第7話 サイショノ3
自分の人差し指には細長い線のような跡がついていた。少し引き金を強く引きすぎてしまったらしい。
そのままその他体の状態も確認してみる。私の右足は相変わらず崎田だったものを踏みつけていて、赤い絵の具をこぼしたみたいな模様がついている。言わなくてもさすがにわかるだろうが、この模様を形成しているのは血である。
それにしても、ここまできれいに模様ができるものなのか。ぱっと見花火だ。
「おい、ユウト。いつまでぼーっとしてんだ?まさか、復讐だなんだといって、いざやったら怖かったなんて言うんじゃないだろうな。」
ゆうとと名乗った男が話しかけてくる。確かにいつまでも踏みつけていても仕方がない。足をどかして顔をあげる。
横を向くとゆうとと目が合う。そこには、まるで私がいるようだった。鏡を見ているようだった。それくらい、私に似ている。でも、たぶん並べば他人とをわかるくらいだろう。
「お...怖いなんて思ってなさそうだな。さっきよりもい顔をしてるように見えるぜ。」
ゆうとは私の目を見ながら言った。怖いなんて思ってないが...
「いい顔...ですか?」
疑問だ。
「おう、だって笑ってるぞ?顔」
笑ってる?私が笑っている?戸惑って、確認するように頬に手を当てる。確かに、かすかに顔が引きつっているように感じる。私も、とうとう人を殺めて笑うようになるまで落ちてしまったのか。
「その顔、美奈さんにも見せてやりたかったよ」
ああ、そうだ、なんで美奈さんのついて知っているか、聞かなければいけないんだった。
私はゆうとに拳銃を向ける。
「なんで美奈さんのこと知ってるんですか?そして、君は何者ですか?」
ゆうとは、半分驚いたような顔をして、そして両手をあげる。
「いやぁ、さすが美奈さんの見込んだ人だな。あとで話すから、とりあえず拳銃を下ろしてくれないか?」
私に対しての敵意は...ない?
「銃は持ってていいが、その死体片付けないといけないだろう?」
敵意なし...かな
私は、銃を下ろしてゆうとに行動を促す。そして、崎田の死体を見下ろす。
あぁ、そうか。昨日見た夢は、正夢ってやつだったのか。
ゆうとが崎田の死体を片付けている姿を、することもなく眺めている。もうすっかり夜中で、人通りも全くない。第一気配がしない。
あれだけの音を出したのに、予想外にもまったく人がやってこない。昼間のこの公園は、子供やその親などでにぎわうことだろう。だが、今はどこか閉鎖的で冷たい印象を受ける。そんな暗い雰囲気で、笑顔の子供が遊ぶべき遊具も...あれ?
この空間に入ったときに感じた違和感に今更気が付く。そうか、ここは公園じゃないんだ。私が勝手に公園だと認識していただけだったんだ。暗かったがために認識違いをしたらしい。
でないと、一般人である私がここに入った瞬間に違和感を覚えるはずがない。それに公園に行き止まりなんて概念も、閉鎖的と感じるなんてことは実際ないはずだ。考えてみればろくに光がないのもおかしいか。ここはいわゆる空き地と呼ばれるような場所だったのだ。
遊具だと思っていたのも、無造作に置かれたドラム缶やら鉄パイプの山やらの’ゴミ’だった。
ゆうとを見る限り、死体の処理にはだいぶ慣れているようだった。そんな人殺しを幾度もやってきたような彼が、公園なんて人目に付く場所で人を殺させようとするはずがない。思い返せば当たり前のことだったか。
「一通り終わったぜ?どうしたユウト、難しい顔して。」
思考にふけっていたわたしの意識を、ゆうとの一言が現実に引き戻す。彼は、おそらくサキタが入っているであろう黒い袋を抱えて立っていた。
「いや、何でもない。少し考え事をしていました」
恥ずかしい思い込みを隠すために笑顔を浮かべる。
「あーそ。ならいいんだ。とりあえず行こうぜ」
ゆうとがくるりと背を向ける。そして、私が付いてくることがまるで決定事項だとでも言うようにてくてくと歩き出す。
「いやあの。行くってどこへ」
慌てて呼び止める。この疑問をぶつける私は正当な思考をしているはずだ。
「ん?どこって、秘密基地だよ」
彼がさっき銃を渡してきた張本人でなければ、少し無邪気で子供っ気が残る高校生が言ったであろうセリフだな。
まぁ、こんな時間になったのだ。今帰っても明日帰っても大して違いはない。人を殺した夜なのだ。その秘密基地とやらについていくのが正解であろうことは私にも予想できる。断る理由がない。
彼はここまでの私の思考を読んでいったのか。疑問は残るがとりあえずいい。報復はとりあえず果たしたのだから、あとは身を任せようじゃないか。
私は達成感とともにゆうとに続く。ここでまたゆうとが振り向いた。
「あ、そうだ。銃はしまっておけよ?」
私はあわてて鉄の凶器をぽっけにしまい。いつの間にか脱げていた上着を羽織った
報復の弾丸 松風一 @Matsukaze_1234
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。報復の弾丸の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます