第14話
ミルファが手で指し示すそこは街の中心からは外れていたが、立派な一軒家があった。
「ソータさんの出した条件は満たしていると思います。まずお風呂ですがご自分で水を汲むことにはなりますが設置されています。裏に井戸がありますのでそれが使えますね」
「おーそれはいいな」
蒼太の眼はキラキラと輝いている。
「更に、お部屋ですが……外で立ち話もなんなので、中に入りましょうか。鍵は預かってますので」
「それがいい、入ろう!」
ミルファが鍵を開け先に入る。
ガチャ
玄関を開けると、広めの玄関ホール、左右の部屋へと続く扉、奥へと続く廊下、そして二階へ向かう大きな階段がある。
「どうぞ、まずは一階の説明からしますね。入って右手にリビングとキッチン、左手にいくと大部屋が、階段の横を通って奥に行くとトイレとお風呂があります」
ミルファは家の見取り図を手にしながら説明する。
「おー、期待通り、いや期待以上だよ」
リビングに入りあたりを見回しながらキッチンへと進む。
「一階の左手奥にも部屋が二つあります。こちらは個人部屋くらいの広さですね」
「いいねえ、平屋でも十分な広さだな」
蒼太の喜ぶ顔を見て、ミルファの顔も綻ぶ。
一通り一階の部屋、トイレ、風呂を確認すると玄関ホールへと戻ってくる。
「風呂が思ってたより広くていいな。何より木製ってところがすごくいい、結構いい木を使ってるし」
日本のヒノキ風呂を思い出させるような風呂であることに蒼太の満足度は高かった。
「この家の特徴の一つですね。それじゃ次は二階にいきましょう」
そういうミルファの表情は微笑する程度だった。しかし、二階へと先導するため蒼太の前を歩くと表情が緩み微笑から笑顔へと変わっていた。
「二階は個室のみになっています。左右で対照的な作りで、それぞれ小さめの個室が二つずつ大きな寝室が一つずつになります」
「一階もそうだったけど、小さめの個室ってのが結構広いな。そして大きな寝室ってのがそのものかなり広い」
「いかがですか? ソータさんの条件よりも部屋数が多いですが」
一通り個室を見て、寝室の一つへ行くとミルファが感想を尋ねる。
「いいね、部屋数が多いのは構わないし、何より風呂がいい。トイレも魔道具が使ってあって清潔が保たれる作りになってる」
「喜んで頂けたようでよかったです」
「……問題は金額だな。まさかタダってわけにはいかないだろうし、中心部から離れてるが一軒家というより屋敷だからなあ」
ミルファはカバンから書類を取り出す。
「……そうですね、こちらの落ち度を計算にいれてもさすがにタダという訳には……」
「一体いくらなんだ?」
「元々の金額が金貨1200枚で、ギルドマスターの仲介で1000枚に割引、そこから誠意で金貨800枚引きで金貨200枚でいいそうです」
金貨200枚といえば、日本円にして2000万程度に値する金額でポンッと出せる額ではなかった。
「割引額が半端ないな……誠意で1000枚ってのは予想外だったな」
「それだけ今回のことがまずいってことです。他のギルドマスターに知れたらおそらく大問題になりかねません……それとソータさんへのグランからの期待込みってところでしょうね」
「ありがたいが、今の手持ちを考えると200枚は出せないなあ」
いい物件だけに渋い顔になる。蒼太の予定では平屋で個室3つリビング1つキッチン一つで風呂付くらいを想定していたため金額に大きくずれが出来てしまった。
「うーん、でもいい家なんだよなあ」
「……一つマスターから提案があります。ある依頼を達成して頂ければ無料でいいとのことです」
ミルファは言いずらそうにする。
「その顔を見ると、簡単な依頼じゃないんだろうな。まあ金貨200枚分となるとそれなりだろうとは思うが」
「そう……ですね、正直私はお勧め出来ません。危険すぎます」
「俺の実力を見た上で危険ってことは相当だな……一体なんなんだ、教えてくれ」
やる気になっている蒼太を見て、ミルファはため息まじりに答える。
「はぁ、仕方ないですね。依頼難易度でいえばSランクにも相当すると思います、内容は……お手数かもしれませんがギルドマスターのところで話すとのことです」
「はぁ、そいつはお手数だな。まあいい、行こうか」
蒼太もため息をつく。
★
ギルドマスタールーム
蒼太がグランだけいるだろうと思っていた部屋には、グランと身なりのいい老人、その護衛の騎士らしい男がいた。
ミルファは知っていたようで驚く様子なくグランの後ろへと移動する。
「おぉ、ソータか。よく来たな」
「白々しいな、俺があんたの言う依頼に興味を持つってわかってたんだろ」
蒼太の言葉に、グランの頬を汗がつたう。
「す、すまんな。まわりくどいやり方かもしれんが、家を先に見てもらいたかったのと特別な依頼なので依頼主に会ってもらいたかったんだ」
「まあ、いいさ。で、そっちのじいさんが依頼主なのか?」
蒼太の言葉に護衛は腰の剣に手を当てる、その瞬間蒼太が威圧を使おうとするがその前に護衛の動きを老人が手で制す。
『威圧スキルを覚えた』
「すまんなうちのものが失礼をした……わしが依頼主のエルバスじゃ。一応このあたりの領主をやっとる、こいつはわしの護衛でついてきた騎士のダンじゃ」
あごの白髭をさわりながら自己紹介をする。口調は柔らかいが眼光は鋭く蒼太を見定めようとしている。
「ってことは貴族か。強そうな騎士様もついているのに、一体何の依頼なんだ?」
不遜な態度の蒼太にダンはいらだつ。
「おいお前、ソータと言ったか? 伯爵様に対して無礼だぞ」
今度は剣には手を出さないが、今にも殴りかかろうといわんばかりの形相で蒼太の前に立つ。今度はエルバスも止める様子がない。
「はぁ、依頼をしたいのかそうじゃないのかハッキリしてくれ」
ダンを無視してエルバスへと話しかける蒼太に護衛は目を見開く。
「貴様あ!!!」
ダンは拳を振り上げる、がその拳が蒼太に届こうかという瞬間そのまま気絶して倒れてしまう。
ドスーンッ!
