第4話 つぶすな面目、逃げ切れメンサ

まずい。非常にまずい。


「ねえねえ、旅人くん、恋愛したことあるのかしら?」


こいつ、僕が恋したいの知ってんじゃね?こんなに痛いとこついてくるか、普通?


「……残念ながら。」

「本当?小さいころに片思いの一つや二つぐらいあるのが普通でしょ?」

「残念ながら、というか、そういう人もいると思うよ。初恋が高校に入ってからとか、別におかしくないでしょ?」

「いや、君が女の子ならともかく、男の子ならどんな環境で育ってもそんなことありえないわよ。」

「そんなこと言われましても、本当のことだから。だから、恋バナとかでは盛り上がれないよ。…それから離れて?」

「へえ、髪伸ばしてるのにいい匂いがする。不潔感がない。なんなら女子と勝負できるかもしれないわね。」


あー、話聞いてないや。


「髪は切りたいんだけどね、父さんに言ってもニヤニヤして、『まだだ。』って言われるんだよね。」

「へー、でも旅人くんってさすがにもうちょっと切った方……」


ふぇ、なんで前髪めくって固まるの?みんなも、ねえ?

おちつけ僕、ポーカーフェイスだ。


「あの、どうかした?」


「目は今まで見えなかったけど、灰色だったのね。ハーフなの?」


「うん。母さんがロシア人なんだけど?そんなにおかしかった?」


「これは、初めて見て驚かない人いないんじゃないかしら。芸能人みたいよ。」


「いや、それ言ったら神崎さんのほうが美人だし、芸能人っぽいのは貴女のほうじゃないかな?」


途端に神崎さんの顔が赤くなる。


「急にそんなこと言わないでよ。しかもその顔で。」


え?なに?もしかして僕に惚れた?

いや、ないか。ていうか今好きになられても何もロマンチックじゃない。


「え、なんかごめん。でも、あのさ、みんなあんまりこっち見ないでほしいんだけど。なんか落ち着かないから、さ。」


「おう、わりぃ。」「ごめんね。」


うん。みんなそんなこと言う割にはこっちずっと見てるよね。

僕から目を離そうとしないよね。

もういいや、諦めた。


「………………」


おっと、いつの間にか代理の先生来てたんだ。で、なんで先生もこっち見てるの。この変な空気はやく変えてほしいんだけど。


僕は目でそう訴える。

何とかわかったようで、小さく頷くと、


「お、おーい。みなさん!これから、そーとホームりゅーム始めるよー。」


うん、めちゃくちゃ噛んでる。大丈夫かな、この先生。


「えっと、知らない人もいると思うから軽く自己紹介するけど、今日だけ川崎先生の代わりにつく西川です。ここにきて初めての授業なので、お手柔らかに。」


生徒にお手柔らかにって普通言うか?とりあえず自由時間は生き残った。


でもこの先生のマイペースな感じは結構好きだ。


もしかしたら今日は久しぶりに楽しい日が送れるかもしれない。







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