第9話 仕事の終わりと同棲生活の始まり

ここは僕が頼んで作ってもらった部屋だ。

言いにくいが、必要なハック用のコンピュータなどが置いてある。

仕事なんだからしょうがない、政府に脅されてやるんだから自分は悪くない。いつもそう言い聞かせてやっているが、たまに罪悪感が良心を襲う。


しかも今回は、これをすれば美鈴がホームレスになるのだ。もしかしなくても覚悟がいる。それも、母さんから『人の心だけは忘れるな』と教えられているからだ。

大げさだな、とその時は思ったが、この仕事をこなしていると、セキュリティに入り込むのが楽しすぎて自分のやっていることがハック、つまり人を貶めることであることを忘れてしまう。


たとえそれをする相手が悪事を働いていたとしても、これは楽しんで良いものではない。






そんなことを考えながら、僕は母に買ってもらったブルーライトカットメガネをつけ、コンピュータの電源を入れる。

あとはやるだけだ。





「始めます。」


誰も話し相手はいないのに、いつもこれだけは言う。


今回入るのは、いつも通り会社の経営を行っている上層部のデータ全てだ。



「20のパスワードと、最後に数千ケタの暗号かよ。まあ、そこら辺の会社よりはしっかりしてるね。たしかに普通は無理だが、その手のエキスパートにかかればなんてことないんじゃないの?よっぽど自分の外面に自信があるみたいだね。」


ぶつぶつと独り言をいいながら、僕は難なく侵入に成功する。


自慢じゃないが、こんなのは僕にしてみればそんなに難しいことではない。

別にこの程度ならば、政府の中の人材でもギリギリいけるんじゃないかと思える。


カタカタカタ――――――――――ピコン!



「……完了。慎重すぎじゃないか?四宮さんは。」



データは根黒さんの言っていた通りだった。社長がどんなことに金を使っていたのは分からなかったが、売り上げなんかの大幅な改竄されたデータはしっかりと手に入れた。…これを根黒さんに送れば僕の仕事は終わりだ。


こちらから根黒さんに電話もかけて迎えに来てもらわなければならない。


ピピピ、ピピピ、ブ―――ピ!


「もしもし、旅人です。終わりましたよ、根黒さん。」


「…よくやった。そのデータは、…もう送られてきてるな。

よし、思ったより大分早く終わったな。もっとかかると思っていたんだが…。」


「そこまで難しくなかったのでね。…これで、美鈴はホームレスになるんですね。」


「そうだ、そのことだが、…いやもう着いたな。外で話をしよう。出てきてくれ。」


「え?もう着いたんですか?」


まだ連絡入れていないよね、僕。


「ああ、ちょうど此処の近くによる用事があったからな。」


「そうですか。わかりました。」


学校の荷物はすでに家に送ってあるので、コンピュータの電源を切って手ぶらのまま外に出る。本当にもう根黒さんの車があった。



「あ、じゃあ、帰りますか。」


「お疲れ様。いやここからは歩いていくんだよ?」


「え、どういうことですか?」


全く意味が分からない。だってこれから帰るんでしょ?ここからめっちゃ遠いよ?うち。歩いていける距離じゃないよ。

冗談って言ってよ、根黒さん?


しかし彼は一向に口を開く気配がない。


「あ、言ってなかったな、旅人は今日から引っ越すんだぞ?」


「え、ホントどういうことですか?全く聞いてないんですけど??」


「美鈴ちゃんは知ってるぞ?」


「いやなんで美鈴が知ってるんですか?……まさか僕のこともバラしたんですか?」


「いや、さすがにそこまでは彼女も知らないだろうさ。

…君の両親にこの件を打ち明けたらね、『ああ!それじゃあ、あの子も家が遠くて辛そうだったし、二人で暮らしたらどうですか?香奈さんはまだ辛そうなので、うちに来てもらいますので。』って言われてさ、いい案だと思ったんだ。

で、香奈さんと美鈴ちゃんも快く許可してくれたからな。

別にお前に話さなくてもいいかなって。」


「……………なるほど、って全然よくないよ?言っとくけどそれ本人の許可全くとってないよね?」


「ああ?じゃあ、お前はか弱い女子高生をあんな遠くから通わせる気か?

言っとくがな、あれはお前じゃなかったらだいぶきついぞ。高校生の生活じゃない。」


「くっ、確かにそうだけど、僕に一声くらいかけてくれてもよくない?」


「うるせえ。男がそんなことでグダグダすんな。

ほら、もうそこだ。女の子をまたせんな。行って来い。」


「うがっ、おさないでよ。じゃあ、またね、根黒さん。

…その、色々ありがとう。」


「お、案外素直なとこあるじゃねえか。…別に気にすんな。お前の為なんだから。

こんなに働いてくれてるのに金の一つも受け取ってくれないんだから、

これぐらいさせろ。」



根黒さんの優しさが少しずつ伝わってきて、胸が熱くなりながらも僕は彼に手を振った。

美鈴を待たせているのなら、すぐに行かなくてちゃ。





僕はこれからはじまるラブコメのドアを開けた。








―――――――――――――――

こんばんは、柊 季楽です。

この話を書くに至り、伏線を張り直したいと思ったため、何話か編集しました。

『え?なんかちがくね?』と思った人は申し訳ないですが、読み直していただけると幸いです。

「うがっ」はなんか変でしたか?でも僕は「わあ」よりそれっぽくて好きです。


これからもよろしくお願いします!!

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