第14話 目覚めたら三つ巴
僕は病院で目を覚ました。
体が軽い。飛んで行ってしまいそうだ。
ぼやける視界の中、白い天井が最初に見えて、それから栄養物質やら血液やらがついている支柱が目に入る。
左を向くと、母さんと香奈さんが静かにうたた寝していて、右を見ると美鈴と何故か神崎さんが僕が寝るベッドに顔を突っ伏していた。
…僕、どれくらい寝てたんだろう? あの早退した日は金曜だから、多分今日は休日だと思うけど…
とりあえず自分が起きたことを誰かに伝えなければならないだろう。
一番近くにいる美鈴の肩を少し叩いてみる。
起きる気配はない。
次は「美鈴!みれい!」
と小声でささやいてみる。
「ん~?…あ、旅人!」
最初は寝言のようだったが、僕に気づくと、いきなり抱きしめてきた。
うれしいけれど、正直ちょっと痛い。
僕は今体弱ってるんだから…もうちょっと丁寧に扱ってほしい。
「…ちょっと、もう少し優しく…。」
「嫌よ!…もう、離さないからね。旅人が突き飛ばしても、しがみつくから。
…ずっと、一緒にいるから。」
なに?なんで僕プロポーズされてんの?
それになんかちょっと言葉がストーカー気質ですよ、美鈴さん?
「ん…?あ、旅人くん!!」
続いて起きた神崎さんが、美鈴を押しのけて指を絡めてくる。
…おや?これはもしや修羅場というやつなのでは?
「ちょ!何すん「うん、ちゃんと私のことわかってる!はあ、よかった。急に血を吐いて倒れたっていうから、…本当に心配したんだよ?」
上目づかいで、安心したようにこちらを見て微笑む神崎さん。
…ほんとだ。美人なんだな、この人。珍しい山吹色の髪と若干弱い緑色の目が、良く似合っている。なるほど、学園のマドンナと呼ばれるわけだ。
今までクラスメイトの顔なんてほとんど見ようとしてこなかったから、他人のことなんて何にも知らない。
そんな的外れなことをぼーっと考えていると…
「あ、もしかして私に見惚れちゃった?うちに来てもいいんだよ♡」
…んー。こういうところだよなー、この人は。
黙っていればただの美人で、僕も一目惚れできたかもしれないのに…。
「ちょっと、私の旅人になにしてるのよ!!」
…美鈴もなあ、もうちょっとお淑やかにしたらいいのに。
それに僕は君のものじゃないし。
「あ、ごめんね。…でも旅人くんは美鈴のものじゃないでしょ?」
「なっ!私たちは同棲してるのよ?」
「…でもそれさあ、聞いたんだけど、美鈴は旅人くんの許可もらってないのに同棲を始めたんでしょ?もしかしたら心の中で迷惑がってるのかもしれないわよ?」
そうだそうだ!すごく的を射ている。もっと言ってやれ、神崎さん!!
「え!?…………そうなの?た、びと?」
…まずい。美鈴も思い当たる節があったらしく、今にも泣きだしそうな目でこちらを見てくる。僕なんにもしてないよね!?
とりあえずここは―――
「嫌じゃないよ、美鈴との同棲は。幼馴染だし、信頼してるからね。」
「ほんと!よかったあ。嫌なんだったらどうしようかと思った!」
美鈴は嬉しそうにこちらを見て満面の笑みを見せ、さらに神崎さんのほうを向いて勝ち誇った笑み…を……あれ?
「……ふふ、『信頼してる』ね。」
何をどう解釈したのか、小さく何か呟いて、ニヤっと僕を見つめる神崎さん。
え、なに?どうしたの?
「…彩萌? …いやとにかく、旅人は私との同棲ライフを楽しんでいるんだから、邪魔しないでよね!」
「…今回そこは追及しないであげる。…そのかわり!旅人くん、明日、私とデートしてよ。美鈴とは付き合ってないんでしょ?信頼してるだけなんでしょ?」
「なっ!「確かに付き合ってはいないけど…。」
「旅人!?「美鈴は黙ってて!彼女でもないのにあなたが旅人くんのことを縛る資格はないわ。」ぐっ。」
「じゃあいいでしょ?旅人くん?」
「……いいけど、僕なんかでいいの?」
「あたりまえじゃない!あなたとじゃないとダメよ…。」
お、おう。えらく嬉しそうじゃないか。…こんな人だったっけ?
「じゃあ、明日9時に迎えに行くから、その時までに用意しておいてね♡」
それだけ言うと、満面の笑みをこちらに向けてから、容器にスキップしながら、病室から出て行った。
「ふふふ、旅人はモテモテね。」
「そうですね。これは美鈴も頑張らなければいけませんよ?ただし、明日のデートの邪魔はルール違反ですよ。」
「…わ、わかってるわよ。……………もう、なんでデートの約束なんかするのよ。」
美鈴はものすごく機嫌が悪いようで、あの新しい家に戻ってもずっと拗ねていた。
どうにか会話してくれるまでに、何回かハグしなければいけませんでした。
僕はどうすればよかったんだ!?
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