再召喚された勇者は一般人として生きていく?
かたなかじ
第一章
第1話
『やあ、久しぶりだね』
果ての見えないほど広い白い空間に声が響く。
「あんたがいるってことは、またってことか」
『あぁ、度々すまないね。君には迷惑をかける』
その声は申し訳なさそうに。
「いや、あんたが直接悪いわけじゃないんだ。気にすることはないさ」
こちらは、ひょうひょうとした様子で返すが言外に間接的には悪いと言われたことにその当人はやや表情を崩す。
『僕の世界の住人がやらかしたことだ、止めることは出来ないけどあちらに行くのに、出来る限りのことはしてあげるよ』
前回はかなり苦労をしたな、と思いだしその申し出をありがたく受けとることにする。
「具体的には何をしてくれるんだ?」
『そうだねぇ、とりあえず君のステータスは戻される前のものにしておくよ。今さら一からってのも大変だろうし。お金や装備も同じ状態にしておこう。他にも要望があれば僕に出来る範囲であれば言ってもらえば叶えるよ』
しばし考え込む。時間にして五分経過。
「まずは、前みたいなのは困るから送還は送る側送られる側双方の許可がないと出来ないようにしてくれ。スキルだと、隠蔽と鑑定を最高レベルでつけてほしい。それから、召喚先の情報を教えてくれ」
『ふむふむ……ってそれだけかい? 欲がないねえ、僕としては多少の無茶も聞くつもりだったんだけどねぇ。ステータスを100倍にしろとか』
「いきなりそんな力があっても制御できないだろうし、なによりつまらないだろ?」
『そんなものかねぇ? まぁいいさ、君の要望を飲もう。まず送還に関してはその通りでいいよ、スキルはそうだなぁ……その二つはもちろんつけるけど、スキルを覚えやすくなるスキルをつけよう。ついでに成長速度アップもつけておくかねぇ』
「おいおい、そんなことして……」
『大丈夫だよ。これくらいはしないと君に悪いからねぇ。それに、成長しやすいほうが面白いだろう?』
つまらないという言葉があったからこそ、この面白いは効果的だった。
「そうだな、頼むよ。あと称号とか職業とかに勇者系とかのやつはつかないようにしてくれ。今度は一冒険者として生きたい」
『りょーかい。あとは召喚先の情報だったね? 君を召喚したのは、ある王国の王女を中心とした一団で大陸中央部に位置している。目的は……勇者召喚だよ、魔族との戦力として期待してみたいだ。あー、安心してよ。君と同時に四人召喚されててそっちが勇者として迎えられるはずだから。君は巻き込まれたって感じだねぇ』
その言葉に一瞬喜びを浮かべるがすぐに思案の表情になる。
『なにか気になることがあったかい?』
「……その召喚だけど、事実はどっちなんだ? 俺が巻き込まれたのか、俺の召喚にそいつらが巻き込まれたのか」
『なるほど、実際のところだけど四人の勇者が召喚された時に近くに君がいて、君の内包する魔力に反応して召喚対象範囲がひろがって君もろともって感じだね』
「召喚の目標はあいつらで、俺のほうはある種俺自身の問題だったのか。まあ、もう一度あの世界に行きたいと思ってたからいいか」
『えーっと、納得してくれたのは嬉しいんだけど一つまだ君に伝えてない情報があってね』
「……なんだ?」
『君が召喚されるとこなんだけどね、君が前にいた時代の約千年後なんだ』
「は? せ、千年……そいつは想定外だったな。ははっ……」
『慰めになるかわからないけど、君を知ってる人がいないだろうから自由に生きるには生きやすいんじゃないかな。下手に知ってる人がいると顔や名前ですぐにばれるからさ』
「そう……だな。今度はやりたいように自由に生きたいから好都合か。なあ、千年後って冒険者の強さに大きな差はあるのか?」
『君がいたころとほとんど差はないよ。千年前のAランクはいまのAランクと同じくらいだよ。君の実力ならすぐにSランク以上になるだろうね』
「そうか、ならやっていけそうだな」
『他には何か聞いておきたいことはあるかい?』
「いや、色々聞いたら面白みが減るからこんなところで十分だ」
その言葉を聞きやや名残惜しさを見せながら別れを口にする。
『じゃあこれでさよならだね。君がよりよい異世界ライフおくれることを祈ってるよ』
「色々助かったよ、ありがとうな」
二人が最後の言葉を交わすと徐々に身体が薄くなっていき召喚が再開される。
『今度は世界を楽しんでくれ』
一人残された空間で女神はそう呟いた……。
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