第45話 木馬の中には何がいる? 前編

「さて、どこからどう来るかな。」


 僕はシェルターの管理室、その中の監視ルームに来ていた。一応シェルターの防御施設に一切の不備はなかった。ただ、防御施設とは言っても外装が固いだけの張りぼてにすぎない。LSの構成員なら、すぐに気づかれるだろう。


『北ゲートに指定数値以上の衝撃を検知しました。予備防壁を起動しますか?』


「Yes。来たか、思ったより早かったな。」


 こっちの準備が整うことを案じてか。ま、とくに大層な仕掛けはないんだが。


『北ゲート第一防壁が破壊されました。第二防壁にも重大なダメージ損傷があります。――第二防壁が破壊されました。第三防壁を――』


 機械音声が途切れた。信号も来ないし、通信機関が破壊されたのかな。物騒なことだ。一体どんな武器を使ったのやら。


「さてさて、まずはこちらから話しかけてみようか。」




 ・――――――・



『――あーテステステス、聞こえるかな。君がLSからの刺客だね。あ、昼間はどうも、焦ったよ。君たちもカフェに行ったりするんだねえ』


 その声はどこからか聞こえてきた。呑気で、どこか陽気にさえ聞こえたが、確かにサンプルで聞いた声だった。


「佐々木旅人か。…やはり、バレていたか。まあ、いい。さっさと出て来い。こんな見掛け倒しの施設に籠ったところで、我らからは逃げられん。それはお前も知っているだろう。」


 本当は逃げられると困るのだが、見つかった以上はそれを知られるわけにもいかない。それに、こんな仰々しい施設に籠るということは、最初から逃げるつもりはないのだろう。


『ふふ、逃げられたくないんだろう?別に心配しなくても僕はココから逃げないよ。大人しく殺されてやる気もないけどね。』


 煽りか?小癪な真似をする。その程度でカッとなるほど私も間抜けではない。


「すぐに見つけ出してやる。せいぜいホラを吹いているがいい」


 私は中心部に向かって駆けだした。



   〇



「本当に何の迎撃システムもないのだな。それに、警察も、ましてや兵の一人すらもいないとは。」


 油断されているのなら楽なことだが、ここまで無防備だと少し怪しいな。奴もLSの戦闘力は知っているはず、大量の雑兵は無駄と判断したか。いや、しかし兵士を全く配置していないとは限らない。


「少数を隠している可能性、か。だとしたら厄介だな。しかし、こちらにはもある。電子上に残したデータすべてを隠しきれるとは思わないことだな。」


 LSには独自の検索エンジンがある。それを組み込んだ特殊なPCを使うことで、無駄な情報を省き、情報の閲覧回数などに関係なくすべてのデータを一覧で見ることができる。

 そしてヒットした一件の情報。この建造物の階層情報から、各階層の配置図もある。投稿されたのは6年前。消しきれなかった情報である明白な証拠である。


「人を配置できそうなのは、このダクトか。それに、通った人間を死角から攻撃できそうなのは――」

 

 私は配置図を確認し、ある部屋の角にある換気口を見つけた。

 静かにその天井に近づき、爆風範囲も加味して、壁にC-4を設置した。そして、すぐさまその場所を離れて、起爆した。


ピー!という特徴的な長い音に続き、鼓膜が震えるほどの爆音が鳴り響く。


「やったか?」


 あの爆発に巻き込まれては天井を挟もうとも無事では済まない。普通の人間なら全身損壊で死ぬだろう。経験談だが、少なくとも全身打撲でロクに動けないくらいにはなるはずだ。

 

 換気口は跡形もないほど損傷が酷かった。しかしながら人の姿は見当たらない。


「チッ、外れたか。ん?なんだこれは」


 天井の破片が飛び散っている残骸のあとに、一つだけ不自然に小奇麗なアタッシュケースが落ちていた。


「鍵は、掛かっていないな。中身は、な!これは、ぬいぐるみか?」


 白い鳥のぬいぐるみが、中から覗いていた。そして、傍にはメッセージカードがついていた。


『Present for you. Miss Assassin girl』


「くっ、こちらの思考はすべてお見通しか。この私を侮辱するとは!」


 私はぬいぐるみを投げ捨て、この部屋を出ていった。

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