第32話 日常=閉話休題

「おはよう岡田君」

「おやすみ佐々木」


学校に一番最初に登校し、朝練を終えた彼は言う。


「おつかれ」

「ああ。もう、最近全然寝れてないんだよなあ。なんだよあの監督、もっと丁寧に扱ってくれてもいいじゃねえか。」

「あはは…」


僕はスポーツのことはよく知らないので、相槌を打つぐらいしかできない。


「そういやお前、最近神崎と仲良いよな。」

「あ、うん、仲がいいとは少し違うけど…」

「なんだ、お前、もうそっち側なのか?」


最後の希望を見るような目で彼はこちらを向く。


「え、あ…いや、そんなわけないよ。僕なんかにそんな」

「本当か?」

「あ、うん、いや…うん。」

「なんで二回頷くんだ?」

「いや、だって僕だよ。」

「そっか、まあお前だもんな。」


少し安心するように、また思考を放棄するように彼は机に突っ伏す。

 今だによくわからない。彼はイケメンで運動もできるのに、何故かモテない。モテないのは僕もだけど、彼は何故かネタ枠的な扱いを受けている。陽キャは、何も考えずに行動しているように見えて、常に何かに配慮、思考しているから怖い。こと人間関係において彼らは僕より何万倍も長けているのだ。

 やめたやめた。変なことを考えるのは失礼だ。数少ない僕の友達がこれ以上減るのは何をしてでも阻止しなくてはならない。身震いして、僕も机に突っ伏す。電気のついていない教室が、いつもより冷たく感じた。

 どうするかなあ、昨日は結局先輩の家に泊まってしまったし。怒られるかキレられるか、変に想像を膨らませて、誤解しなければいいけど。



―昼休み―


 あれからどうなったかどうかは想像に難くない。叩き起こされて事情聴取やら状況説明やら、岡田君からは白い目で見られるし、クラスはざわつく。目立って仕方がない。


「ねえ、もうそろそろよくない?急用だったんだよ。」

「あなたねえ、私が家でどれだけ待ったと思ってるの。料理も冷めるまで準備も…あ――」


馬鹿だろ、人前では言わないって自分で決めた癖に。


「ねね、やっぱり二人って同棲してるの?」

「いや、それは――、そ、そんなわけないじゃない。」


相変わらず取り繕うのが下手すぎる。


「ああ、もう。同じ家に住んでいるのはそうだよ。ただ親の都合だし、同棲とは違うと思うけど。」


 あながち嘘でもないグレーゾーンで話を進める。それが人から何かを隠す時の基本だ。それでもクラス内は沸き立ってしまう。怠い、『こうなったのはお前の責任だぞ』という意をこめて、美鈴を睨む。もう、こんな思いはしたくないものだ。


そして拗ねてしまった岡田君にその勘違いを解くのに、その日一日を使うことになった。

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