第13話
ギルドでの決闘から数日間、蒼太は低ランクの依頼をこなし日銭を稼いでいた。
それも採取系の依頼ではなく、雑用系の依頼を。
例えば、引越しの手伝いをして欲しい。家の解体を手伝って欲しい。荷物運びをお願いしたい。屋敷の掃除をしてほしい。店番を頼みたいなどなど。
『冒険』に重きをおく昨今の冒険者では選ぶ者が少ないであろう依頼ばかりをこなしていた。
蒼太がこんな依頼ばかりを選ぶことにミルファやグランは困惑していた。
彼ほどの実力があれば難しい依頼をこなしてもらいたいというのが本心であったが、低ランクの普段なら焦げ付いてしまうような依頼をこなしているため、それを強く言うことも出来ずにいた。
しかし、蒼太がその依頼を選ぶのにも彼なりの理由があった。
一つは実力相応のものを選ぼうとすると指定ランクでひっかかってしまう。ランク指定がない難易度の高いものでは実力を疑われて他の冒険者と揉めることがある。
一つはDランクのものを選ぼうとすると簡単すぎてすぐ終わってしまい、怪しまれる。
最後の理由としては、そういう依頼を選ぶ者が少ないため依頼が滞ってしまう為それを解消しようと思ったから。
困っている人を助けたいという程の高尚な理由ではなく、そこを解決することで街の流れがよくなると考えたためだった。
街の流れがよくなれば、ひいては自分も過ごしやすくなる。
それが彼が低ランクの依頼ばかりを選ぶ理由である。
付け加えると、金には困っていないというのもあるのかもしれない。
どんな理由で動いてるにせよ、引き受け手の少なかった依頼を進んで受けている蒼太のことを街の住民は認めて歓迎している。
それを面白く思わないのは他の低ランクの冒険者達だった。
しかし、ギルドで蒼太にからもうとするとガル・ゲル・ゴル三兄弟が間に入り相手にされず。
かといって蒼太が受けるような依頼を先回りして受けた者は、慣れていない内容であるがゆえに達成できず、自らの評価を落とし未達成の罰金を払うことになってしまう。
街の中でからもうとすると、後をつけても見失ってしまう。
もしくは後をつけていることが、蒼太を気に入っている住人に見つかると衛兵やギルドに報告して邪魔をされていた。
そんなこんなで蒼太は住民からの評価を上げ、他の低ランク冒険者たちは評価を下げるといった現状であった。
中ランク・高ランクの冒険者達には蒼太の実力を感じとる者や三兄弟に話を聞いた者などがおり蒼太の実力を低く見る者は少なかった。
朝から夕方まで依頼をこなし、ギルドへ報告し宿屋へ帰る。
それが蒼太の一日のサイクルになっていたが、その一つが変わる連絡があった。
早朝、宿屋の食堂で朝食を摂っているとそこへミルファがやってきた。
「ソータさん、お食事中すいません。お話があるんですがよろしいですか?」
「もぐもぐ、食いながらでもいいなら構わない。そっちに座ってくれ」
蒼太に促されるまま向かいの席に座る。
「で、話ってのはなんだ?」
食事が一段落し、ナプキンで口をふき水を飲むと話を促す。
「はい、この間の決闘のある意味報酬のソータさんに紹介する家がみつかりましたので、ソータさんの都合さえよければご案内させていただこうかと思いうかがいました」
「おー、結構早かったな。もっとかかると思ってた。都合なら大丈夫だ、毎日依頼こなしてたからちょうど今日か明日を休養日にしようかと思ってたところだ」
「それはよかったです、ソータさんが準備出来次第出発でもよろしいですか?」
人差し指をあごに当てながらたずねる。
「俺ならすぐにいける。いつでも出かけられるように荷物は持ってきてる」
傍らにおいた自分の荷物を指差し、腰を上げようとするとミリが蒼太たちのテーブルへと来た。
空いた皿を片付けに来た、というのとは少し違った様子で表情は真剣だった。
「どうしたんだ、ミリ」
「……ソータさん、出てっちゃうんですか?」
どこか寂しそうな口調で言う。
「そうだ。この間ギルドで決闘してな、その報酬で家を紹介してもらうことになってたんだ。いつまでも宿屋暮らしってわけにもいかないからな」
「そう……ですか。寂しいですね」
今にも泣きそうな顔になる。
蒼太は毎日食堂で食事をし、その度にミリと話をしており他の大人の冒険者達とは違い年の近い彼に対して親近感を持っており、ともすれば本人は気づいていないが淡い恋心も持っていた。
「そんな顔をするな」
蒼太は立ち上がり、ミリの頭に手を乗せる。
「別にこの街から出るわけじゃないし、ここのメシはうまいから住むところが決まっても食堂にはくるさ」
「そう、ですよね。ちゃんと来て下さいね!」
蒼太の手の感触に顔が綻び、機嫌も回復する。
「まあ、これから見せてもらうところを俺が気に入るかわからんがな」
手を離すとそう言ってミルファへ視線を向ける。
「……いい物件だと思いますよ。苦労して探したので」
返答にはやや間があり、ぶすっとした表情になる。
「おいおい、今度はミルファが機嫌悪いのか? よくわかんないやつだな」
「なんでもありません! そんなことよりもう行きますよ」
ぷりぷりと怒りながら席を立ち宿屋を出て行く。
「ミリ悪いな、俺も行くわ」
「ふふっ、いってらっしゃいソータさん」
ミルファは怒りながらも蒼太がついてくるのを確認し先導していく。
建物までの道すがらに色々と考える。
(なんであんなにイライラしちゃったんだろ? ソータさんに嫌われてないかな? ミリちゃんと話してただけなのに一人で勝手に怒ったりして……あーもうなんであんなふうに)
表情は冷静そのものだったが内心はパニックだった。
「なあ、そろそろなのか?」
怒りが収まり、パニックになり、徐々に落ち込んできたためミルファの足取りは出発当初に比べかなり遅くなってきていた。
「えっ、あっ、そろそろです。この角を曲がった先です。ここです」
ミルファは考え込みながらも先導の役目はキチンと果たしていた。
ミルファが手で指し示すそこは街の中心からは外れていたが、立派な一軒家があった。
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