第5話 サイショノ

 今日、僕は夢を見た。妙にリアルな夢だった。

 誰しも一度はあるだろう。朝起きたら、さっきまで鮮明に覚えていたはずの夢をおぼろけにしか思い出すことができない。そんなことが。今日の夢がまさにそうで、大体の内容を覚えているのに細かい部分を思い出すことができない。とてももやもやする、朝から嫌な感覚。まあ、それはいいとして。夢の内容だ。夢では、よく見るような住宅街で、僕と同じくらいの年齢の男が銃を構えていた。そう、あの銃である。戦争映画とか西部劇に出てくるあれだ。分類で言えばハンドガンだったと思う。そして、男の隣には同じくらいの背をした男がもう1人いた。さらに不思議なことが一つ、なぜ二人の前に暗闇が広がっていたのか。銃を構えた男は、僕がよく知っている男だった...はずだ。いや確かにそうだった。この妙な夢は、そんな確信のせいで変に印象に残っている。何かが、ナニカが引っかかる。

 せっかくの行動日だというのに、この夢のせいですっかり目がさえてしまった。昨日セットしたタイマーは、まだ寝ている。外もまだ少しくらいと思う。体内時計がそう呟いている。

 特にすることもなく、目をこすりながらカーテンを開けてみる。当然だが、昨日の綺麗で華麗な月はもう見えない。意味もなく窓を開けて、しばらく空を見上げる。ちょうど日の出の時間に重なってくれたようで、住宅街の屋根の向こうに少し光が見える。一度目をつむって、開ける。

「やるんだろう?十刻優斗。覚悟は、できているだろう...?」

 右手の平を光に合わせるように掲げ、動かしていく。中二病かと、カッコつけかと。なんとでも言ってくれ。それは僕が一番わかってる。けど、そうじゃないということも僕が一番わかっているつもりだ。空に掲げた手を見て、頭でそんなことを考える。だんだんと強くなっていく差し込む日の光が、指の間から漏れてきてまぶしい。もう一度瞬きをしてUターン。結局じっとしていることのできない僕は、昨日用意した服に着替えてドアノブに手をかける。

 学校に行っていた時より1時間も早く。一か月も引きこもっていた不登校とは思えない足取りで。朝の活動を開始した。


 リビングに降りても家族はまだ起きていなかった。それもそうか、まだ日の出の時刻だ。早起きの母親もまだもう少し寝ていそうである。どうもおなかが減った。

 冷蔵庫を開けて中身をあさる。そして残り物のオムライスを取り出して、温める。そういえば昨日の夜も食べた気がする。パクパクとオムライスを口に運びながら、今日の行動計画を頭に思い浮かべる。

「あれ、ユウト起きたの?」

 背後から母の声が聞こえて、反射的に僕は振り返る。少し驚いたような、微笑むような顔で僕を見ている。

「うん。このオムライスおいしいね。」

 母は、そう?とかえしてキッチンに引っ込んでいった。水道の音が聞こえ始めてすぐ、スーツ姿の父も現れて僕の姿を見る。目が合う。一言も言葉を交わさなかったが、何となく言いたいことが分かった。‘やっとか‘そう優しく言われた気がした。

 父は朝は何も食べずに出ていく。父を見送る母の声を聴きながら、オムライスを食べ終えてかばんを取りに部屋に戻る。それから、リビングに顔を出さずに出ていく。つもりだったが、何かを察したように玄関に母が現れた。

「学校?」

 そう聞かれたが、もちろん違う。母も答えはわかっているだろう。制服すらもきていないのだから。だからというわけではないが、嘘をつくのはやめた。

「今日はまだやめとく。やりたいことがあって」

 いきなり計画と違うが、いいだろう。母は‘まだ、ね?‘と念を押して僕のことを見送った。家を出た僕は通学に使っていた電車に乗って、学校の最寄り駅まで乗る。朝早くに出てきたが、ヨウジがあるのは夕方から夜にかけてだ。

 高校近くのカフェや本屋、その他の店をてんてんとして時間がたつのを待つ。

 日が落ちてきて、僕は腕時計を確認する。よし。

 ポケットを外から触って、あるものを確認する。よし。

 高校の出口付近に移動してしばらく、ターゲットの男が出てくることを確認する。よし。

 僕はその男の後ろを歩いてつぶやくのだ。

「復讐だ」

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