第58話
「わかりました。まずはスキルの説明から始めますね……私と兄さんは二人で同じユニークスキルを持っていました。これは私達二人が揃わないと意味を持たないスキルです。名前を『ペアコネクト』と言います」
「二人の間で情報を共有するスキルといったところか」
蒼太は、スキル名や記憶石での話から能力の予想をしており、その考えを伝えた。
そうだというようにディーナは頷く。
「大きくはその認識で正しいです。距離が離れれば離れるほどその精度は落ちますが、国内であればほぼ問題なく使えていました」
「有効範囲は広いと言えば広いが、俺達の旅はエルフ国外での活動がほとんどだったから結局のところあまり役にはたたなそうだな」
蒼太は自分達の旅のことも認識していたのでは? と予想していたがそれは外れた。
「そうですね、実際私達が使ったのも子供の頃どっちかが体調崩して学園を休んだ時に、授業を受けずに学んだりとかその程度にしか使っていませんでしたからね」
「便利、ですけど……ユニークスキルとしてはちょっと弱いようにも感じますね。ユニークスキルと言えば唯一無二の強力なものが多いと聞いています」
ナルアスの言葉はおおよそ当たっており、ピーキーなものが多いがそれでも強者と呼ばれるような者の多くはそれを持っていた。
蒼太が前回の召喚で与えられた『魔を断つ剣』も魔族相手にだけ特化したスキルだった。
他にも魔族以外にも固有種族に対してのみ威力を発揮するスキルや、特殊な肉体強化スキルなどがあるが、それらと比較して『ペアコネクト』は明らかに見劣りするスキルであった。
「私もそう思ってました、ちょっと便利なだけのスキルだと。ですが、ソータさん達が魔王を倒したあの日にその認識は変わりました」
蒼太が送還され、仲間全員が亡くなったと言われているあの日。
「あの日、兄さんは最後の瞬間にペアコネクトを使用しました。正確なところはわかりませんが、なんらかの条件で現在進行形の情報だけでなく、使用前後の記憶を送れるんだと思います」
そこまで言うとひとつ呼吸をし、ディーナは目を瞑りあの日を思い出すように情景を思い浮かべていく。
「魔王城に向かっているはずの兄さんからのコネクトを受けて、何か起こったのかと思い許可するとそこに兄さんが見てる光景が映し出されました。そこには既にソータさんの姿はなく、人族のお姫様が表情を失って膝をついていました」
「ということは、俺が姫さんに送還された後ってことなのか?」
蒼太の質問にディーナは頷いた。
「おそらくそうだと思います。お姫様の顔を見るに、送還魔法を使用して魔力喪失状態に陥っていたのだと……」
送還魔法は対象者がいた世界への道を正しく繋げるため、ランダムに繋げる召喚魔法よりも必要とされる魔力量が桁違いに大きかった。
「魔王を倒したあの時、送還魔法で送り返されたってのは本当の話だったんだな。ということは、俺がみんなを殺したのか?」
ディーナはその問いには首を横に振った。
「ペアコネクト発動時点で蒼太さんは既にいませんでした」
「じゃあ、その時点ではエルフの勇者様は生きてらしたんですね」
「はい、兄さんは送還魔法が発動されたことに驚いてお姫様に視線を送っていました。その時、同時に視界に入っていたのが倒れた竜人族の勇者さんでした」
「一体誰があいつを?」
蒼太は二人に聞こえるか聞こえないか程度の小さな声でつぶやいたが、ディーナは話を続ける。
「兄さんも彼が倒れていることに驚いて辺りを確認しようとしました。そして後ろを向いた瞬間私は、いえ兄さんはお腹を刺されました、刺した相手は見覚えのない顔でしたが人族の方でした。おそらくこの瞬間にペアコネクトを使ったんだと思います……」
「人族? あの場所にいたのは俺と姫さんだけだったはずだが……」
「ソータさんより少し年齢は上にみえました。髪の色はお姫様と同じ色で短髪、少し彫りの深い顔立ちでした……それと、右の耳に狼を模したアクセサリをつけていたかと」
最後の一言で蒼太は誰だったのか確信を持ち、何故? という疑問を覚えていた。
「そいつは……人族の勇者だった男だ」
ディーナは小首を傾げた。
「人族の勇者はソータさんじゃないんですか?」
「いや、俺はこの世界で言えば人族にあたるが、正確には異世界人の勇者になる。だから俺とは別に本来選ばれるはずだった人族の勇者がいたんだよ」
二人、特にナルアスはその言葉に驚いていた。
物語では各国から勇者が選抜され、人族からは蒼太と姫が選ばれており、それに疑問を持ったことがなかった。
それはナルアスに限らず、物語を読んだことのあるほとんどの人間がそう思いこんでいた。
「勇者召喚に失敗していた場合でも人族の王は、各国から勇者を選抜しての魔王討伐を行う予定だったんだ。その時はそいつが行くことになっていた」
「その人が兄さんを……」
「おそらくな……あいつは姫さんの兄であり、あの国の第一王位継承者だ。そいつならディーナの言う特徴に当てはまる」
ディーナは自分の兄を殺した犯人がわかり、沈痛な面持ちになった。
ナルアスは何も言えず、悲しみをたたえた表情でディーナのことを見ている。
「寿命を考えて、既に生きてはいないだろうが……なぜ、あいつがそんなことをしたのかがわからんな。何か他にあいつのことで気づいたことはあるか?」
ディーナは口元に人差し指をあて考え込む。
「……すいません、刺されてそのまま兄さんは倒れてしまったので、一瞬顔を見ただけです。ただ、他にも誰かを見たような気が……ごめんなさい、気のせいかもしれません」
「その人族の勇者の方か、他にいた誰か? がソータさん達のことを物語として残したんでしょうか?」
「可能性はある。あそこにいた他の面々は死ぬか送還されたわけだ。となると、生き残ってるそいつらしか状況を把握できた者はいないだろう。まぁ、いくつか嘘を交えてるところをみると真実味を持たせつつも隠したい情報があったみたいだが」
三人は黙り込み、しばし思索に耽った。
沈黙が部屋を支配すると、外の音が聞こえてきた。
「ちょ、ちょっと待ってください。今は部屋には入れません!」
その声に気づいた三人は揃って扉に目をやった。
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