第5話
『貴様は何者だ?』
周囲の魔物を倒した蒼太に対し敵意を持つことなく、ただ疑問に思ったといった表情でその言葉を放つ。
魔物間では言葉の交流がみられるが、魔物が人語を話すということはありえないといわれていた。
しかしエンペラーウルフは人の言葉を話し、蒼太へと質問を投げかけている。
「お前話せるのか?」
『質問に質問で返すのは感心しないな。だがその質問には答えよう「話せる」と』
そのやりとりの間も蒼太は十六夜を構えていたが、コミュニケーションのとれる相手であり少なくとも今は敵意を持ってないことから構えを解き納刀する。
『ふむ、やっと武器をおさめてくれたか。いつ斬られるかと気が気ではなかったぞ』
「まあ、本当に敵意はないみたいだからな」
『それならが再度問おう、貴様は何者だ』
その問いにやや思案する。
「……何者……と言われてもな。ちょっと強い旅人ってとこだ」
ため息をつきながらあたりに散乱しているモンスターの死体を見回す。
『ふむ、その答えには納得しがたい現状だが言いたくないのであれば納得しておこう』
『それでお前は私も殺すのか?』
そう聞いた瞬間エンペラーウルフの存在度は増し、敵意とまではいかないものの鋭い視線を蒼太に送る。
「いや、俺に敵対しないのであれば戦わないさ。こいつらも俺に向かって来たのと魔物大暴走に発展しそうだから先に手をうっておいただけだからな。まあお前がやりたいっていうんなら相手するぞ」
強い視線を受けてもひょうひょうとした態度で答える。
『いや、見逃してくれるならそれにこしたことはない。勝てる見込みもなさそうだ』
「お前も結構強そうだと思うけどな。まあ俺に対してだけじゃなく、俺の親しい者にも今後敵対しないことを祈るよ。そうなったら見逃せないからな(まあ、今のとこそんなやつはいないけど)」
言い方は軽いものだったが、その言葉の持つ重みを感じウルフはごくりと唾を飲む。
『も、もちろんだ。私は自ら人間に敵対したことはない……襲われた場合は除くが』
「それならいい。まあ見逃してやる代わりに貸し一ってことにしとこう。俺が困っててお前がなんとか出来る時は……まあそんなことはそうそうないだろうけどその時は力を貸してくれ」
『承知した。私の前の主人の名に誓おう』
そう言うとウルフは一瞬でその場を後にする。
「……最後に気になることを言い残していきやがったな。前の主人ってことはテイムされていたのか? あいつのレベルでそれは難しい気がするが。あとは魔族の下にいたかってとこだが、解放された今でも口にするほどの忠誠ってのも珍しい話だが。まあわからないな」
考察するが、わからないと結論付けると周囲に散らばったモンスターの魔石と素材を解体せずに亜空庫に収納していく。
亜空庫改造機能の一つで、一度格納したことのあるモンスターの素材は解体されて収納される。
格納先は一番上のフォルダを「召喚一回目」と「召喚二回目」に分け、後者の中に収納している。
「さて、まずは返り血を綺麗にしないとだな。清潔」
服や装備についた油や血を綺麗にしていく。亜空庫に一度しまった鉄の剣にも同様の魔法をかけ帯剣し、代わりに十六夜を再び亜空庫にしまう。
「さて、さっさと冒険者の街とやらで素材を売るか」
森を抜けると、教えられた小さな村をスルーしそこから走って冒険者の街へと向かう。
蒼太の足は速く、一般の冒険者を遥かに上回る速度で走り続ける。魔力により脚力強化も行っているため、疲労も少ない。
しかし、夜間は走りづらいため亜空庫から出したテントで休むことにした。
森で倒したモンスターの肉を調味料をかけて、たき火で焼いたものを食事にしている。
通常であれば村を起点に、馬車などで長期間かけて移動するはずだったが蒼太はその身体能力でその期間を大幅に短縮していた。
★
数日後
冒険者の街「トゥーラ」
城下町と同じように街はぐるりと円を描くように外壁に覆われている。
東西南北全ての門には衛兵が二人常駐し街に入る者をチェックしている。
南門前
「この街は初めてか?」
「あぁ、南のほうから旅してきた」
「身分を証明できるものを持っているか? 持っていなければ入場料は銀貨5枚払ってこの水晶に触れてもらうことになっている」
蒼太はポケットに手をつっこみ亜空庫と繋げると銀貨5枚を取り出す。衛兵から見たらポケットから銀貨を出したように見えている。
「1、2、3、4、5と。確かに受け取った。次はこの水晶だ、犯罪歴を確認する」
言われるままに水晶に触れる。一瞬ピカっと光るがすぐに収まり水晶は透明なままそこにある。
「犯罪歴はなしだな、問題ない。街で身分証明書を作成したらそれを持って来い、一週間以内なら銀貨は返却する。身分証明書は冒険者ギルドに登録するか、役所でも作れる。腕に自信があるならお勧めはギルドのほうだな、ギルドカードなら他の街でも通用する」
「わかった」
「冒険者ギルドは大通りをまっすぐいけばある。役所もすぐ近くにあるからわかるはずだ」
「色々ありがとな」
衛兵に別れを告げ冒険者ギルドへと歩を進める。
到着した冒険者ギルドは蒼太が前回の旅で訪れたギルドよりも広く活気があった。
開放された扉から入ると正面にはカウンターがあり、3人の受付嬢がそれぞれ冒険者の対応をしている。向かって右側にもカウンターがありそちらでは納品確認や素材買取をしている。
隣には酒場が併設されていて、昼間から酒を飲むもの、情報交換をするもの、食事をするものなど様々な冒険者で賑わっていた。
