第2話
部屋中を埋め尽くす眩い光は徐々に弱まり中央に位置する魔法陣へと収束していく。そこには学生服に身を包む五人の男女がいた。
「いったいなんだっていうんだ!」
少し茶色がかった長髪、長身でしっかりとした体格、整った顔立ちの『南山大輝』。
「なんでこんなとこにいるの、ここはどこなの……うぅ」
肩で切りそろえられた茶色がかった髪に大きなリボン。幼い顔立ちに、顔にそぐわず凹凸のはっきりとした体つきの『葛西はるな』
「教室にいたのに、なんなのよ……」
少しぼーっとした表情で左手には文庫本を持ち腰まで届こうかという黒のロングヘアーの『北川冬子』
「あなたたちは誰! ここはどこよ!」
ショートヘアーでスポーツ少女といった風貌できりっとした鋭いまなざしの『東雲秋』
その四人はそれぞれが四者四様の反応をみせながら大きな混乱のなかにいる。
五人目の少年からは混乱は見受けられず、早く話を進めてほしいと、魔法陣の前にいるドレス姿の少女に視線をおくっている。
視線をおくられた少女とその周囲にいる法衣を身にまとった数人、その後ろに控えている鎧をまとった騎士たちは別の意味で驚きを隠せない様子でいた。
「姫様、成功です!! さすが姫様ですな!」
「できた……のですね」
「さすがは姫様だ!」
「それも五人もだぞ!!」
成功する確率が低かったのかその事実に呆然とするもの、喜ぶものなど様々だ。
遅々として進まない状況に五人目の彼が声をかける。
「あんたたち、喜んでるところ悪いが状況を説明してもらえるか? こっちは光に飲み込まれたと思ったらこんなとこにいて、なにがなんだかわからないんだが」
『近衛蒼太』黒髪の短髪で、やや細身ながら整った筋肉がついており五人の中でも最も大人びた顔つきをしている。
蒼太に言われハッとし表情をただす。混乱していた四人もその言葉が投げ掛けられた方へと視線を向ける。
「も、もうしわけありません。勇者の皆様。わたくしはアーディナル王国第二王女エリザベス=フォン=アーディナルともうします」
そういうと、エリザベスは優雅な礼をする。召喚されたうちの一人『南山大輝』はその姿に見惚れぽーっとしていると残り三人の女性陣に脇を小突かれている。
「ここはあなた方がおられた世界とは異なる場所にある『ハルデリア』という世界です。この度はわたくしが行使した勇者召喚魔法によってこの世界へとまねいた次第です。どうか我々をお救いください」
「ちょ、ちょっと待ってください。さっきから勇者とかって言ってますけど、俺たちは特別な力なんてないただの一般人、ただの学生ですよ?」
大輝の言葉に女性陣も大きく頷く。
「救ってくれって言われたって、私たちに何か出来るわけないじゃない!」
「そうよそうよ!」
ドン、シャラーン!
エリザベスの隣にいる法衣姿の男が錫杖をならすと、四人は身を震わせ言葉が止まる。
「静粛に願います、王女の御前ですぞ」
「よいのです。こちらの都合で召喚したわけですし、急にこのような場所にくれば混乱なさるのも当然です」
男の厳しい視線と王女の優しさに四人は冷静さを取り戻し頭にのぼった血は下がる。
「不安なお気持ちはわかりますが、どうか我々の話をお聞き下さい」
顔を見合せ頷きあうと、大輝が代表して話を促す。
「取り乱してすいません。話を聞かせて下さい」
笑顔になったあと、表情を引き締め口を開く。
「説明よりも実際に見てもらったほうが早いかもしれませんね。自分の力を知りたいと考えながら『ステータスオープン』と唱えて頂けますか?」
「「「「「ステータスオープン」」」」」
五人がほぼ同時に唱えるとそれぞれの目の前に数字や文字が羅列されたプレートが現れる。
「まずはそちらに書かれている内容を確認してください」
そう言われても基準がわからないため、4人は首をひねる。
「参考までに申し上げますと、一般的な騎士でスキルが一つ、多くても二つ。スキルレベルでは高いもので3くらいです。スキルレベルを上げるのは難しく、
レベル4で上級、それ以上の方となるとSランク冒険者や国に所属する騎士や魔術師でも極一握りになります」
王女の言葉を聞き、眼を見開いて再度プレートを見直す。
「これって……」
「もしかして……」
「まさか……」
「これは……」
四人の枕詞は違ったが次に出てくる言葉は一致していた。
「「「「すっげー(すっごく)強い!!」」」」
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名前:南山大輝
ステータス:普通
性別:男
称号:勇者、召喚されしもの
職業:聖騎士
レベル:1
魔法:光魔法5
スキル:片手剣6、体術5、スキル成長速度UP
ユニークスキル:魔を断つ剣
加護:光の神の加護
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名前:葛西はるな
ステータス:普通
性別:女
称号:勇者、召喚されしもの
職業:聖女
レベル:1
魔法:治癒魔法7、精霊魔法4、強化魔法5
スキル:体術2、スキル成長速度UP
ユニークスキル:聖なる障壁
加護:光の女神の加護
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名前:北川冬子
ステータス:普通
性別:女
称号:勇者、召喚されしもの、精霊に愛されしもの
職業:賢者
レベル:1
魔法:火魔法6、水魔法6、風魔法6、土魔法6、光魔法6、闇魔法6、雷魔法6
スキル:体術3、消費MP軽減4、スキル成長速度UP
ユニークスキル:魔を討つ魔導
加護:火精霊の加護、水精霊の加護、風精霊の加護、土精霊の加護
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名前:東雲秋
ステータス:普通
性別:女
称号:勇者、召喚されしもの
職業:魔法剣士
レベル:1
魔法:火魔法3、水魔法3、風魔法3、土魔法3、雷魔法4
スキル:魔法剣7、片手剣5、体術5、スキル成長速度UP
ユニークスキル:魔剣創造
加護:剣神の加護
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名前:近衛蒼太
ステータス:最適化中
性別:男
称号:召喚に巻き込まれし者【限界突破者、極めし者、神々に愛されし者】
職業:剣士【侍、鍛冶師、錬金術士、大魔道士】
レベル:1【150】
魔法:なし【属性魔法8、生活魔法8、龍魔法8、空間魔法7、付与魔法8】
スキル:剣術3【刀術9、体術9、鑑定EX、隠蔽EX、鍛冶10、錬金術10、スキル習得率UP大、スキル成長速度UP大、消費MP軽減8】
ユニークスキル:なし【****】
加護:なし【女神イシュリナの加護、龍神の加護、鍛冶神の加護、魔導神の加護、武神の加護、刀神の加護】
※【】で表示されているものは隠蔽スキルにより隠されているもの
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(おいおい、前の能力のままって言ってたのに見覚えのないのがあるぞ! それに最適化中ってなんだよ!! )
「召喚された勇者様は例外なく特別な力を持つと伝えられております」
それぞれの顔を見ると満足そうにそう告げる。
「確かに僕たちには戦える力があるみたいだけど、一体何と戦うんですか?」
「それについては広間で私の父である国王から説明さしあげますので、ご足労願います」
五人から反対の声があがらないのを確認すると、踵を返し部屋を出る。戦いに対する恐怖心は自分たちが特別な力を持っていることを知ったことからくる興奮やその能力に対する好奇心から消え去っていた。
広間へと向かう回廊を四人は自分たちの力の話題で盛り上がっていたが、蒼太は思案にふけっていた。
・四人は召喚にとまどっていた、つまり女神に会っていないのか?
