第27話 夜中8時、静かな駅で
「こんなもんでどうだい?お客さん」
「……やば。」
父さんの腕がいいのは知っていたが、いつも伸ばして派手に切ったりしなかったからびっくりした。髪切るってこういうのなんだ。でも――
「髪の量全然減ってなくない?もっと切るもんだと思ってた。」
「これくらいでいいんだよ、これくらいで。そんな短いのお前にゃ似合わねえよ。」
「うん、それは確かに感じた。ま、とりあえず、ありがと。」
座席を立って、着替えを取る。
「おい、今からどっかいくのか?」
「うん、ちょっと、人待たせてるから。」
「待たせてるって、もう19時だぞ?」
「わかってる。」
「…はあ、お前、ほんと変わったよな。」
「そうかな?」
「…わかったよ、学生ってのは、そんなもんだ。」
「察しが良くて助かる。」
「いいからいけ、女の子を待たせんな」
「はいはい、じゃあ、またね。」
「ああ、また。でもほどほどにしろよ」
もう雨は止んで、星が綺麗に見える。と言うか、結局帰りも徒歩か。雨は降ってないのが不幸中の幸いだが、それでも面倒だ。『今から行きます』とLINEを送り、5分ほどかけて、また駅に戻った。
―★―
また一時間ほどたって、ようやく例の駅に着く。この時間帯の電車は使ったことがなかったから、人の少なさに驚いた。駅のホームには巡回する駅員しかいない。割と大きな駅であるから、先輩も見える範囲にはいない。
『着きました』と送ると、すぐに既読がついて、
『わかりました!西出口付近で待ってます!!』と返信が来る。
驚いた、出口も複数あるのか。駅員さんの手を借りて、改札口まで行くことにした。
―☆―
『着きましたよ』
個人LINEの画面をずっと睨んでいた私は、そのメールが来たとき、跳ね上がった。少し寒いなと感じるころだったが、一気に体に血がめぐり始めた。
急いで返信を返し、ずっと改札口を見続ける。
こういうとき、時間はとても長く感じる。心臓の鼓動が、自分の腕時計の秒針より速く脈打つ。数分前に女性の明るい駅員さんが話しかけてくれたときも嬉しかったが、それ以上に脳内が騒いでいた。
あれ?遅くないか?そう思って改札口の奥を覗き込んだとき、さっきの駅員さんと一緒に階段を下りて来る佐々木くんが見えた。
私は固まった。髪を切ってくるとは言っていたが、パーマまでかけてくるとは思っていなかった。佐々木くんには長いのも好きと云ったし、本音もそうだったが、これは……
正直最高だ。ドストライクというやつだろうか?仕草一つ一つに目が奪われる。横に立つ駅員さんに嫉妬まで感じる。
「あ、朝霧先輩、待たせてすいません。これでもかなり急いだんですが…」
私に気づくと、彼は申し訳なさそうにしながら、挨拶を述べた。
ああ、もういい、挨拶なんていいから、早く抱きしめたい。そんな煩悩が理性を揺るがす。だが、いくら人が少ないとはいえ、公共施設でそんなことはできない。彼も驚くだろうし。
苦虫を噛む思いで笑顔をつくり、私も挨拶を述べる。
「はい、おかえりなさい!佐々木くん。」
―★―
「おかえりなさい!佐々木くん。」
やはりかなり待ったんだろうなあという雰囲気を出しながら、先輩は挨拶を返す。…やっぱり綺麗な人だ。僕も胸が熱く高鳴る。この人がずっと僕を待っていてくれたという事実だけで、何か自慢したいような、黒い気持ちが渦巻く。
ああ、おそらくまだこの人は僕のことを好きでいてくれているだろう。付き合ってしまいたい。思いきって自分から告白してしまおうか。
でもお前は彼女を幸せにできるのか?自重の念が僕を抑え込む。
少し冷静に戻って、改札口を通った。
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