第16話 学園のマドンナと日曜日デート 後篇
「ほんと、旅人くんって綺麗な顔ね」
「…僕一応男だから、綺麗って言われてもピンとこないんだけど。」
「だって、ほんとに可愛いんだもん。…いっそのこと服も女物にする?絶対似合うよ!」
人生で初めてデートらしいデートをしている今、僕は感動を覚えていた。
神崎さんてやっぱり慣れてるのかな、彼女の話術というか上位のコミュ力のおかげで、僕は想像よりもはるかに楽しめている。
「それは謹んでお断りさせていただきます。…もう髪切ろうかなあ?」
「ええー。それは絶対ダメ!せめてもう少し可愛い旅人ちゃんを見せて?」
「旅人ちゃんって…。…あ!そうだ。神崎さん、それならせめてカッコいい髪留め見つけてよ? 見つけてくれないなら僕はこれから父さんのところへ帰るからね。」
「えー、…もう、わかったよ。」
「ありがとう。」
「でもさー、そのかわり、試着でいいから女性服も着て観てくれない?」
「えー」
「お願い、一生のお願いだから!」
「ここで一生のお願い使っちゃうの?」
そう、『一生のお願い』という言葉はよく使われるが、ほとんどの人がその場のノリだ。たいしてなんにも考えちゃいない。こういうところが若い日本人が抜けてると言われる要因になっているんじゃないか?知らんけど。
「え!あ、ん~。確かに一回じゃ…、んー。じゃあさ、私にだけ、一生のお願いを5回にしてくれない?」
「それじゃ一生のお願いには…、あー、一応成り立つのか。でもなんで5回なの?」
この場合、正確には「一生で優先順位が最も高いお願いが5個ある」という話になり、屁理屈だが大しておかしい事実にはならない。
「いや、これで一回使っちゃったでしょ?それから、これから旅人くんにお願いすることを考えると~~…えへへ」
ほんとに大丈夫か?この人、酒入ってないよな。ちょっとたださえ今日はすごい露出の服きてるのに…、もう、目のやり場に困る。
そんなことを話しているうちに、デパートに着いた。
…よくよく考えたら、ここって学校からそんなに遠くないよね?こんなところに二人で来ているのを見られるとかなり厄介だな。
「えっと…あ、こっちだよ髪飾り売り場。ここは結構品揃えいいからね、似合うの見つけられるといいんだけど…」
入口から少し右に入ったところで彼女は言う。
ほんと、美人だなあ。
「ほんと、美人だよなあ。」
声に出してしまった。間違えた。
「っ!?そ、そう?ありがと。」
「え、いや…」
「そういえば、今日の服、本当に大丈夫?おかしいところとか、ない?」
急に早口になって、誤魔化すように話題を変える。
「ちょっと露出が多い気はするけど、大丈夫似合ってるよ。着こなせてるって感じする。」
「や、やっぱりもうちょっと大人しめのがよかったかなあ~」
「いや、僕は良いんだけど(耐えれるから)、他の人に見せるのは、ちょっと嫌かなあ。(単純に変な噂つけられたくない)」
「(え?あ、ふふ、もしかして、独占欲?)」
いや、絶対誤解してるなあ。なんか顔がにやけてるもん。
何いちいち反応してるんだろ。高校生だぞ?
「ねえ、これなんてどう?目が灰色だから、それに合わせた方がカッコいいかもよ?」
次から次へと神崎さんが上目使いで白と灰色の間のような前髪のアクセサリーを持ってくる。仕草がいちいちあざといのは生まれながらなのか??
見た目は確かに僕好みのデザインだった。そんなに派手すぎず、でも少しシックな感じ。これは試す価値ありそうだな。
「よし、買おうか。」
「え、そんなすぐに決めるの?ほかにもあるんだけど…。」
「だって髪飾りなんて試着できるものじゃないじゃん。」
そういうと、神崎さんは少し考えて、
「いや、いけるかも!ちょっと店員さん呼んでくる!」
え、なになに?どうしたの?
