第6話



 裏の倉庫に案内されそこで買取用の素材を亜空庫から取り出す。


「こ、これは」


 床に敷いた布の上には所狭しと言わんばかりに大量のモンスターの素材が並べられた。


 それでも出したのはゴブリン種、ボア種、オーク種、ウルフ種のジェネラルランクまでで、それ以上のキング種は保管したままにしている。


 担当職員は提出された量に驚き、ジェネラルランクまでいることに驚き、その素材の質の高さに驚くと三度驚き、その全てが背中にしょっていたリュックから出たことに驚くと合計四度驚かされた。


 ※通常のマジックバッグの許容量は大きいもので100kg程度だが、蒼太が出したのは数百kg。


 更に付け加えると一度解体したことのあるモンスター種であれば収納した際に自動解体される。



「こんなとこか、全部素材に解体してあるから一応確認してくれ。それと、魔石も一緒に売りたい」


 そういうと、素材の横に大量の魔石を置く。


「しょ、少々お待ち下さい。この量では私一人では処理出来ないので手伝いを呼んできます」


 そういうと職員は駆け足でギルドに戻っていく。




「呼んできます、と言ったきり全然戻らないな」


 亜空庫の中身を確認しながら待つこと約15分経過した頃蒼太がつぶやくと、先ほどの職員が現れる。その後ろには二人の職員と服装の違う壮年の男性が一人、ギルドの職員に比べると整った身なりをしているが


 いかつい顔をしており貫禄がある、顔や年齢に対して低いその背丈は彼がドワーフ族であることを示している。その隣には金髪を一つ縛りにし眼鏡をかけて秘書のような女性の職員が連れ添っている。その耳は受付のアイリよりも長く、その特徴は彼女がエルフだと物語っていた。


「お、お待たせしました。これから確認に入りますね。二人とも頼みます」


 後ろの二人の職員は頷き三人で素材の種類や質や傷などの確認を行っていく。


「さて確認している間、話をさせてもらおうか。この量だと時間もかかるだろうからわしの部屋に行こう」


 そう言うと蒼太に背を向け歩き始めるが蒼太はそちらへ興味を示さず、作業をしている職員を少し離れた場所から見ている。


 数歩進み蒼太がついてこないことに気づくと、ついてくるのが当然と思っていた二人は驚いた顔で振り向く。


 作業をしている職員も「あれ? なんでこの人見てるの? 行かないの?」といった顔で作業しながらチラチラと蒼太を見ている。


「あ、俺のことは気にせず作業を続けて。見てるだけだから」



「……見てるだけだから、ではない!! わしの話を聞いてなかったのか? 話があるからわしの部屋までついて来るよう言ったのだ!!」


 額に青筋を浮かべながら蒼太に詰め寄る。


「……はぁ、聞いてたよ」


 ため息まじりに返事をする。


「どこの誰かもわからないおっさんが何の話なのかも言わずに、ついて来るのがさも当たり前だといわんばかりにこちらの反応も確認せず一方的に話を進めたんだろ。そんな態度の相手に俺がついていく理由はどこにも見当たらないし、ついていく気もない」


「貴様、わしを誰だと思ってる!!!」


「だから、どこの誰かもわからないおっさんだと言ってるだろ」


「おっさんではない!! わしはこの冒険者ギルドのギルドマスターだ」


「やっと自己紹介を始めたな、初めまして名も知らぬギルドマスターさん」


 ギルドマスターという立場を明らかにしたのに態度を変えず、小ばかにしたような反応の蒼太に対して更に怒鳴り声をあげようとするが、隣の女性がそれを止める。


「ソータさん申し訳ありません、その辺で許してもらえませんか? この人ちょっとアレでして、怒るとなかなかひけないタイプでして」


「あんたは話がわかりそうだな。からかうのはあんたに免じて辞めておくが、どっちにしてもついていくのは断る」


 蒼太の言葉にギルドマスターは顔を赤くするが、話は女性に任せたと口を開かずにいる。女性は少し困ったような顔で話を続ける。


「そこをなんとかお願いします。申し遅れましたが私はギルドマスターの秘書をやっております『ミルファ=クーデリア』と申します。こっちの真っ赤な顔のおっさんは、恥ずかしながら当ギルドのマスター『グラン』です」


