《Foreign love》第37話 空港前での一幕

 「…君は、それでいいのか?」


スマホから放たれた言葉が、頭の中で反芻はんすうする。

「いいですよ」

「私の記憶では、マークはあの子にご執心じゃなかったかな?」

「俺は彼女にふさわしくなかった。それだけですよ。だってそうでしょう?んです」

「じゃあ、ハッカーの仕事は休業かい?の少年よ」

よくここまで同業者にバレなかったものだ。この人だけには真っ先にバレたが。

「はい、ファンが待っていますので」

「ふむ、あの子も君の曲のファンだぞ」

「…そういうことはもっと早く言って下さい」

変に心残りができてしまう。

「君が気づかなかったのが悪い。ドンマイだね」

無責任すぎる。

「切りますよ」

この人と話してるとおかしくなってくる。

「まあまあ、落ち着け」

「これが落ち着いていられますか」

「これで最後だ。いいかよく聞けよ」

「なんですか?」

「私はなあ、クールな男でも、泣いていいと思うぞ」

「はい…」


そして、通話は終了した。


 その言葉は、俺の中に何故かすっと入ってきた。だからだろうか、電話が切れるとすぐに、目から涙が溢れ出してきた。別に堪えていたつもりはなかったのだが、気づいたら俺は膝から崩れていた。


「あゔ、あああ」

 言葉にもならない嗚咽が漏れる。今までの彼女との思い出が、走馬灯のように頭に流れ込んでくる。

 ただ、思いついたら残さないといけない。その時にしかできない。だから悠長に感傷に浸ることも許されない。俺は数か月触っていなかったキーボードを取り出して、音を思い出すために、Bloom dreamsを弾くことにした。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る