第42話 カフェでお互いを知ってみよう
「えーと、その供述だと、その方も交通違反ってことになりそうですけど」
警察の人は、苦笑いで言った。
「あれはどう見てもそうですね。ただ、当の本人はもう行ってしまったので」
彼は、竜矢くんは、行ってしまった。僕ではどうすることもできなかった。怒り狂っていたからだ。犯罪に、いや、アレは、悪に、だろうか。
もしかしたら、僕は無意識に、彼を恐れていたのかもしれない。僕は今こそホワイトハッカーだが、もとは、犯罪に近いことをしていた。彼の怒りの琴線にもよるが、彼に『悪』と判断されたら、徹底的に罰せられるだろう。
「まあ、こっちでも探しておきますね。とりあえず、君たちに大事がなくて良かった。」
⭐︎
話が終わった。さて、僕の方でも犯人探しをしよう、かな。
「ダーリン!」
署から出ると、ミアが胸に飛び込んできた。彼女は涙目で、僕を抱きしめてきた。
「良かった、本当によかった。」
「まさか、事故なんてね。本当に無事でよかったよ」
根黒さんも来ていたようだ。心配されるのは嬉しいが、この状況はまずい。
「旅人くん。その子は誰なの?」
振り返ると、凄い形相の神崎さんが、こちらを見ている。根黒さんはミアのことを知っていたようだが、困惑している。
「よし、カフェに行こうか。皆んなで!」
声を張り上げて、僕は空気を誤魔化す。
「ねえ、それ答えになってない。」
まだ神崎さんは誤魔化されないぞとでも言うふうにこちらを睨んでいる。
「質問にはカフェの中で答えるから。ほら、さっきの、神崎さんが教えてくれたコーヒー店で。僕コーヒーについてあんまり詳しくないから、おすすめとか教えてよ」
勢いで押していこう。神崎さんの手を握りながら、必死にお願いすると彼女は顔を赤く染めて、小さく頷いてくれた。
「仕方ないわね。」
「私も、別に良いわよ。だってこの子が誰なのか、どういう関係なのか、私も聞いても良いわけよね!
ミアの僕を抱きしめる力が強くなって、僕は胃が痛くなった。本当に僕の話で納得してくれるだろうか。いや、しないだろうな。だからって誤魔化せないのだけど。
「もちろん」
僕は二人の視線の火花を間近で眺めながら、冷や汗をかいた。
・——————・
私は、あるカフェでノートパソコンを開いていた。
服?もうとっくに買ったわ。デパートで5分で決めたもの。顔を変えれないのが少し不安だけれど、おそらく今回私は顔を見られていないから、そこは心配ないと思うわ。
「今日は日曜。あと三日なら、危険だけれど登校中のも検討しなくちゃならないわね。」
私は机端にある呼び出しボタンを押して、注文をする。
「お、お注文は何でしょうか?」
「ブラックコーヒーを三つ頂戴」
すると店員はバツが悪そうにしながら、口を開く。
「お客様、注文して頂けるのはありがたいのですが、その、あまり飲みすぎるのはお体に良くないかと」
そこまで言われて、初めて気づいた。確かに、テーブルの上には、既に飲み終えたコーヒーカップが、山のように置かれている。思えば、これまでの店員も、何か言いたそうな顔をしていたような気がする。そういう意味だったか。
「なるほど、苦いものばかりは体に悪いと」
「い、いえ、そういうことでは」
確かにバランスが悪いかしら。メニューを見直しましょう。
———こ、これは。我ながら、最高のチョイスを見つけたかもしれない。
「じゃあ、この『クリームあんみつぜんざい✖️フルーツパフェ期間限定50%増量中』ってのを5つ頂戴!」
「い、5つですか。お言葉ですがお客様、このセットは大変ボリュームがありまして——」
「大丈夫よ。私、甘いものは好きだもの。」
何をこの店員は心配しているのだろうか。金は大量にあるし、確か、この国の言葉に『スイーツは別腹』というのがあるらしいから、私はその作法に
ただ、私がきっぱりと言うと、店員は渋々と引き下がって行った。
わかれば良いのだ。わかれば。
ついでに言うと、完食した。なんなら、おかわりした。
⭐︎
僕たちがその店に着いたとき、案外人が少なかった。
「——お会計は、52400円です。ええ!?すいません、お客様、伝票を確認させていただいても宜しいでしょうか。」
「あってるわよ。案外安いものね」
少女は携帯を取り出して、電子マネーで、と決済をする。
「五万円だって、一体なにを頼んだんだろうね?」
「まあ、この店のものはどれも美味しいから、わかる気もするけどね」
神崎さんはうんうんと頷くと、不意に立ち止まった。
「どうしたの。」
「見て、あの人、とても綺麗。」
彼女の視線の先に、その人は立っていた。
艶のある黒髪に、赤い目が印象的な、黒のコートがとてもよく似合う女の子だった。確かに美人だ。
ただ、僕には何か既視感があった。何に?何だろう、強いて言うなら、雰囲気だろうか。突き刺すような瞳に、芯の通った意志を持っていそうな強気な顔。
彼女が店を出ていくとき、突風が吹いた。そこで、僕は見てしまった。決定的な証拠を。彼女の首元にある刺青がそれを示していた。
「まさか、ラスト・ストーカーなのか」
今更、どうして。いや、それよりもどうやってここを突き止めたのだろうか。僕は、背筋が凍ったような気分になった。
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