「知ってると思うが、俺はソータだ。登録したての冒険者で何の功績もない」


「存じております。その上でお話をするためについてきて頂きたいのです」


「ふむ、ついていく義務はあるのか?」


「いえ、緊急時や規則違反時などを除いて冒険者の行動を縛ることはギルドマスターでも出来ません」


「メリットは?」


「メリット……ですか。では、今回の買取り査定に10%上乗せしましょう」


「なっ!」


 それを聞いてギルドマスターは眼を見開いてミルファの顔を見る。


「30%でどうだ」


「おい!」


 そしてその眼は更に大きく開き今度は蒼太を見る。


「それはさすがに……15%でお願いします」


「乗った、じゃあさっさとその部屋に行こう」


 そのやりとりにあっけにとられているギルドマスターをおいて、蒼太とミルファは動き始める。


 その数秒後、ギルドマスターも事態を把握しそそくさと二人の後を追いかけた。


「ま、待ってくれ。わしをおいていかんでくれ」



 ★


 ギルドマスタールーム



 室内にはソファが3つその中央に執務室にお似合いのテーブルが一つ。その奥にはマスター用のデスクがあり、後ろには書棚が二つある。


 壁にはグランが冒険者時代に使っていた斧・盾・槌などが飾ってある。


「それで、一体何を聞きたいんだ」


 ソファに座り、ミルファが蒼太、グランの前に紅茶を出すと同時に蒼太が疑問を投げかける。


「私のほうからお話しさせて頂きます。マスターだと話が進まないでしょうから」


「「あぁ、頼む」」


 蒼太はさっきのやりとりから、グランは日ごろの自分の言動を見返しての反省から出した言葉は期せずして被ってしまった。


 二人はやや苦い顔をするがミルファは少し口角をあげる。



「今回ソータさんが買取りを希望された素材・魔石ですが、どこでどうやって手に入れたのでしょうか」


「森でモンスターを倒して手に入れた、以上」


 どうやって手に入れた、その言葉が蒼太自身が倒したわけではないだろうという下にみた発言のため彼は端的にそれだけ答える。


「それはどこの森ですか」


「この街から南に行くと小さな村があるだろ? そこから更に南に行った森だ。森の名前は知らんが」


「す、全てですか? ソータさんが持ってきた素材全て、その森で?」


 ミルファの言葉がやや緊張を帯びる。


「そうだ、全部だ」


「おい、冗談で言ってるんじゃないだろうな」


 グランも真剣な表情で問い詰める。


「冗談だと思うならそれでいい、俺は買取りさえしてもらえればいいんだからな」


「い、いや、すまん。気を悪くしたなら謝ろう。事が事だけに疑い深くもなってな」


「えぇ、ジェネラルクラスのモンスターがいたということは、キングクラスのモンスターがいるということです。キングクラスとなるとAランクPTが出向く必要がありますが、ソータさんの素材には複数の種のジェネラルがありました。つまり複数のキングがいると想定できます」


「AランクPTが複数必要になるということか」


 蒼太の言葉に二人は頷く。


「だが、今この街にはAランクPTは一つしかおらん。依頼で出払っていてな」


 その言葉にミルファも深刻な表情になる……が、蒼太はなんだそんなことかといった表情になる。


「それなら心配ない、キングクラスもまとめて倒しておいた。装備を作るのに使えると思って素材はとっておいたんだけど……っと」


 リュックに手を入れ、オークキングの魔石を取り出す。その大きさからキングクラスであることに疑いは持てず、二人は目を丸くしている。


「まあ、そんなわけで問題なしだ。もう行っていいな」


 腰を挙げようとする蒼太を二人は止める。


「ま、待ってくれ。倒したって一人でか?」


「まさか、そんなに強いなんて」


「うーむ、何を言っても信用出来ないようだからこれ以上何を言っても無駄だと思うが……俺がその森からこの素材を持ち帰ったてのは信じてもらうとして、その森が安全かどうかは誰かを調査にやればわかるんじゃないかな」


 頭をかきながら渋い顔で答える。


「そうだ、さっき言ってた街に残ってるAランクPTにでも依頼すればいいだろ。そうしよう、じゃあ俺は行くから15%アップの件は頼んだぞ」


 そう言いまだ引きとめようとする二人を残し部屋を後にする。



 ★


 倉庫前ではまだ職員が鑑定を行っている最中だった。その内の一人、受付で対応をした職員が蒼太が戻ってきたことに気づく。


「あ、ソータさん。申し訳ないのですが鑑定に時間がかかってしまうので、明日また来てもらうのでもいいですか?」


「まあ仕方ない、慌てて漏れがあっても困るからな。明日のいつ来ればいい?」


「そうですねえ……明日の朝には鑑定も終了して報酬が用意出来てると思います」


「なら、明日また来よう。素材買取の受付に行くから話がわかるようにしておいてくれ」


「承知しました。ご迷惑おかけします」


「気にするな、よろしくな」


 三人へ手を振りギルドを後にする。

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