第57話
夕食はアレゼルが用意したシチュー・パン・サラダ、それに蒼太が用意した肉を使ったステーキや麺料理、カットされたフルーツがテーブルをにぎわせていた。
「すごい、ここ数年で一番豪華な食事になってる……」
ローリーは涎を垂らしながら、指をくわえていた。その目は光り輝いているようにも見える。
「ソータさんが色々提供してくれたので、ご馳走が出来ました」
アレゼルも満足そうに頷く。
「ソータさん、ありがとう! ローリーさんはとても嬉しいよ!!」
立ち上がり蒼太の側までくると、バンバンと肩を叩いた。
「あ、あぁ。喜んでくれたなら何よりだ」
無邪気で快活なローリーの振る舞いに血のつながりのあるカレナとエルミアから受けた印象とはかなりかけ離れていた為、蒼太はとまどいを隠せずにいた。
「ローリー、座りなさい。行儀が悪いぞ」
「はーい」
舌をぺろっと出すと、言われた通りに席へと戻る。
エルフ族の特性で若さを保った容姿、その子供っぽい態度から、蒼太はエルミアの母親であるいうことを今でも疑問に思っていた。
「ソータ殿、色々提供して頂きありがとうございます。皆研究ばかりしていて、食材のストックが少ないもので……」
「研究ばかり、ね」
蒼太の視線はローリーとアレゼルを順番に見ていた。
ローリーは今までの会話から受ける印象で、アレゼルは無鉄砲な性格から研究向きには見えなかった。
「わ、わたしだってちゃんと研究してるよ?」
「ボクだって! ……まだ見習いだけど」
二人は慌てて自己弁護をすると、フォローを期待してナルアスへと視線を送った。
「そうですね……二人ともちゃんと研究してますよ。ただローリーは研究に必要のないものを買ってきたり、明らかに研究の範疇を逸脱した趣味的なものを作ったりするくらいです」
「うっ!」
ローリーは痛いところを突かれ、肩を落とす。
「アレゼルも見習いながらがんばってくれてます。ただ、ソータ殿もご存知の通り一つ決めると突っ走ってしまうところがあって、結果誘拐されるという事件に巻き込まれたりする所が玉にキズですね」
「うぅ……ごめんなさい」
アレゼルも申し訳なさから下を向いた。
「色々欠点はあるものの、二人ともがんばってくれてますよ!」
二人が落ち込んでいることに気づかないまま、満足そうに締めくくった。
「ふふふ、ナルアスさんはお二人のことをとても良く思ってらっしゃるんですね」
「どこがですか! 二人揃って見事に落とされましたよ、とほほ」
微笑むディーナにローリーが思わず突っ込んだ。
「うーん、言葉では確かにローリーさんがおっしゃる通りですが、がんばってくれていると言った時のナルアスさんのお顔はとても嬉しそうでしたよ」
指摘されたナルアスの顔は耳まで真っ赤になる。
「「師匠!」」
二人は顔をあげると茹蛸のようなナルアスへと抱きついた。
「ふ、二人とも離れるんだ!」
「いいじゃないですかー」
「そうですよ、照れないで下さい」
和気藹々とじゃれあう三人を見守りながらディーナは幸せそうな表情を浮かべていた。
「ふふっ、仲良きことは美しいですね。そう思いませんか? ソータさん」
「ん? あぁ、そうだな。それより早くメシを食わないか? 腹が減ってるんだが……」
「そうですね、このままでは冷めてしまいますね」
ディーナは手をパンパンと叩き、注目を集める。
「仲がよろしくて私はとても良いと思うのですが、せっかくの料理が冷めてしまいますのでそろそろ皆さんで食事を頂きませんか?」
話の流れを変えたディーナが言っているということは誰も気づかず、彼女の復活のお祝いだということを思い出しそれぞれ自分の席へと戻る。
「も、申し訳ありませんでした。弟子達が騒いでしまって」
「ごめんなさいです」
「ごめんなさーい」
ナルアス、アレゼル、ローリーの順番で頭を下げた。
「そんなに謝るほどのことでもないと思うが、それより食事を始めよう」
「そうですね、それでは……私の復活を祝して、かんぱーい!!」
「「「かんぱーい」」」
「って、お前が音頭を取るのかよ」
「これ美味しい!」
「このお肉とろけますー」
「この麺料理は何というんでしょうか? スープと麺の一体感が素晴らしい!」
蒼太の突っ込みは祝賀会という名の喧騒に飲み込まれていったが、ディーナの耳にだけは届いていたようで、笑顔を蒼太に向けていた。
★
食後
「さて、空腹も満たされた所でディーナの話を聞かせてもらおうか」
「く、くるじい」
「もう、入らないです」
蒼太が話を振る横で、ローリーとアレゼルは食べすぎた為寝転がっていた。
「……とりあえずあの二人のことは放っておいて、話を進めて下さい」
ナルアスは眉間の皺を指で押しながら次の言葉を促した。
「そうですねぇ……ソータさん、皆さんには聞いてもらってもよろしいのでしょうか?」
「あー、どうしたもんかね。他言無用を守れるなら聞いてもらってもいいが……難しいなら部屋から出てもらったほうがいいな」
蒼太が三人へ順番に視線を送ると、ローリーが立ち上がる。
「わたしはパスで、難しいこと聞いても困っちゃうだけだし、秘密にするつもりでも万が一ってことがあるからね」
部屋を出て行くローリーの背中を見つめながらアレゼルは悩むが、その背中を追うことにした。
「ボ、ボクも出ておきます!」
扉の前で一度振り返りおじぎをしてから外へと出て行った。
「と、いうことみたいだが。ナルアスは残るということでいいのか?」
「えぇ、私は彼女たちより長く生きていますからソータ殿やディーナ様のことも聞かされています……その真実を本人から聞けるなんて夢のような話じゃないですか」
少し茶化すような言い方だったが、その表情は真剣そのものだった。
「それじゃ、記憶石で言ってたソルディアとディーナのユニークスキルのことから話してもらえるか?」
千年前に蒼太と共に戦ったエルフ族の勇者ソルディア。
ディーナと彼は双子の兄妹であり、二人には誰にも言っていないユニークスキルを持っていた。
「わかりました、私と兄さんは……」
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