《Foreign love》第36話 先生

 私は家に帰ってすぐ、先生に電話をかけた。我が儘を言うためだ。

「先生、次の仕事は――」

「いきなり掛けてきてなんだなんだ?私の勤務時間はもう終わったぞ?」

そうだ。この人はこういう性格だった。時間に細かいのだ。

「っ勤務時間外にすいません。どうしても話しておきたいことがありまして!!」

「……お前がそんなに必死なのは珍しいな。なんだ?」

「次の遠征のことなんですけど――」

「ああ、そうだった、お前の次の職場は――」

「「日本だ(がいいです)」」

「ん?」「え?」

「まあ、そう言うと思ったさ、私もお前には休養を取らせておきたいと思っていたからな」

「え?でもいま先生職場って言いましたよね?」


 少し沈黙が流れる。

「それは、まあ、あれだ。特に難しい仕事ではない。お前にとっては朝飯前のはずだ!」

「…本当ですか?」

「ああ、本当だとも。何せ、お前は最高のスケットを呼べるからな」

その言葉がさす意味は一つだ。

「では、ルディと仕事をできるんですか?」

「ああ、どうだ?飲んでくれるか?」

「はい、ぜひ!」

「交渉成立だ。明日には空港へのチケットを用意しよう。思い切り暴れて…いや楽しんできてくれ」


言い終えると電話はすぐに切れた。あとから文句は聞かないぞという意志にも読み取れるが、今はそんなことはどうでも良かった。


「やった!やった!」

もはや、彼に会えるならなんでもいい。彼のことしか考えられなかった。

「今から電話しよう。」

それから長らく使っていなかった国際電話をかけた。彼の生活の邪魔になるかも知れないと思って、メールなどは交換していない。…それに、今は声が聞きたかった。


「もしもし…、佐々木旅人ですが?」

私のわからない日本語が出てきた。でもその声の主がルディであることは分かる。

「ロングタイムノーシー《ひさしぶり》、ルディ!」

『もしかして、ミアか?』

「うん!そうだよ。次の出張で、日本に行くことになったの!」

『ほんと?よかったな!』

「病気の方は大丈夫なの?」

『ああ、こっちはかなり落ち着いたよ。ちょっと前に吐いちゃったけど…、まあそれからはなんともないから』

「それ、本当に大丈夫なの?ちゃんと食べてる?マークも心配してたよ?」

『…大丈夫だよ。実際医者には治ってきているって――』

「そうなんだ。私も明日そっちへ行くから、楽しみにしておいて!」

『え、明日?』

「そうなの、驚いた?」

『驚いたって云うか…急だな』

「それは、そう…だからね」

『それ、ここで言ったら意味なくないか?」

大事なのは内容だから、と私は続ける。

そう、私はこの人を私の中に閉じ込めないといけないんだ。そのための手段はなんでもいい。

『――ああ、じゃあ楽しみにして置く。待ってるよ』

「うん!」

 そうして小一時間ほど話した後、私はベッドにもぐりこんだ。すぐに寝つける気はまるでしなかったが、さっきまで彼と話していたんだと考えると興奮が抑えられなくて、同時に気恥ずかしさで頭の中がピンク色になった。布団にでもくるまりたい気分だったのだ。

 結局、眠れたのは日付が変わってからだったような気がする。ただ、いつもはある深夜の仕事を夕方に回してもらったので、実質いつもよりかなり眠れるだろう。

どうせ夢にも彼は出てくるだろうと考えると、案外すぐに意識は遠のいて行った。

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