第3話

「あのー、俺はパスしていいですか? 勇者じゃないんで」



 水を打ったように場が静まる。



 言葉の意味を理解した大輝が慌てて蒼太に声をかけた。


「お、おい近衛。君は何を言っているんだ? 困ってるんだから助けてあげないと!」


「悪いが断る……俺のステータスをお前らは知らないんだったな、王様と大臣さんはわかってると思うけど俺の称号は『召喚に巻き込まれしもの』だぞ」


「ま、巻き込まれしもの? ってことは、もしかして君『勇者』の称号がないのか?」


「その通りだ。俺は称号『召喚に巻き込まれしもの』、職業『剣士』、魔法『なし』、スキル『片手剣3』、ユニークスキル『なし』、加護『なし』だ……それでもお前は俺にお前たちとともに戦えと言うのか?」


 大輝がガウスと大臣の顔を見ると二人とも頷いた。蒼太の言うことに偽りはない、と。





 実際は偽りしかないがそれを知るのは蒼太のみ。





「話を聞く限りお前達は相当なステータスなんだろうな。勇者の称号もあると言ってたな。それに比べて俺は巻き込まれただけだ、ステータスもさっき言った通り。俺には魔王と戦えるような力はない。巻き込んだ責任をとれなんてことはもちろん言わないさ。ただ、魔王討伐を請け負わず自由に旅でもさせてくれれば俺はそれで十分だ」



 大臣はうーむと唸り、大輝達は唖然とした顔で蒼太を見ていた。秋のみ鋭い視線を送る。


「あい。わかった。勇者も四人おれば十分だろう。ソータと言ったな、おぬしは旅に出るとよい、当座の資金としていくばくかの金も渡そう」


 王はその決断力をみせ、また腹の内での計算からそう判断した。



 蒼太は別室へと案内される、そんな蒼太へとエリザベスがかけよった。


「あ、あの……申し訳ありませんでした。その、召喚に巻き込んでしまって……」


 消え入るような言葉に蒼太は表情を変えずに答える。



「気にするな。俺は巻き込まれたことに関して特に思うところはない。お前は勇者を四人も召喚したことに誇りを持っていればいい」


 それを聞いてエリザベスは涙目になり頭を下げる。


 それ以上はどちらも何も言わず、蒼太は案内され大輝達四人へは説明が続けられた。



 これが彼と彼らの運命を分ける岐路であった。




 ★



 召喚翌日早朝、王都北門前



 そこには人気はほとんどなく鳥の鳴き声と兵士が二人、そして蒼太がいるのみだった。


「ソータ殿、こちらが王様に渡すように言われた資金です。それと大臣からの話ですが、黒髪黒目は目立ちますのでしばらくの間は王都には近寄らないようにとのことです」


 小さな袋に詰まった貨幣を蒼太は受け取る。



 目立たないようにと支給されたこの世界の一般人の服を身にまとい、これまた支給されたリュックに貨幣をいれると正門を見上げ兵士に礼を言う。


「朝からご苦労さんだったな、助かるよ。近寄らないのは了解したと伝えてくれ」


「このまま道なりに進めば森につきます、森の中も人が使うための道は整備されていますのでそのまま抜ければ小さな村が、更にその先には冒険者の街がありますのでまずはそこを目指すのがよいかと思われます」


「わかった、それじゃ」


 兵士達に手を挙げ別れを告げると、背を向け王都から森へと続く道へ歩を進める。



 数時間経った頃、森の入り口へとたどり着いた。それに遅れて馬に乗った兵士達が蒼太のもとへとやってきた。


 蒼太はその顔に見覚えがある。北門前で蒼太に資金を渡した兵士達であった。



「なんだ? 何か渡し忘れたものでもあったか?」


 その問いに兵士は何も答えず、殺気に満ちた目で馬上から槍を突き出してくる。


 蒼太はなんなく避けるがさっきまでの二人の様子と違いすぎることに疑問を持ち『鑑定』スキルを使う。



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 名前:エリック


 ステータス:洗脳


 性別:男


 称号:なし


 職業:騎士


 魔法:なし


 スキル:剣術2、槍術3


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 名前:ロブ


 ステータス:洗脳


 性別:男


 称号:なし


 職業:騎士


 魔法:なし


 スキル:剣術3、槍術2


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「二人とも二つスキルがあるのか。それにしてもステータスが『洗脳』か」


 蒼太がそう口にする間も次々に攻撃が繰り出される。



「王か大臣か、もしくは側近あたりだろうけど……いずれにせよひどいことをするもんだ。自分の意思に反することをさせる上に洗脳をかけるとはな」


 蒼太も王都から離れた場所で何かしらけしかけてくるだろうと予想はしていたが、まさか先ほどの兵士が、しかも洗脳されてくるとは予想外だったため、国のやり方に怒りを覚える。