1分ほどしてすぐ、彼女は20代前半ぐらいと思われる洒落た女性を連れてきた。
「へえ、この子が、彩萌ちゃんの~?すっごく可愛いじゃない。」
「そうでしょうそうでしょう!これで男子なんですよ?泣いちゃいますよね。」
「そうねえ、女の子顔負けねえ…、でも確かにこれは色々と試したいわね。」
「そう、だから試着、させてくれませんか?」
「……わかった。そのかわり、私にも少しコーディネートさせてくれない?
絶対に最強のイケメンにして見せるわ!」
「本当ですか~!よかったね、旅人くん!
興奮しながら神崎さんは言う。
「え、いや別にいいですよ。そんな申し訳な…」
「いや、絶対にものすごいのにして見せるわ。ちょっと看板閉めてくる。」
彩良さんと云うらしいその人も、もうすっかりその気になっていて、いまさら僕がなんや言っても仕方のないことだというのは、火を見るより明らかだった。
はあ……、今日、日が暮れるまでに帰れるかな…?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ね、ほんと………凄い。」
「凄いわね…表現する言葉が思いつかないわ…。」
やはり二人の納得できるものができたのはとっくに日の暮れた午後7時で、その間ほとんど立ちっぱなしだった僕が足を痛めたのは――言わないでもわかるだろう。
「もういいですか…僕、もう、疲れた。」
今にも倒れそうになる。一日前まで患者だった人間に何させてるんだ。ほんと…。
「え?あ!ちょっと待って!…最後に、ボイスちょうだい?」
そのときは意識が朦朧としており、間違えて僕は頷いてしまった。
「じゃ、じゃあ、お願い!!」
神崎さんの要望に応えようとしたとき、頭に妙案が浮かんだ。それを言った先を想像しながら、開きかけて一回閉じた唇を静かに開いた。
二人なんだから、当然一人ずつだ。
まずは神崎さんから、
『彩萌。今日はありがとう。とても楽しかった』
抱きしめて、できるだけ優しくで言う。
すると、
「ひゃ!…はうあ、もう…。」
神崎さんは悶えるように顔をピンク色に染めて、俯く。
「もう、そんなことされたら、私も本気になっちゃうよ?」
ドキッとした。相手はあの神崎さんなのに…、僕も本当に男だな。ムクムクと上がってきたその気持ちを、中身を見ずに、もとに押し戻す。
「ふふ、どう?ちょっと興奮したでしょ?……わ、私も、今そんな気持ちなんだからね?」
前に見せた上目使いより、上気した顔で妖艶な笑みを見せる。
ああ、この人、本当に僕のこと好きなんだ。その事実に気づいて、少し気まずい気持ちになった。僕は、相手の気持ちを知ると、不思議にも恋愛感情と云うものがわかなくなってしまう。それが僕の最悪な体質であった。
その日の帰りもほとんど喋らなかった。
別れ際になって、彼女がふと笑った。
「そういえば、今日の私のお願い、できなかったわね。」
「確かに…。僕も忘れてた。」
「いいよそんなの。そのかわりさ、来週の土日は、どっちか予定あけといてくれない?その日に私の家に来てほしい。」
「ああ、そういうことか。それなら、いいよ。どうせ暇だから。」
「ありがとう。」
そのとき、彼女にしては珍しく、純真無垢な笑みを見せた。
無骨にも僕は、綺麗だなあと考えながら、手を振った。
家に帰ってからも、そんなに食欲もなかったので、軽く夕飯を食べてからすぐに風呂に入って寝た。色々と考えることが多すぎて、明日から学校という憂鬱さにも今日だけは悩まされなかった。
美鈴も今日は何故かとても静かだった。
ほんと、乙女心って、考えてるんだろう?
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