運命の出会い
第21話 スクロールした時間の後に…
さっきも言ったが、今日は多分仕事がないだろう。よって、ダラダラと授業を受ける時間が長く続く。授業内容は説明されなくても解るし、なんなら学校なんて来なくてもいいのだが、母さんと父さんは口を揃えて『高校ぐらい青春してきなさい』と云う。
ただ、僕も恋愛をしたくないわけではなくて…ってそうだ。僕はここに恋をしに来ているのだ。初恋を盗んでくれる相手を探しに来ているんだ。すっかり忘れていた。
「…………」
思い出すように教室を見回しても、何かピンとこない。容姿で人を見るわけじゃないが、恋って自分で探して見つかるものじゃないだろう。誰かが言っていたような張り付けた建前なんて使っても仕方がないが、言葉が見つからない。
自分の好みなんてわからないし、もしかしたら本当はめんどくさいと思っているのかもしれない。ただつまらない毎日に少しの彩りを加えたいだけだろう。目があったら恋に落ちるなんて妄想だ。見惚れるような完璧な人間はいない。
こんなふうに適当に自分で考えてみると、そうかもしれないと思えてくる。
そう思っても時折思いを馳せてしまう。
『彼女がいたら楽しいだろうな』と。
いや、振られてもいいな。切ない思いと云うのも、経験してみたい。
まあ、人の三大欲求の中にアレも含まれるのだから、きっとそれも素晴らしいものなんだろう。…そういうのは好きな人としたいけれど。
ともかく…と結論をまとめようとすると、もう昼休みだ。何故かお腹はすいていない。そうだ、2、3年の教室を見に行ってみよう。何か出会いがあるかもしれない。
★
残念ながら、教室はほぼ空だった。おそらく皆さんは食堂へ行ったのだろう。
期待外れというかなんと云うか。一旦教室に戻って今朝作った弁当を持つ。
こういうときは雰囲気が大事だ。どうしよう、階段?狭いし埃臭いな。廊下は寒いし、屋上はいけない。かといって教室は論外だ。図書室で食事はできない…と、そこまで考えたところで、やけに凝った庭園が目に入る。
中庭で、いいか。
今はそんなに人はいないだろ。まだ時期的に寒いし。
教室を出て、廊下まで出たところで、水筒を持ってくるのを忘れたことに気づく。
でも、また教室に戻るのは面倒だ。久しぶりに自販機を使った。
やっぱりまだ外は寒い。ただ思った通り、中庭は食堂とほぼ真逆の方向にあるため、そこへ近づくほど人気は薄れていく。無法地帯で静かな場所、そう、ここが僕の求めていた場所だ。少し気分がよくなったところで、一つの人影が目に映る。
なんだ?不機嫌に戻った顔でその場所を覗くと、人影は顔を上げた。
なんだろう、そのファーストコンタクトだけで、僕の心は高鳴った。
突然の出来事で、僕は固まった。彼女もこちらを見て目を見開いていた。
「あ、えっと、桜、綺麗ですね。」
そんなこの上なく低IQな僕の言葉から、青春は始まった。
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