「すぐ楽にしてやるからな」


 そう言うと二人から同時に突き出された槍を手で掴み、槍ごと二人を持ち上げる。


 そのまま地面に叩きつけられた二人に無詠唱で弱い雷魔法を放つと、二人は気絶した。


 二人のステータスは『気絶』『洗脳』となっている。その二人に向かってリュックから取り出した状態異常回復のポーションをかける。



「うーん、一体何があったんだ」


 ロブは気絶したままだったが、エリックは目を覚ました。まだ痺れは完全に抜けておらず、身体を起こすのも大変そうだ。


「よう、数時間ぶりだな。覚えてるか?」


 蒼太の顔をみてエリックは驚く。



「ソ、ソータ殿。なぜこんなところに?」


「おいおい、なぜってのはこっちのセリフだ。ここはあんたが教えてくれた森だぞ」


 周りを見渡してエリックは状況を把握しようとする……が、洗脳から覚めたばかりでしびれも残った状態では頭の回転はにぶかった。


「申し訳ありません、少し頭がぼーっとしてて……何があったか教えてもらえますか?」


「何がと言われてもな、あんた達二人が目の色を変えて俺に襲い掛かってきた。それに俺は対処して二人を気絶させ、状態異常回復ポーションを二人にかけた。そんなところだ」


 エリックは開いた口を閉じるのも忘れるくらいには驚いていた。



「あんたらの状態からみて自分の意思じゃなかったんだろうことはわかる。俺を見送ったあと何があったか覚えてるか?」


 頭を振り、曖昧になっている記憶をたどる。


「……見送ったあと、大臣に報告をしました。たしかそのあと誰かに……た、たしか宮廷魔術師のレイクス様に労われたような気が……そのあとは覚えてないです」


「そいつだな、そのレイクスとやらがあんたらを魔法だかスキルだかで操ったんだろうな」



「そんなっ……!」



「俺を殺せずに戻ったらあんたらが逆に始末されるだろうよ」


 エリックは目を見開いて何も言えずにいる。顔からは血の気がうせている。


「あんたらが選べる選択肢は、一つ正気の状態で俺を殺して手土産にする。二つ王都には戻らず逃げる」


「あなたを襲っての結果がこれなのに、ソータ殿を殺せるとは思えませんしそんなことはしたくありません。ですが……王都には私もロブも家族がいるのでそれを見捨てて逃げるわけには」


 蒼太は頭をかきながら思案する。どうしたものかといった様子だが、すぐに案が浮かんだ。



「だったら、三つ目だ。あんた達は戻って俺を始末したと報告すればいい。証拠になるものとしてなにか……俺の携帯電話をやろう、こっちの世界ではないものだ。それとさっきもらった金も返しておく。どっちかに適当に血でもつけて持っていってくれ」


「よろしいのですか? それではソータ殿が……」


「気にするな、ソレはどうせ使えないし金のほうもなんとかなる。俺は今後姿を隠すつもりだがいつかは生きてることもばれるだろう、それにそなえてあんたらも家族を連れて王都から逃げるといい」


「うぅ、申し訳ない。このご恩は忘れません」


 始末したと報告しても状態異常が解かれていることへの不信感や口封じで殺される可能性もあるが、蒼太はあえて口にはださなかった。






 エリック達に別れを告げ、森の中へと入っていくが数分進んだところで道から外れ茂みへと入っていく。


 別の追っ手がいる場合にそれを撒くため、そしてそれ以上にステータスの確認と亜空庫にしまっておいた前回の召喚時のアイテムを確認するためだった。


 しばらく進み、開けた場所に出ると近くの切り株に腰掛け自分の能力の確認を行う。



 ※亜空庫:物などを収納するための空間魔法。


     アイテムボックス、ストレージ、インベントリなどに相当する。



「ステータスオープン」



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 名前:近衛蒼太


 状態:最適化中


 性別:男


 称号:召喚に巻き込まれし者【限界突破者、極めし者、神々に愛されし者】


 職業:剣士【侍、鍛冶師、錬金術士、大魔道士】


 レベル:1【150】


 魔法:なし【属性魔法8、生活魔法8、龍魔法8、空間魔法10、付与魔法8】


 スキル:剣術3【刀術10、体術9、鑑定EX、隠蔽EX、鍛冶10、錬金術10、スキル習得率UP大、スキル成長速度UP大、消費MP軽減8】


 ユニークスキル:なし【****】


 加護:なし【女神イシュリナの加護、龍神の加護、鍛冶神の加護、魔導神の加護、武神の加護、刀神の加護】


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 蒼太はステータスの各名称に鑑定スキルを使っていく。



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 [称号]


