第41話 暗殺者

「俺は日ヶ峰ひがみね竜矢たつやだ」


 僕はその名前に聞き覚えがあった。それもつい最近、ブラックリスト入りの要注意人物として、だが。


「えっ日ヶ峰って確か謹慎の?」

「えっと日ヶ峰くん、君ってもしかして英璞学園の1年A組かな?」

「おお!よく知ってるな?」


 確信犯である。まさか会わないだろうと思っていたのに、あの男のカンは当たっていたと言うことだ。


「よくも知らないトラックに追いかけられ、要注意人物に助けられるとは、今日で結構な運を使っちゃった気がするね」

「ま、なんでもイイけどさ。とりあえず俺はあの運転手を死ぬまで痛めつけないと」

「そんなことしたらあんたまで捕まるわよ」


 幸か不幸か、彼のお陰で、僕らはさっきより砕けて話せるようになった気がする。ああ、やっぱり人の心はわからないな。完璧な受け答えのデータベースがないから、自分で毎回答えを考えなきゃいけない。それにそれは、大体的ハズレだ。


「はあ、色々ありがとね日ヶ峰くん」

「おう?それと日ヶ峰は言いにくいだろ。竜矢でいいぞ」

「それじゃあ竜矢、あのトラックをどうやって止めたの?」


 竜矢くんは神崎さんに睨みを聞かせた。結構怖い顔で、僕らは少したじろいだ。


「お前はやけに距離を詰めるのが上手いな。今度参考にさせてくれ」


 真面目かよ。

 そんな言葉が返されるとは思っていなかったようで、神崎さんは一瞬呆けてしまった。


「変わった人ね。警戒していた私がバカみたいじゃない」

「俺は清く正しく自分に誠実に生きているだけだからな。なぜだかあらゆる同級は俺を怖がるが」


 迷いのない声で、竜矢くんへ言い放つ。迷いのない人間は強いと言うが、なるほどこう言うことか。


「オーイ出てこーい!意識あるかア?」

「あれ?こっちドア開いてるよ?」


 まずいな。あの勢いで無事なことなんてあるのか。


「ああ?いねえじゃねえか」


 トラックの中には誰もいなかった。しかしエアバッグは開いていた。その状況が指すことはつまり——。


「逃げられたってかア?クソがっ、どこに行きやがった!」


 竜矢くんは猛烈に怒りだし、駆け出した。相手がどこにいるのかもわからないままじゃ、ほぼ確実に追いつけないだろうが、彼は完全に頭に血が昇ってしまっている。止めることは諦めた方がいいだろう。


「なんだったんだろう?行動がいちいち無鉄砲すぎるわね」

「とりあえず通報しようか」


 僕たちは途方に暮れたが、周りの騒ぎをまる限り、この状況をそのままにはできないだろう。素直に警察の事情聴取を受けることにした。



•———•


「・・・ボス、暗殺は失敗しました。」

『まあそのような気はしていた。役立たずにも程があるな。お前、もうその辺りで野垂れ死ね』


 電話相手は、とても冷たく、怒気を含んだ声だった。


「ボス、私はまだ私はやれます。ヤツを、クラッカーを殺す手立てはまだあります」

『いや、7893。お前はもう用済みだ。これ以上失敗するようなら我々の機関が勘付かれる可能性がある。三日後に戻れ。お前は廃棄処分となる』


 そして、こちらの言葉を聞く猶予もなく電話は切れてしまう。


「・・・やれるはずだったのに、何ですかあのバイクは。いや、それよりも他に考えるべきことはあります。あと三日、あと三日の間にヤツを殺し切らなければ」


 狭い路地の端で、一人の少女が項垂れていた。息も荒く、所々怪我も見受けられた。彼女は浅い深呼吸をすると、立ち上がった。彼女には時間が残されていないのだ。

 まずは次の機会を探すこと。そのために変装しなければならない。少女はそれらをリストアップすると、瞬時に暗記したのか、千切り捨てた。




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