう伝え聞いております」


「わかりました、それではくれぐれ・・・・もよろしくお願いします」


ドルスはその言葉に色々な思いを込め、執事にそう声をかけた。




「それでは、私はここまでのようです。失礼します」


「あぁ、ありがとうな」


「ありがとうございました」




蒼太達に礼を言われその場を後にしたドルスは、蒼太達から姿が見えなくなると走り出していた。


「やばい、絶対に見張りを立ててるはずだ。早くとめないと!!」

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