第44話 死神の雛
「危ないわ。まさかあの店に入ってくるなんて」
私が襲った場所から近いのに、現場に戻ってくるなんて。今日は安全のために家に籠ると思っていたから、意外だった。
「でも、幸運でもあるわね。本人に発信機を付けられたのは、大きいわ」
マップ上に表示される赤い点を見ながら、私は微笑む。変なところに避難されると、探しようがないから、ありがたい。
「さて、あと三日ね。まあ、私の活躍しだいでは、もっと早まることもあるか。」
命の刻限の話である。私は、いつからか生きたいと思わなくなった。だから、寿命の時間を指折り数えることにも、抵抗がなくなった。
「・・・思えば、つまらない人生だったわね」
私は捨て子だった。人生の最初から、どん底だったわけだ。そこから、LSに救われて、これから上がることはあっても下がることなんてないと思っていたが、別のベクトルで最低な人間になってしまった。
人を殺すためだけに学び、時間を費やし、他人の復讐を叶えるためだけに命を賭ける。他にどんな生き方があるのか知らないけれど、もっとマシな人生も送れたのではと思うこともある。
しかし、私はもう馴染んでしまった。救いようのない畜生になってしまった。人を殺すことに対して、微塵の抵抗も感じなくなってしまった。
『諸君よ。私たちの仕事には、誇りを持って欲しい。これは誰かがやらなくてはいけない役目なのだ。やらなくては誰かが苦しみ続けるのだ。テロで夫を失った未亡人も、悪質な借金によって両親を失った子供も、法では捌ききれない悪を、常に恨み続けているのだ。警察ではいけないのだ。他者に虐げられる気持ちは、第三者から冷静に測られるべきではないのだ。』
先生の言葉を思い出して、自分を安心させているところが、私には確かにあるのだ。
「佐々木旅人。1026名の失職。203件の悪事告発。108名の重要犯罪者逮捕に貢献。ほとんど逆恨みでしょうけど、よくもまあ、16歳でここまで人の恨みを買ったものね。」
私が今まで請け負った仕事の中で、一番若いが、一番大きな仕事だ。それは、これらの被害だけが要因ではない。
「こいつはLSを裏切った。忘れもしないわ。だからこいつは、こいつだけは、私が死ぬまでに殺さなくちゃ」
実のところ、他人の悪意になど興味なんてない。あるはずがない。私が動くのは組織のため。そして、死んだ同胞のため。あるいは、今生きている同僚を死なせないため。
「人柱なんて偉そうなものじゃない。私は生きる理由も必要性もない。いわば死んでいるようなもの。価値のない命は雑に扱ってもいい。ただ、それだけのこと」
自分を貶めると、冷静な思考ができるようになった。組織からの支援が来ないことを思い出して、銃の残弾数を数え始めた。
「明日にしようかと思っていたけど、急いだほうがいいわね。…私も長生きはしたくないわ」
今日買ったばかりの服を破いて燃やしたあと、私は組織の制服を着た。
「佐々木旅人。私が最後に、人の恨みを買うということはどういうことか教えてあげるわ」
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