・自分のステータスが強化され過ぎている
・どうやってここから抜け出すか
この三つについて考えていたが、一つ目は悩むほどの問題ではなかった。
あの反応を見る限り、会っていないか会っていても記憶を消去されているかだろうと見当はついていた。
二つ目については召喚による肉体改変時の影響、もしくは女神の仕業、一番可能性が低いものとして自分の記憶違いでこのステータスが正しい、そのいずれかだろうと予想している。
ただ確定でないのと、ステータスの最適化中に謎が残ることには不満を覚えている。
最後に三つ目は蒼太にとって最優先事項として考えていた。
以前の召喚で蒼太を利用するものもおり、王女の周りのものからそれに似た気配を感じ取っていた。そして勇者としての生活は窮屈なことが多く周りから常にみられていることで閉塞感を感じた経験がある。
だからこそすぐにでも抜け出さないといけない、と。
そうこうしているうちに王の待つ広間へとたどり着く。
入り口にいる衛兵にエリザベスが目配せをすると、声とともに扉が開いていく。
「第二王女エリザベス様、ならびに勇者の皆様参られました!!」
部屋の中央には赤のカーペットが敷かれ、その左右を騎士が並び立っており一段上がると法衣を身にまとった神官が
更に奥にはまさに貴族といった高貴な服装を身にまとったものが、その奥中央には玉座に王であろう男が座っている。
王と聞けば髭を蓄えた初老以上の男性を思い浮かべるものも多いだろうが、その王は若々しく30代に見えその眼は活力に満ちていた。
髪の色はエリザベスと同じ金色をしており、あご髭を蓄えておりその髭をもてあそんでいる。
中央まで進むとエリザベスが歩みを止め跪き下を向く。五人もそれに倣う。
「エリザベス=フォン=アーディナル、ならびに勇者五名参りました」
「ふむ、おぬし達が召喚された勇者か。面を上げ楽にするがよい。姫も許す」
その言葉にエリザベスは顔を上げ立ち上がる。先ほどと同様に五人もそれに倣い顔を上げ立ち上がる。
「大臣よ、例の物を」
王の一番近くにいたやや恰幅のいい男が従者を連れ勇者の前に立つと、石板のようなものを順に五人へ渡していく。
「ステータスを見る方法は姫に聞かれたと思います。それと同じように自分の力を表示しようと考えながら『ステータスオープン』と唱えてください」
五人は指示された通りに「「「「「ステータスオープン」と唱える。
先ほどとは変わりステータスプレートは現れず、石版にステータスプレートの内容が映し出される。
大臣は印字されたのを確認するとそれを受け取り王の下へと届ける。
「ふむ、期待通り……いや期待以上だな」
王は笑みを浮かべる。
「余はガウス=フォン=アーディナル。このアーディナル王国の王だ。おぬし達に力を貸してもらうため召喚を命じたものだ」
「あのー、エリザベスさんも少し言ってたけど何か救ってほしいとかって……。一体僕たちは何をすればいいんですか?」
大輝の発言に貴族達は憤る。
「なんと、王に向かってあの物言い! 発言の許可も得ていないというのに!!」
ガウスは視線で貴族を黙らせる。
「良い、勇者たちには我らが願って遠くより来てもらったのだ。それしきで目くじらを立ててはそれこそ不敬にあたるというものだ」
視線を五人へと戻すと言葉を続ける。
「部下が失礼をした、許せ。何をすればということだが、我ら人族は魔族によって常に危険にさらされている。魔族の王は過去に討伐されたのだが、
昨今新しい魔王が生まれその勢力を強めてきておる。今までは犠牲を出しながらも乗り切ってきたが魔王の力は強大でその部下の魔族も強力なものが
生まれてきておる」
「つまり、その魔王を倒してほしいということね」
秋の言葉に王は頷く。
「うむ、もちろんそなたらの成長のための協力は惜しまん。それに討伐した暁には望みの褒美をとらせよう」
「元の世界に戻りたいっていうのも?」
はるなの問いには大臣が答える。
「横から発言失礼します。送還の方法は魔王の書庫にあるとのことです。魔王を討伐しその書庫を調べることが出来ればその望みもかなえられるかと思われます。
これに関してはこちらが叶えるというよりも勇者様方自ら叶える形になるかと思われます」
「どちらにせよ、魔王を倒さないといけないってことか……みんなどうだろう、俺はやってもいいと思う。困っているここの人たちを助けてあげられるし、僕たちも元の世界に戻ることが出来る。何より僕たちには戦う力がある。一石二鳥、褒美ももらえるから一石三鳥じゃないか!」
はるな、冬子、秋の三人はいつものが始まったかと呆れた顔で諦めている。
「だいくんがそう言うなら仕方ないね」
「大輝の正義のヒーローが始まったら止まらないものね」
「この力を試してみたいし、活かせるならいいと思う」
四人が乗り気になってくれたことに王女たちは破顔する。
「ありがとうございます! これでわが国も救われます!!」
「そうか、やってくれるか! ならば、詳しい話をしよう。大臣頼む」
「了解致しました」
話が進み、勇者、姫、王、大臣と盛り上がっていく中、水を差す言葉が投じられる。
「あのー、俺はパスしていいですか? 勇者じゃないんで」
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