「ほっほっほ、ダンが何も出来ずに気絶とはな。グランが紹介するだけのことはあるわい」
エルバスは気絶したダンへ興味を向けることはなく、蒼太に興味津々といった様子だ。
そのダンはというと、ミルファがかけより回復魔法をかけている。
「して、一体ダンに何をしたんじゃ? 手を出したようには見えんかったが」
「ただ威圧しただけだ、それにこいつが耐えられなかっただけだな。騎士の質を見直したほうがいいんじゃないか?」
「ほう、威圧だけでダンを倒すとはのう……お主ならわしの依頼を頼めそうじゃな」
自分の部下をけなされたことなど意にも介さず話を進める。
蒼太はこれで怒るようなら面倒だと話を突っぱねようかとも思っていたが、よくいるプライドだけ高い貴族とは違うようだと思い、話を聞いてみようと思った。
「……依頼ってのはなんだ?」
「うむ、やっと話が出来そうじゃな……わしには孫娘がおる名前はエリナという。息子達夫婦はエリナを産んですぐに亡くなってしまっての、病気じゃった」
エルバスは悲しい顔はせず、伝えるために淡々と話す。
「そのエリナが病気になってしまった。息子達と同じ病気じゃ。知っておるか? 『石熱病』といっての、身体は熱くなり高熱にみまわれ、身体は末端から徐々に石化していく。一説には魔力の循環障害だとも言われている」
「名前だけは昔聞いたことがあるな。実際には見たことがないが」
「うむ、この病気はな、罹患してから1ヶ月程度で命を失ってしまうんじゃ。エリナはかかってから既に1週間経っておる」
蒼太は眉間にしわを寄せながら質問する。
「それで、俺に依頼か。どこまで揃ってるんだ?」
治療法を覚えていた。特効薬と言われるものがあり、その素材の収集難易度が高いことを。
「治療法を知っておったか……薬の材料はほとんど揃っておる、ただ……最後の竜の肝だけが準備できんでな。わしのツテを使ってほうぼうに問い合わせたんじゃが、手に入らんかったのじゃ」
蒼太は竜の爪や皮などの素材は持っていたが、肝や心臓などの内臓系は持っていなかった。
「わしからも頼む、エリナはわしにとっても孫のようなもんなんだ」
グランも頭を下げる。その後ろではミルファが、更にはいつの間にか眼を覚ましたダンも頭を下げている。
「さっきのことは謝る、だからエルバス様の依頼を受けてくれ。お前ならきっと……」
「……わかった、そんなに頭を下げなくても俺が取ってきてやるよ。竜の居場所はわかっているのか?」
「受けて……くれるのか? 竜はここから東に一週間程行った所にある山の頂上に住んでおると言われている。ここらへんでは騎士団も冒険者も近づかんような山じゃ」
ミルファも口を開く。
「通称『死の山』と呼ばれています。竜の住みかであるだけで危険なのですが、そこに生息するモンスターもA~Bランク指定となっていて何人も帰らなかった冒険者がいます」
「それもあって、わしの許可がない限り死の山への挑戦は禁じておる」
「ふーん、まあ行ってみるさ。それより竜の肝を持ってきたら家のこと頼むぞ、俺が行ってる間に家が売れたとかなったら肝は渡さないからな」
「わ、わかっとる。家のほうはわしとエルバスの権力でおさえておるから安心せい」
「ソータさん、生きて帰ってきて下さいね」
ミルファは泣きそうな顔で懇願する。
「あぁ、大丈夫だ問題ない。準備があるから、俺はもう行くぞ」
「ソータ殿、頼みます。なにとぞ孫を救ってくだされ」
エルバスに続いて他の面々も再度頭を下げる。
それを一瞥すると、蒼太は部屋を出て行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます