第26話 実家
電車に乗っている間に、雨が降り出した。困った、今雨具は持ち合わせていない。
父さんに救援のメールを送った。
「今日、髪を切る。今から帰るから、迎えに来てくれない?」
数分後、返信が来る。
「急すぎじゃないか?…ちょっと今お客さんがいるから、待ってほしい」
「何分ぐらい?」
「結構遅くなる、1時間はかかるかも。」
いつものことながら、1時間はキツイな。さすがに人を待たせている身では、そんなに悠長にしてられない。
走るか。
まだ雨は降っているが、駅から走ってもそこまで遠くはない。早々に決めると、荷物をロッカーに荷物を預け、駅を飛び出す。前に走ったのはいつだろう。歩いても、10分程度で着いた気はするが、10分も雨に濡れていては、風邪をひいてしまう。
「っショートカット!」
公園のフェンスを乗り越え、湿った芝生を突っ切る。雨雫が額をすべり落ちて、カッターシャツに浸みる。冷たい。できるだけ建物の陰に隠れていくか?いや、それでは時間のロスだ。物陰でも濡れるときは濡れる。それなら―――
「少しでも速く走るしかない、か。」
てか僕、独り言多いな。傍から見たら気持ち悪いだろうな。
「っ恥ずかし!」
さらに勢いをつけて、転げないギリギリのスピードで走る。次の角を右に曲がればもう父さんの美容室だ。
★
予定よりかなり早く着いた。でも父さんはまだ仕事中のはず、結局待たないといけないか…。
「おかえりおかえり、ずぶ濡れじゃないか、旅人」
リビングに寝転がっている人影が陽気な声を出す。
「…父さん、仕事中じゃなかったの?」
「いやあ、お前からなんて珍しいからな。なに、特に悪気はない。ちょっと反応を見てみたいなって思ったのさ。まさか雨の中走ってここまで来るとは思わなかったからなあ」
「…いいから早くしてよ。」
「そこまで焦る理由はなんだ?まさかコレか?」
小指を立ててニヤニヤと笑う。
「…違うよ。女性であることは間違ってないけど。」
「マジで?」
「………」
ねえ、後ずさりするようなこと?こっちも男子高校生だよ?
「そう、か。じゃあ、ちょっと本腰入れてやらないといけねえなあ」
なにかメラメラと熱いものを感じる。
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