ほどなくしてカウンターの一つが空いたのを確認すると蒼太はそこに向かう。
「いらっしゃいませ、どういったご用件でしょうか」
エルフより少し耳の小さいハーフエルフの受付嬢はブロンドのロングヘアーを揺らし軽く会釈すると笑顔で問いかける。
「ギルド登録と素材の買取を頼みたい」
「了解しました。ではギルド登録から行いましょう。こちらに可能な範囲での記入をお願いします、代筆も可能です」
差し出された用紙には「名前」「種族」「得意武器」「スキル」の記入欄があった。
「代筆は結構だ、自分でかける。可能な範囲ってことは未記入でもいいのか?」
人差し指を顎にあて苦笑いになりながら答える。
「うーん、最低限名前と種族は書いてもらいたいです。武器とスキルはわかっているとパーティの紹介や依頼の紹介に役立つのですが、そちらは未記入でも構いません」
「わかった」
そう返事をすると、名前の欄に「ソータ」、種族の欄に「人族」、得意武器を「片手剣」、スキルは「未記入」で提出する。
「はい、大丈夫です。次はこっちのカードに転写して……」
申し込み用紙をプレートの上に置くとそこにはまったカードへと記入内容が転写されていく。
「次にこのカードに血液を一滴でいいのでつけてもらえますか?」
小さな台座に針がついたものへ指を軽く刺し、血液をカードに垂らす。
「はい、完了です。こちらのカードをどうぞ、こちらで手続きをする際には毎回提出してください。素材売却の際も同様です」
「わかった」
「では、次にギルドの説明をします。登録をするとFランクから開始して、依頼を達成したり何か大きな功績を成すことでランクは上がっていきます。Fから始まって、E、D、C、B、A、S、SS、SSSランクと上がっていきます。C以上に上げる場合にはギルド指定の試験を受けることになりますが」
「ランクが上がることでのメリット・デメリットはあるのか?」
受付嬢は頷く。
「はい、ランクがあがることで素材買取の価格に上乗せがあります。またギルドが運営している酒場、宿屋でランクに応じた割引が適用されます。それ以外ではランクが上がらないと受けられない依頼も多いです、自分のランクの一つ上のランクの依頼までしか受けられないので」
「ふむ、そのあたりがメリットかデメリットは?」
「そうですねえ、Cランク以上になると指名依頼が発生します。これは相応の理由がない限りは受けてもらうことになります。報酬は通常の依頼に比べて高い相場となっています。断ることも可能は可能ですがランクダウンや罰則金や最も重いものではギルド追放もあります、滅多にありませんが」
「ってことは、試験を受けなければCランクに上がることはなく指名依頼も受けなくて済むってことか」
「そうなります。上位ランクの依頼や指名依頼の報酬を考えるとランクは上げたほうがいいと私は思いますが」
「ついでにもう一つ質問、素材の買取の際にランク制限はあるのか? 例えば……そうだな、Aランク指定されているモンスターの素材や魔石をDランクの冒険者が売りたいとか」
「それは問題ありません、ギルドに所属していない商人の方が買取を希望されることもありますので」
「なるほどな、ランクについてはわかった。他に説明はあるか?」
受付嬢は先ほどと同じポーズで考える。
「うーん、次は依頼の種類の説明ですね」
「あー、そのへんは聞いたことがある。指名依頼、常設依頼、通常依頼、護衛依頼、採取依頼だったか?」
「そうです、知っているのならその説明は省きますね。依頼書はあちらのボードに貼られているのでそれを剥がさずこちらに依頼受諾の申請をすれば依頼開始となります。これくらいですかね、何か質問があれば伺いますが」
「いや、大体わかった。何かわからなければまた来るよ」
「ふふ、いつでもどうぞ」
最後に受付嬢は笑顔になり説明時の堅さは消え柔和な態度になる。
「ん、どうかしたか?」
「いえ、冒険者の方は荒っぽい方が多いので久しぶりにまともな説明をしたなと思ったら少しおかしくなっただけです」
「そうか、説明を聞き逃してあとで後悔するのは嫌なんでな。そもそも情報収集は冒険者の基本だろ」
「そういう方ばかりならいいんですけどね、なかなか」
受付嬢は苦笑いをする。
「まあそんなものか、それじゃ何かあったらまた来る」
「はい、お待ちしています。あ、申し遅れました私は当ギルドの受付業務を担当している『アイリーン』と言います。どうぞお気軽にアイリとお呼び下さい」
「あぁ、アイリ。それじゃあな」
カウンターに背を向けると、周囲にいた冒険者達から鋭い視線を送られていた。
蒼太は知らないがアイリはギルドでも人気の受付嬢だった。
「なんか、見られてるけど……まあいい。まずは素材を売って金に換えるか」
そういうと視線を意にも介さず素材カウンターへ向かう。
「素材の買取はここでいいんだな」
「え、えぇ。こちらで大丈夫です。素材の量が少なければここで、多ければ奥の倉庫のほうでの買取になりますが」
視線が蒼太を追っているので、それに圧倒されどもってしまうが素材買取担当職員はなんとか職務を全うする。
「少し量が多いから倉庫のほうで頼む……なんか視線もすごいからな」
最後はささやくような声で職員に告げる。
裏の倉庫に案内されそこで買取用の素材を亜空庫から取り出す。
「こ、これは」
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