記念枠
Halloween番外編① 前夜に談話と抱擁を
※本編の内容とは関係ありません。
――――🎃
「もうこんな時期か。」
目を覚ますと、久しぶりに日付を見る機会ができた。
正確には、ネットサーフィン中にトレンドを見かけたのだ。
画面に映る数字は10/31。お馴染みのカボチャが藍色の夜空を背景に笑っている。
「…はあ、あなたが今気にするべきなのは、時期じゃなくて時間よ。深夜なんだから、もう寝ましょう?」
美鈴が僕の椅子の手すりに腰かけて、話しかける。いつもなら断るところだが、今日は無性に、その言葉が正しいように思えた。
「…わかった。寝ようか」
「珍しい。でもいいわ。私は大歓迎よ」
僕がベッドに横たわると、彼女も布団の中に潜り込んでくる。彼女をこの家に住まわせ始めた時から見れば、考えられなかったことだろう。しかし、この生活に慣れたのだろうか。最近は、こうして一つの寝台で一緒に寝ることが多くなった。
「美鈴は、ハロウィンに興味はある?」
「どうしたの、急に。…私は特にないかな。あれって、一部の人たちが楽しんでいるイベントじゃないのかしら」
ふむ。とても一般的な意見だ。僕もそう思っていた。だが、僕はトレンドの動きを見て、ある疑問が浮かんだ。人の興味や行事の意義は、あまり関係ないのではないか。どうせ、人の意見などに左右されず、イベントは毎年行われる。スルーするのは簡単だが、それは、いわゆる「もったいない」というやつではないのだろうか。
「僕も、そうだった。でも今年は少し興味がある」
「へえ。それはどうして?」
「さて、どうしてだろうね。僕も本当のところはわからないんだ」
自分自身のことは自分が一番わかっている、などという言葉があるが、あれは、局所的に使う言葉だ。ゆえに、完全な再現性はない。
なにがいいたいかというと、説明するのが面倒だということだ。
「そういうこと、たまにあるわよね」
「わかってくれる?」
「ええ、もちろん。それに、たとえ今わからなくても、私はできるだけわかれるように努力するわ。あなたにおいてきぼりにされるのは、嫌だもの」
…ときたま、彼女がとても抽象的なことをいうことがある。僕はそういうのをどう受け止めればいいのかわからなくて、苦労する。必ずしも答えを求めていない場合や、返答自体に意味が込められているとき、何が正解なのか、わからなくなるのだ。
「わからなくなったら、言ってくれればいいよ。できるだけ説明するように努力するから」
「本当?私はあなたほど頭が良くないから、理解に時間がかかるかもよ?」
「問題ないよ。」
彼女が僕の手を握る。その手は暖かく、少し震えているようにも思えた。
「バカすぎて、あなたを呆れさせるかも」
「美鈴は馬鹿じゃないし、呆れるなんて絶対ないよ。僕が話すことは、美鈴に伝えたいことだから。伝えられなかったら、僕も悲しい」
彼女の手の震えが、少し落ち着いた。彼女は今、どういう気持ちなんだろうか。雑談からこんな話題にするなんて、不安にさせてしまっていたのだろうか。
「美鈴、ちょっとこっちに来て」
「え?」
同衾の経験自体、記憶にほとんどないが、これは僕でも覚えていることだ。
人は、抱きしめられると安心する。
「ちょっと、
「安心するでしょ。何かが不安みたいだから。僕じゃこんなことぐらいしかできないけど」
僕のつたない言葉でも、彼女には伝わっただろうか。ほかにやり方はあったかもしれないが、とっさに思いついたのがこれだったのだ。
「…ありがとう」
彼女の体温も相まって、寒い夜だけど、随分暖められた。僕はようやく眠くなって、最後に一言告げた。
「おやすみ」
彼女からも静かに返事が返ってきて、僕も安心した。
「おやすみ――」
そのあとにも何か言っていたような気がするが、僕は聞き取れなかった。
「――大好き」
恋を恋する天才高校生 柊 季楽 @Kirly
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