《Foreign love》第35話 ドライブ中に話すことは大体決まってる

「…わりと、直接話すのは久しぶりですね」

「そう?」

「そうですよ!確か2、3週間前にあったきりですね」

「で、何の話よ」

「そうっすね、んーなんかミアさん、何か今日機嫌良いんですね」

「どこが?」

「いや、いつも罵倒されてる身としては、体感的に」


電話のときとかなり違って、マークの声は上ずっている。少し緊張しているのだろうか。柄にもないくせに。


「別にいつも怒ってるわけじゃないし」

「ええ…?」

「何よ、文句あるの?」

「…いや、ないっすよ?」

「じゃあいいわ」

「…ほら、やっぱり。なんかいいことありました?」

「あそこの店のカフェオレは美味しかったけど…」

「へえ…」

「だから何よ、さっきから!」

「ああ、怒らないでくださいよ。怖いんですから」

「………」


不本意にも心当たりはある。

「ああ、やっぱ喋れないな。先輩がいないと――」

「先輩って、ルデ、んん、ルドルフのこと?」

「他に誰かいますか?」

「いや、まあ、そっか」

同年代で先輩と云えるのは確かに彼ぐらいしかいない。

私は年齢だけで言えばマークよりも年下だから。


「先輩、どうしてるんだろう。確か仕事は継続してる感じなんですよね。それに学校もあるなんて」

声を震わせ、マークは身震いする。

「何よあなた、学校嫌いなの?」

「そりゃあ、ミアさんよりは陽キャしてると思いますけど、好きじゃないですよ。ミアさんは好きなんすか?」

「いや…」

「でしょう?第一こんな深夜帯に仕事がどんどん入ってくる生活で、学校なんて行けませんて」

「そう?大学とか共同生活みたいなの、少しは憧れるけど」

「あー、それは確かにそうですね。俺も結構憧れた節はあります」

「ま、そんなこと考えても仕方ないか」


諦めてからは早い。私もマークもこの仕事に就いた地点でそのことは覚悟している。

「そっすね、あ、先生がミアさんに話があるって言ってましたよ」

「えー、また仕事とか平気で言いそう」

「そうなったらいいですね。連続勤務日数ギネス行けますよ」

「過労死しそう」

「俺らは労働基準法当てはまらないんすから。抗議もできないですしね」

「その代わり無駄に給料が多いんだよなあ」

「貯金すればいいじゃないですか。将来使うかもしんないですよ」

「口座開設も面倒くさくない?調べられたりしたくないし。」

「じゃあ、何か趣味とかないんすか?のめりこめるものを見つけるのも、人生を楽しむ大切な秘訣ですよ」

「うーん、趣味、趣味ねえ?カフェオレ?」

「太りますよ」

「おい、それ女に言っていい言葉じゃないからな!?」

「まあ、ミアさんはガリガリなんで、もっと肉つけてもいい気はしますが」

「昼夜逆転男がよく言う」

「でも俺はいたって健康ですからね」


 だからこそ俺は先輩が心配なんすよね、と云いながら、マークはハンドルを回す。

確か次の角を曲がると私の住む家につくはずだ。(ちなみに家は給料で建てた)


「ねえ、マークって彼女いたことある?」

「急になんですか?交際のお誘いですか?」

「いや、単純に経験があるのか聞いてんの」

「まあ、そりゃ、自慢じゃないですけど、この仕事に就く前はモテましたからね」

「へえ」


私は、マークをジロりと全身を見る。本当にこいつが?嘘くさくて仕方がない。

「じゃあ、さ、ちょっと遠距離になって連絡が途切れた時、どうする?」

「すごくリアルな恋愛相談すね。てか知りませんでした。ミアさん彼氏いたんすね」

「例え話でしょ。で、どうするのよ」


 んー、とマークは思案顔をする。考えているのかいないのか怪しい。

「それは、もう終わりじゃないっすか?遠距離だけでもかなり危ないのに、連絡が途切れてたら。もう別れたって解釈されても仕方ないですよ」


 自分の顔が青ざめていくのを感じた。確かに許嫁は完全なる強制ではない。日本で彼女を見つけてしまったら、と考えると、どっと冷や汗が出てきた。

「さ、つきましたよ。またご機会があれば、レストラン、行きましょうね?」

「えっいや、あ、うん」


車から降りながら、私は曖昧な返事をした。

あまり頭が回らなかった。とにかく次の移動で何としてでも日本へ行こうとだけ、決意した。

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