第3話 ハジマリ2
結果から言おう。僕はあの日から約1か月間学校に行かなかった。不登校になったということだ。そのことで、親には何度も声をかけられたし衝突もした。カウンセリングなんてのにも行かされかけた。けど、何とか自室というテリトリーから極力動かなかった。理由はどうであれ、言ってしまえばただの引きこもりだ。
けど、もちろん何もしてなかったわけではない。その間、ずっと部屋にこもって美奈さんの自殺の件について調べ続けたのだ。WEBサイトをはじめとして、SNS、コミュニケーションサービス、新聞、テレビ。素人が思いつく限りの手段を尽くして真実を追い求めた。
そうすることで、僕はいくつかの仮説を立てるまでに至った。そして、僕と同じように美奈さんの自殺について不信に思っている人も、少なからずいることも知ることができた。
僕の立てた仮説だが、僕の中では美奈さんが望んで自殺をしたというのはやはり考えずらかった。これはもちろんしっかりと考察した結果だ。まず、僕が調べて分かったことを話そう。
初めに説明するべきなのは梅原財閥のことだろうか。梅原財閥は、梅原剛社長が一代で作り上げた大財閥のことを指している。最初は電子部品を作る小さな企業だったが、次第に売り上げを伸ばしていった。そして、いくつもの企業を取り込んで、最終的には有名な企業までも引き込むまでに至った財閥だ。そして、この財閥の会長がさっきからたびたび出てくる梅原剛である。その娘であり、一番の跡取り候補であるのが美奈さんだった。背景はこんなところだろう。
では、なぜ美奈さんが自殺しなければいけなかったのか。僕の考えはこうだ。
梅原財閥はさっきも言ったように様々な企業を飲み込んで大きくなった財閥だ。そのため、梅原剛の下に、たくさんの権力者が横並びになって存在している。そのため、梅原剛が引退した後の会長が誰になるのか、いわゆる後継者争いをしていた。もちろん後継者として一番有力だったのが、さっきも言った会長の一人娘。そう、美奈さんだ。ここまではいいだろう。では、その状況を他の有力者は温かい目で見守るだろうか。
答えは否だ。たとえ表向き仲良くしていたとしても、内心では絶対に快く思っていなかっただろう。こいつさえいなければ、そんな感情を抱くかもしれない。だから、そう思った誰かが、何らかの手段を使って美奈さんを精神的に追い詰めて。それから自殺させたのではないか。
僕の考えたのはそんなところだ。
もちろん最初にこの考えに至った時は、それは考えすぎであると思った。僕はちょっとおかしくなっていて、冷静さを失っているのだと。
けど調べていくにつれて、それを本当にやった証言や証拠になりそうなものがいくつか出てきたのだ。証拠隠滅された後のような痕跡も見つかった。
ここまで来たら、後は誰がやったか。Who 部分が分かればいい。
これが驚いたことに、とてもあっさりと発見することができたのだ。発見といっても証拠があるわけではない。
この事件に関わっていたと踏んだある人物のSNSを確認した時だった。僕はそこで、不審な投稿を見つけたのだ。
その投稿というのは、大体数週間から一か月あけて、ただ数字だけを書き込んでいるというものだ。そして、同じ日に何かを小ばかにするようなコメント。
この一見意味のなさそうな投稿、似たようなものを数えてみると20個ほどあった。数字内容としては、ある時は81だったり、ある時は76だったりとバラバラな数字だ。最小数は63、最大数は100となっている。
僕はこれでも美奈さんとはだいぶ仲が良かった。と、思っている。だからこれを見たとき、この数字がなにを表しているか、どれだけひどいことを美奈さんがされていたのかすぐに想像することができた。
僕のような素人が疑問に抱き想像できるようなことだ。この道のプロである警察が疑問に思っていないなんてことはないだろう。だけど、警察が逮捕に踏み切るためには、いくつもの手順と正確な証拠、逮捕令状。そんないろんなものが必要になってくるはずだ。よく知らないけど。
だからこそ、警察は動けないんじゃないだろうか。こんなネットの書き込みじゃ証拠にならない。
だって、だってこれは美奈さんのテストの点数だ。
最低得点を取ってしまったと嘆いていた時、満点をとれたと喜んでいた時。高校生になってからテストの点数を気にし始めたこと。僕は中学の時から美奈さんと一緒だったんだ、全部知っている。
これは、現代のネット社会を盾に取った、本人にしか効果のない攻撃。いうなれば透明なナイフだ。
くらった本人は何を使ってどう攻撃されたのか分かるのに、周りの人にはさっぱりわからない。そんな卑怯な武器。
そして、これをやっていたのは、僕が、僕と美奈さんが通っていた高校の教師だ。名前は崎田雄介。
あんな人間でも、教師だ。こんなことをして許されてたまるか。
何かが僕の中でふつふつと湧き上がる。負の感情という奴だろう。この黒に、僕は身を落としていいのかわからない。
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