第22話 出会い
???視点
「えっと、あ、桜、綺麗ですね。」
突然現れた彼は、数秒後、私の目を見て言った。私は目が離せなかった。せっかくいいところだったのに、不機嫌でちょっと文句でも言ってやろうと顔を上げたのに、その顔を見た瞬間、胸がときめいた。原稿のことなんて、頭からすっかり消えてしまった。
おそらく新入生なのだろう。同級生にこんな人は居なかったし、それにこんな変わった容姿なら、目立つに決まっている。見たことがないはずがない。
少しぼうっとして、それから何か喋らなきゃと私も口を開いた。
「そうですね。良ければご一緒にどうですか?」
動詞が抜けた。小説家としてあるまじき行為だ。ただ、それよりも笑顔で言えているかの方が気になった。
じっとこちらを見つめる灰色の目は、固まったまま、動かない。何?私、変なこと言ったかしら。
しばらくして、思い出したように彼の唇も動き出す。
「ええ、喜んで。」
いきなりの笑顔に、自分の心拍数が上がるのがわかる。どうしたのよ、私。いつもはもっと冷静にいられるのに、ただ彼が表情を変えただけで、安堵と嬉しさが押しよせてくる。
ようやく、ようやくだと思った。やっと私もラブコメを書けるのだと。やっと私にも青春が来たのだと。この安心感は一生覚えているだろう。今日の出来事はいつまでも色褪せない。そんな根拠のない自信が、私を埋め尽くした。
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