第15話 学園のマドンナと日曜日デート 前篇
日曜日の朝、僕は何故か目覚めがよかった。
一昨日に発作が起きたばかりだというのに、それが嘘だったかのように痛みも感じない。
そういえば、この家で朝を迎えるのは今日が初めてだ。
いつもとは違う角度から日差しを浴びて、何かいい変化があったのだろうか?
そんなことを考えながら、二階の階段を下りていく。
――美鈴はまだ寝ているみたいだ。彼女は休日長く寝るタイプなのだろうか?
自分の知識では答えが出せない疑問ばかり出てくる。
――『わからない』は成長できる証だと云うけれど、実際はわからなければ悔しいし、つまらない。
起きて早々体調はいいのに不快な気分になってしまった。
そうだ、CClemonを飲もう。あれは僕の大好きな飲み物だ。
イイよね♪レモン系のジュースって。
頭の中での独り言がうるさい中、黙々と朝食を作る。
…そうか、今日からは美鈴の分も作らないといけないんだ。
なんかちょっと家族っぽくていいな……。
おっと、相手は美鈴だった。
あの美鈴だもんな、家族なんて、まさかw
…今は8時40分。久しぶりに良く眠れたから、急がないと神崎さんを待たせてしまう。
10分ほどで食事を終え、着替えに取り掛かった。
残念ながら母さんと違って僕は黒髪なので、そんなに派手な服は似合わない。
かといって紛いなりにも女子と出かけるのだ、いつも通りではいけないだろう。
2分ほど熟考し、白いTシャツと、青色の薄いカーディガン、緑色の半ズボンで合わせることにした。
正直服の組み合わせなんてよくわからないし、最近の流行なんて調べたこともない。
ブランドもよくわからない。適当だ。自己満足だ。ああ、ちょっと悲しくなってきた。
とりあえず出ていける格好にして、少しコーヒーを淹れていたら、割と早めに神崎さんは来た。
「こんにちは。」
「おはよう、神崎さん。」
「…へえー、こんなところに住んでるんだ。…美鈴は起きてるの?」
「いや、今日はまだ寝てるよ。僕がいきなり倒れちゃったから、色々と昨日は疲れたんだと思うよ。…あ、神崎さんも、昨日は心配してくれてありがとうね。」
社交辞令のような挨拶を張り付けた笑顔で言う。
「ううん。お礼を言ってもらうようなことではないし…、――――それに旅人くんが無事ならよかったよ。」
神崎さんは、少し顔を赤らめながらそう返す。
いやこれホント誰だ?僕はこんな人知らないぞ?
演技だったらものすごいけど、そうじゃないなら……
僕、とても失礼かもしれないな。
「そう?それならいいけど…」
「そ、そうだ!旅人くんていつも私のこと『神崎さん』って呼ぶけど、ちょっとそれじゃよそよそしいからさ、下の名前で呼んでくれないかな?」
「ん?そんなことならいいよ、彩萌。」
からかい交じりにそう呼んでみる。
「ひゃ!!い、いきなり!?」
思ったより可愛い反応だ。面白くなってきた。
「でも下の名前で呼んでって言ったのはそっちでしょ?」
「あ、うん、そうだけど…」
「…やっぱり僕にそう呼ばれるのは嫌だった?気持ち悪かった?」
もっと意地悪な質問を投げつける。
「い、いや、そんなことないよ!……嬉しいけど、ちょっと恥ずかしい…かなって思っただけ!多分すぐ慣れるよ、うん!!」
「う、うん。わかった。」
思ってたのと少し違うな。勉強になる。
「あ、そうだ!今日さあ、新しく買った服を着ているんだけど、ど、どうかな?変じゃない??」
「そうなんだ。初めて神崎さんの私服見たけど、凄く似合ってるよ。」
言っている内容は本心だ。やっぱ美人は私服姿でもかなり綺麗なんだな…。
「あ、ああありがとう!嬉しい!」
顔をそっぽに向けながら、神崎さんは慌てて言う。
「なんでこっち向いてくれないの?もっと近くで顔、見せてよ。」
調子に乗ってもっと痛いことを言ってみる。たぶん、あとでめちゃくちゃ後悔するんだろうなあ。
「はわわわわわ!旅人くん♡」
え、そこは引いて欲しいんだけど?え?
「あ、ところで今日はどこに行くの?」
「えへへ?なんだったっけ?」
だめだこりゃ、完全に雰囲気に酔ってる…。
「んー。あ、そうだ!行くところを思いだすまでさ、ちょっと買い物にいかない?
ヘアゴムとちょっと服を買いたくてさ…。」
「うん。旅人くんの行きたいところだったらどこでもいいよー。」
はあ、あとどれぐらいこのテンションなんだろう?
結構疲れそうだ。
そんなことを考えながら、僕らは近くの大型ショッピングセンターに向かって歩き始めた。
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