第56話
「ん、こ、ここは……」
三人の後方では、ローリーのインパクトで忘れ去られそうになったディーナが目を覚ましていた。
「ディーナ、無事か?」
「あれ、ソータさん?」
駆け寄った蒼太の顔を見て、最初は何故? と疑問が浮かび小首をかしげる。
「ソータさん!!」
次に蒼太が自分の目の前にいることの意味を思い出しその目を見開く。その目には涙が溢れていた。
「ソータさん、みんなが! 兄さんが!!」
「わかってる、わかってるよ」
蒼太はそれだけ言うと強くディーナのことを抱きしめ、そのまま彼女は蒼太の胸元でしゃくりをあげ泣き続けた。
彼女の泣き声は魔物のいなくなったフロアの静寂を破るように響き渡った。
しばらくすると、落ち着いたのかディーナは泣き止んだ。
「ディーナ?」
蒼太が声をかけると、返事はない。
「ディーナ、おいディーナ」
身体を引き剥がし、その顔を確認すると目尻から涙をこぼしたまま寝息を立てていた。
「寝たのか……復活していきなりあれだけ泣けば疲れもするか」
「なんというか、すごい方ですね」
ナルアスはイメージと違ったため、そんな言葉を。
「うーん、結構かわいいかも?」
イメージは持たず、印象だけのローリーはそんな言葉を。
「相変わらずだが、元気そうで安心した」
当時の彼女のことを知る蒼太はそんな言葉で彼女を表した。
「いつまでもここにいるわけにはいかないな……ディーナは俺が連れて行くから戻ろう」
蒼太はディーナを俗に言うお姫様抱っこスタイルで抱えた。
「そう、ですね。目的は果たせましたからね」
「あー、お腹ぺこぺこ。師匠、ピンチを救ったんだから今日はごちそうにして下さいね」
「はぁ、全くあなたという子は。でも、ディーナ様が復活したとなるとお祝いしないとですね」
「こいつは昔からみんなでわいわいやるのが好きだったからな、きっと喜ぶはずだ」
三人は安心したように眠るディーナの寝顔を見て、自然と顔を綻ばせていた。
★
ナルアスの工房
ディーナが寝ていたためゆっくりとした進行速度で、さらに道中魔物に襲われたため工房に着いた頃には日が傾き始めていた。
工房の扉を開けると、その音でディーナは目を覚ます。
「ん、あれ、ソータさん」
目をこすりながら、それだけ口にすると思考がハッキリしてきたのか徐々に現状を理解し始めた。
「あ、あぁぁぁああぁ、私ったら何てことを! いきなり大泣きして、そのまま寝ちゃったんですね……」
両手を顔を覆い首を横に振る。手で隠された部分はわからないが、その耳は真っ赤に染まっていた。
「ディーナ、自分で立てるか?」
「えっ、はい。大丈夫だと思います」
蒼太はゆっくりと足からディーナを下ろしていく。
千年間封印されていたが、その身の時間経過も同時に止められていたため筋肉の衰えもなく、すんなりと立つことができた。
後ろで一つ縛りにされている銀の髪を揺らしながら、その場でくるんと一回転し自分の状態を確認していく。
「うん、大丈夫です。ソータさんありがとうございます」
「あぁ、気にするな。それより、現状の説明とお前が知っていることを聞きたいんだが大丈夫か?」
「そうですね、体調のほうは大丈夫みたいです。そちらのお二人のことも聞きたいですし、落ち着ける場所で話せたらと思います」
「ディーナ様、私は宮廷画家だったクルゴの娘。錬金術士のナルアスと申します。こちらが私の工房になりますので、よろしければそこでお話できればと思っております」
緊張が伝わってきたため、ローリーは笑いがこみ上げてきた。
「ぷっ、あはは。し、師匠が緊張してる」
「ローリー!!」
せっかく出会えたディーナに敬意を示そうとしたところに茶化され、ナルアスは顔を真っ赤にして逃げ回るローリーを追いかけた。
「ふふっ、良い方たちみたいですね。昔からソータさんの周りには良い人が集まります」
「どうだかな、それより中に入ろう。ここは工房だが応接室もある。そこで話をしよう」
「はい!」
追いかけっこをしている二人を尻目に先行する蒼太の後をディーナは笑顔で着いて行った。
応接室に入ると、スープの香りが漂っていた。
「アレゼル、ディーナを連れて戻ったぞ」
その声を聞きつけ、アレゼルが奥からエプロンをつけたまま飛び出してきた。
「おかえりなさい! あ、あなたがディーナ様ですね。ボクはナルアスの弟子で錬金術師見習いのアレゼルと申します、よろしくです」
「ふふっ、可愛い錬金術士さんですね。私はディーナリウスです、よろしくお願いしますね」
ディーナはアレゼルの頭を撫でながら微笑んだ。
「ふ、ふああ、か、可愛いってボクのことですか? そんなディーナ様みたいな美人に褒められるなんて! 嬉しいです!!」
アレゼルは喜びその場で跳ね回った。
「アレゼル、アレゼル。嬉しいのはわかったから少し落ち着いてくれ。あの二人が戻ってきたら夕飯にしたいんだが大丈夫か?」
「二人ってことは、ローリー様にも会えたんですね。よかったぁ、洞窟に行ったことを話したら、止める間もなく走って行ったから心配してたんですよ」
ほっと安堵の表情になる。
「あ、ご飯ですけど戻ってくるかもと思って一応作っておきました。いつも作ってるようなものだからご馳走とかじゃないですけど……はっ、ディーナ様のお口に合うかな?」
口元に手をあて、どうしようと困った表情に、とコロコロ表情のかわるアレゼルを見て、蒼太とディーナは思わずふきだしてしまった。
「余り気を使わないで下さい、私の母は元々メイドで一般的な家庭料理を得意とする方でしたから、むしろそういったものを食べる機会の方が多かったんですよ」
「ふえぇ、そうだったんですか。てっきり王女様だからご馳走ばかり食べてたのかと……あ、ごめんなさい」
失礼なことを言ったと思い、急いで頭を下げた。
「アレゼル、話が進まん。とにかくメシを食おう。俺のほうでもいくつか食い物を出すから、それで少しは豪華になるだろ」
「あ、はい。そうですね、今用意しますね」
アレゼルは踵を返し、キッチンへと戻っていった。
「はぁはぁ、ソータ殿置いていくとは酷いですよ」
「はぁはぁ、師匠ったら思いっきり殴るんだからなあ」
アレゼルが奥に行ったのと同時タイミングで、ナルアスとローリーも部屋へと飛び込んできた。
「二人とも、そろそろ夕飯になる。席につくといい……それと、汗を拭け」
亜空庫から取り出した布を二人に渡し、椅子に腰掛ける。その隣にはディーナが既に座っていた。
「色々話はあるが、まぁ全てはメシを食ってからにしよう」
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