第28話 恋とは何か?

「佐々木くん、参考までに聞きますが、恋とはどんなものだと思いますか?」

「い、いきなりですか。どんなもの…というのは?」

「質問が抽象的すぎましたね。……あなたにとって、恋の定義はなんですか?」

「そうですね~。」


 僕は先輩の後姿を眺める。彼女は僕の少し前を歩いている。どんな顔をしてるんだろ。


「…正直なところ、わかんないですね。彼女もいたことがないので。」

「そ、そうなんですか。私も彼氏はいたことないんですよ?」

「そうでしょうね。」

「ええ!?どうしてですか?」

「あ、すいません。いや、なんとなくなんですけど。先輩が男性と付き合ってるのちょっと想像できなくて。」

「??」

「まあ、ちょっと説明が難しいんですけど――。それで、先輩はどうなんですか?」

「私ですか?」

「はい、先輩の恋の定義って、あるんですか?」

「ああ、そうでしたね。んー私は――、あ!家、着きましたよ」


目の前の高層マンションを指さして、彼女は云う。


「え?ここですか?マンションに住んでるんです?」

「はい、ここの35階です!」


 マジか。


「…お金持ちなんですか?」

「いえ、両親からお金は借りていません。キツキツなんですけどね…。」

「いやいや、それでもすごいですって、そんなお金どこで稼いでるんですか?」

「うっ…そこは、あれですよ。秘密です」

「はあ…」


自分だけで高層マンションに住めるだけ稼いでるって、どういうことだよ。

エレベータに乗って、ふと思っていたことを聞く。


「危ないバイトとか、してないですよね?水商売とか。」

「!?み、水商売って…そんなこと、するわけないじゃないですか!」

「よかった。すいません。」

「はぁ…いきなりなんてこと言うんですか…」

「ところで僕も意味知らなかったんですけど、水商売ってなんなんです?」

「…本気で言ってますか?」


首を縦に振る。


「はあ…危ないバイトであることは間違いないですよ。知らないなら、知らない方がいいと思います」

「え、じゃあ、先輩はなんでそんなことを知ってるんですか?」

「そ、それは………あ、私が先輩だからですよ。大人だからです!」

「取ってつけたような理由ですね」

「う……」

「ははっ」「ふふっ」

「何か楽しいですね。」

「はい」


笑い合っている間に、到着のベルが鳴る。


「ここですか。」

「はい!」

「あ、そうだ、夕飯まだですよね。その辺に掛けてください。なにか出します」

「あ、わかりました」

 

 部屋に入ってから先輩は思い出したように云う。何が出てくるんだろ。得意料理とかあるのかな。


「あ、佐々木くんはカップラーメンとか、好きですか?」


ちょ、ちょっと待て。


「食べれないことは、ないですけど、まさか…」

「まさか、なんですか?」

「自分で料理、しないんですか?」

「はい、時間がありませんし、自分で作ると素材がダメになっちゃうので」

「や、やばいですよ、それは」


 この人、イメージと全く合わなくなってきた。マジか。無意識に台所に走りこむ。


「…もしかして、佐々木くんはお料理できる系男子ですか!?」

「はい、なので、先輩は休んでいてください。よく考えれば、あなたはずっとあんな寒い中にいたんだ。これぐらい、僕に任せてください。」

「…驚きました。ちょっとキュンと来ましたよ。」

「…っ、何言ってるんですか。ほら、さっさと行ってください。」


俯きながら、先輩を台所から押し出す。


「楽しみにしておきますね。」

「あ、はい。」


思わず惚ける。あの笑顔、今までどれだけの人に見せて来たんだろう。


「まったく、困るなあ。」


また、長い夜が始まる。

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