 ・召喚に巻き込まれし者


 他者の召喚に巻き込まれし者、召喚されし者と同様にこの世界の言葉を自動習得している。


 召喚された際に肉体改変が行われており、元の世界にいた頃よりも大きな力を得ている。



 ・限界突破者


 レベル限界であるといわれる100レベルを突破した者の称号。


 レベル上限が排除される。



 ・極めし者


 魔法、スキルのいずれかでレベル10を獲得した者に付与される称号。



 ・神々に愛されし者


 複数の神の加護を付与された者。



 [職業]


 ・剣士


 剣を武器にし戦う職業。剣術スキルにボーナスがつく。



 ・侍


 刀を武器にし戦う職業。刀術スキルにボーナスがつく。相手の攻撃に対して見切りスキルが発動することがある。


 過去に召喚された異世界人の中に数人いたがそれ以外では侍の職業持ちは発見されていない。



 ・鍛冶師


 鍛冶スキルにより、武器・防具を作成する者。鍛冶スキルにボーナスがつく。


 ドワーフの固有職業。稀にドワーフの教えを受けたものにも発現することがある。



 ・大魔道士


 魔法スキルを一つでも極めた者が発現する。各魔法スキルにボーナスがつく。


 消費MPも格段に下がる。



 ・錬金術士


 錬金術スキルによりアイテムを作成する職業。錬金術スキルにボーナスがつく。


 高位の錬金術士はレシピ検索能力を持つ。



 [魔法]


 ・属性魔法


 火・水・風・土・光・闇・雷・無の8属性魔法を使用可能で全てスキルレベル5以上の場合


 属性魔法に統合される。



 ・生活魔法


 汚れを清潔にしたり、近くのものを元の位置に戻したりなど生活に関連する魔法。



 ・龍魔法


 龍族、龍人族のみが使えるといわれている魔法。また、龍神の加護を受けたものであれば他種族でも使える。


 龍の力、龍気を魔法として放つ



 ・空間魔法


 空間をあやつる魔法。今では伝説として残っており使えるものの存在はさだかではない。



 ・付与魔法


 能力を強化したり、属性を付与する魔法。



 [スキル]


 ・剣術


 剣術スキルを使用することが出来る。剣の扱いが上手くなる。



 ・刀術


 刀術スキルを使用することが出来る。刀の扱いが上手くなる。



 ・体術


 体術スキルを使用することが出来る。身体の使い方が上手くなる。



 ・鑑定


 情報を読み取ることが出来る。使用レベルによりその情報量に変化がみられる。



 ・隠蔽


 自らのステータスを隠蔽し改竄することが出来る。



 ・鍛冶


 鍛冶スキルを使用することが出来る。



 ・錬金術


 錬金術スキルを使用することが出来る。



 ・スキル習得率UP


 スキルを習得するまでの時間が短縮される。



 ・スキル成長速度UP


 スキルの成長にかかる時間が短縮される。



 ・消費MP軽減8


 魔法使用時、消費MPが軽減される。



 [ユニークスキル]


 ・****


 不明



 [加護]


 ・女神イシュリナの加護


 ハルデリアを作ったといわれる女神イシュリナの加護を受けている。



 ・龍神の加護


 竜人族に伝えられる神の加護を受けている。



 ・鍛冶神の加護


 鍛冶の神カンヤコの加護を受けている。



 ・魔導神の加護


 魔導の神クリサラの加護を受けている。



 ・武神の加護


 武の神フツヌシの加護を受けている。



 ・刀神の加護


 刀の神イワサクの加護を受けている。



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「鑑定5くらいだとこんなもんか。隠蔽を読み取るためじゃなく10で使うと情報量多すぎるからなあ」


 蒼太は前回の冒険で鑑定8を使った際に情報量の多さに頭痛に悩まされたことがあるため、使用レベルを抑える。



「それにしても、色々と突っ込みどころが多いな。とりあえず加護が多い、覚えのないのが龍神と刀神だな。一体いつの間に加護を受けたのやら」


 それ以外で前回と違うものはレベル・称号・侍・龍魔法・刀術だった。



「レベルとかは魔王を倒したからということにしておくとして、侍・刀術は多分あっちの世界で俺が学んだからだろうな。龍の称号と加護は……謎過ぎるがおいておくか。最適化中もユニークスキルも……後回しだな」


 深く考えてもわからないことは後回しにすることにし、アイテムのチェックにうつっていく。


 アイテムにおいては変化はないと予想出来ていたが、蒼太が送還されて再召喚されるまで四年の月日が経過していたため記憶はあいまいになっていた。



 亜空庫を確認するとそこには収集癖があった自分に感謝したいと言わんばかりに大量のアイテムが収納されていた。

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