第61話
食事を終え、蒼太による「ごちそうさま」についての説明が終わると洗い物担当のローリー以外は今後についての作戦会議に入った。
ローリーは外出している場合を除いて、料理ができない分、食後の洗い物を一手に担当している。
「それで、ここの王族は今後どういう動きをしてくると思う?」
「そうですね……私も今の王についてそんなに詳しくないんです。噂が真実なら悪いようにはならないと思いますが」
その言葉に蒼太は怪訝な顔をする。
「今の? ってことは代替わりしてるのか?」
ディーナはポンッと手を打った。
「ソータさんはエルフの王がどう代わるのか知らなかったんですね」
「普通に考えて、寿命が来るか、次世代に託したほうがいいと王が判断したらじゃないのか?」
「そうですね、エルフ族でもそういった理由で代替わりすることもあります。ですが、もう一つ建国以来決まっているルールがあるんです」
エルフの間では当たり前の知識らしく、アレゼル、ナルアスもディーナの言葉に頷いていた。
「もう一つのルール、在位期間は最長二百年と決まっています。エルフは長命ですが、一人の王による統制は国の未来を狭めていくというのが初代の王のお言葉なのです」
「なるほどな、じゃあ今の王ってのは即位してからそんなに経っていないのか?」
ナルアスは少し考えてから答える。
「確か、今年に入って即位されたんだと思います。確かソータさんが召喚された千年前からは二百年ごとに代わっていると思います」
「あの王様も二百年任期を全うしたんですね……」
ディーナ封印の最終決定を下した王が二百年後に代わったと聞いて出た言葉がそれだった。
封印されたおかげで再度蒼太に会うことが出来た喜びはあったが、それでも封印という結末にしかたどり着けなかった当時の自分の不甲斐なさを考えるとディーナは何ともいえない気持ちになっていた。
蒼太はそんなディーナの頭をぽんぽんと撫でた。
「それで、悪いようにならないっていうのが人族である俺が絡んでもその通りになるかだが……そろそろ来るんじゃないか?」
何かを感じ取った蒼太が扉に目を向けると、他の面々も同じように視線を動かした。
コンコン。
「あの、昨日訪ねた者ですが入ってもよろしいでしょうか?」
ノック音と共に、声が聞こえた。
ディーナ、ナルアス、アレゼルの三人はどうするのか、と蒼太の顔を見た。
「おいおい、俺を見るなよ。ここはナルアスの工房だろ、あんたが判断してくれ」
今度はナルアスに視線が集まる。
「えー、とりあえず昨日のような態度じゃなさそうなので入ってもらいましょうか。どうぞお入りください」
昨日とはうって変わって部屋へと入る動作にも慎重さが見え、扉をゆっくりと閉めていた。
「失礼します。昨日は失礼なことをしてしまったのに、入室を許可して頂きありがとうございます」
リーダー格の男は昨日とはうって変わって、平身低頭といった様子で何度も頭を下げながら部屋へと入ってくる。
「そこまで恐縮しなくても構いませんよ。別段、昨日のことは怒っていませんから」
ですよね? とナルアスは蒼太を見る。
蒼太は軽く頷く。
「それで、今日はどういったご用件でしょうか?」
「えー、まずは昨日の非礼に関しての謝罪を。申し訳ありませんでした」
頭が床につくのではないかという勢いで頭を下げた。
「別に気にしていないが謝罪は受け取ろう、それより本題は何なんだ?」
男は頭を上げると、言いづらそうに言葉を発する。
「えー、そのですね。昨日のことを報告したらですね、なんといいますか、ディーナ様とともにそちらの御仁にも王城に来てもらうように、と」
「城の騎士に手をあげた俺を連行しろということか?」
男は手と首を思い切り横に振る。その額には焦りからか大粒の汗が浮かんでいた。
「め、滅相もない。そんなことをしたら私の命がいくつあっても足りません。王はあなたのことを大そう気に入られた様子で、是非会ってみたいとのことでして……最初は自らこちらに訪ねるとおっしゃっていたのですが、大臣達がなんとかそれをお止めして、妥協案としてお二人に王城にきて頂くということで落ち着いたのです」
昨日の蒼太の態度を思い出した面々は、どこをどうして気に入ったのか疑問に思っていた。
「なんとも、思ってたのとはだいぶ印象が違うな。こっちに来てから会った、国に仕えるエルフたちからは想像出来ない奔放さだ」
「で、どうするんですか?」
ディーナが笑顔で蒼太に訪ねた。答は決まってるんでしょ? といった表情だった。
「仕方ない、行くか。ただ、今のこの国の情報をほとんど持っていないから、俺とディーナだけじゃなくナルアスにも付いて来てもらいたいが、構わないか?」
蒼太は男とナルアスの二人に尋ねる。
「私は構いませんが……」
「も、もちろんナルアス様にも同行して頂いて問題ありません。高名な錬金術士ということで身元も保証されていますし、同行者が増えても構わないと王もおっしゃっておりました。是非いらしてください」
城に行く流れになっているこの状況を逃すまいと、男はくい気味にナルアスの同行を求めた。
「わ、わかりました。私も同行しましょう」
「来てくれるならそれでいい……あとは、そうだな。俺は王相手でも特に態度を変えることはないと思うが、その辺は大丈夫か?」
男は一瞬言葉に詰まるが、連れてくることが最優先事項だという言葉を思い出す。
「だ、大丈夫だと思います。王はそのあたり寛大な方ですので、大臣達はどうかわかりませんが……」
後半はほとんど聞こえないような小さい声になっていた。
「まぁ、問題があったら帰ればいいか。今からすぐに行ったほうがいいのか?」
「い、いえ。数日中に来ていただけるなら良識の範囲内であればいつでも構わないとのことです。一応いつ来ていただけるかだけは教えて頂ければと思いますが」
男はここに来るまでに提示された条件を思い出しながらそれを口にした。
「二人が大丈夫なら、これから行こうと思うが……どうだ?」
「私は構いませんよ、ソータさんに付いて行きます」
ディーナは笑顔で。
「そう、ですね。後に延ばしてもいいことはないでしょうから、行きますか」
ナルアスは何か考えながら、答えた。
「と、いうわけだ。これからでも構わないか?」
「は、はい、大丈夫です。外に馬車を用意しておりますので、お乗り下さい」
すぐに来る可能性も考え、事前に馬車を用意しておいたことに男は内心でほっとしていた。
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