第24話 夕日が憂鬱な放課後
「一目惚れ!?ごめん私の聞き間違いじゃなかったら、一目惚れって聞こえたんだけど」
「そう、あんまり大きな声で言わないで欲しいんだけど。」
旅人の顔は見たことがないくらい人間味に満ちていた。少し顔を赤らめていた。嘘だ、嘘だうそだうそだうそだ。
「ど、どうしたのよ?いきなり。どっか頭打ったんじゃないの――」
「そんなことない。なんて云うか、こう、電撃が走ったような、言葉がもうテンプレだけど、これがそうなんだって確信させるような感じだったんだよね。」
これほど生き生きとした旅人を見たこともない。無意識に唇を噛む。認められるはずがない。朝私が襲っても何も言わなかった癖に。認めるはずがない。でもなぜ今日、どこで?その女は誰。
そんな言葉が連鎖的に頭に浮かび、ふと思い出す。そういえば、彼は昔恋をしてみたいと言っていた。美鈴にしか云わないと。私にしか教えない二人だけの秘密だと。私は少し前に
息をつく。まったく関係のないことを考えると、頭は冷めてくるものだ。大丈夫、私が完全に間違っているわけじゃない。
「旅人、本当に恋なんかするべきだと思っているの?今のあなたは、バカに見えるわよ。動物みたいに…、理性の伴わない感情に身を任せているように。あなた、そういうところが人間が嫌いな理由じゃなかったの?」
私もそんなこと言えない。適当言っている。でも私だって旅人と恋したいんだ。会ったこともない。旅人のことを何も知らない泥棒猫になんて、盗られてたまるか。
「あ、やっぱり?そう思うよな。僕もそう思う。まあ、あの人も僕なんかには相応しくない。あんな綺麗な人は、もっと綺麗な心を持った人といてほしいかな。」
「誰よあなた、そんなことを言う人じゃないでしょ?」
そう云いながらも、私は笑みを浮かべている。最低だ、人が悲しそうにしているのを見て、嬉しくなるなんて、狂っている。人間としてダメだ。でもそれ以上に、さっきまでとは別人のように、いやこの場合はいつもに戻ったというべきだろうが、冷めた顔をする旅人に驚いた。身の振り方を察したとかいうレベルじゃない。一目惚れをしてその日のうちに熱が覚めるなんて、おかしい。
「はは、僕だって人間だからね。佐々木旅人である以前に、男だ。」
何も言えない。例えば他の友達なら笑ってダサいなんて言って、痛いって揄うこともできるのに、彼が言うと何か迫力が出る。
「今、怖いって思ったでしょ。僕も怖い。何もかもちょっと時間が経てば飽きる。諦めやすい。本気で何かを頑張ったことがないんだ。自語りみたいで気持ち悪いけど、本当。自分が嫌だ。たまに、自分がマジでつまんなくなるんだよ。」
泣きそうに、放課後の教室で愚痴を垂れる。隣の席だから、距離は近い。いつもこんなことしないのに。演技だったら揄われてるだけかもしれないのに、私は黙って聞き入れる。
「その点、美鈴は本当に優しいよね。君みたいな人は、成功するんだよ。人に親身に考えられる。自己の犠牲を抱え込む、人に好かれる。真剣に物事に取り組むことができる。主人公タイプだ。何なら僕の最大の理解者かもしれない。…そうだ、例えば、僕が君と付き合ったりしたら、僕も何か変わるのかな?なんちゃって。」
重い。でも、それが幼馴染の、私の役目だろう。
「そうね。その捻くれた性根、私なら直せるかも、いや直してあげる。あなたは私の扱い方を熟知していると思うけれど、私もそれと同じくらいには、あなたのことを愛しているから。」
とてつもなく恥ずかしい。ただ慰めるだけのはずなのに、自分をさらけ出す。でもそのかいはあった。旅人は目を見開く。そして、こぼれかけていた涙が、しっかりと、落ちる。
「やっぱり、美鈴は主人公タイプだよ。ほら、もう、嘘つかれてるかもしれないのに、そんなこと言って、涙が出ちゃったよ。優しすぎるんだ、本当に。」
そこで、彼は教室を出ていく。おそらく、私にこれ以上涙を見せたくないのだろう。また、彼を好きになる。
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