第3話 ボカロと私、どっちが大切なの?


「あのさ、神崎さん。いつまで僕の腕を持ち続けるのかな。君の席は教室の反対側だよね?それから痛い、痛いんですけど!?」


「もう、そんなに私のことが嫌いなの?」


 美人だからめっちゃ似合ってるのがうざい。これで断ったら、ファンクラブのやつらに殺されそうだな。いや、OKしても殺されるか。


よし、ここは――――――


「え?別に嫌いじゃないけど、僕は今からボカロ聞くから、ほとんど無視するよ?

それでもいいの?」


「えー?私とボカロ、どっちが大事なの?」


「え、普通にボカロのほうが大事だけど?」


「……真顔でそれ言われるの初めてだよ。ちょっと傷ついたかも。

…でも、それじゃあ、さ、まだ時間あるから、ちょっと外で歌ってみてよ」


「嫌だよ、僕歌下手だから。」


何を言ってるんだこの人は。僕はカラオケで誰の批評ももらえなかった下手くそだぞ?


「嘘をつかないで。前に聞いたあの音程とあの声で歌って下手になるはずがないでしょ?」

「いや、下手だよ。お世辞もすぎると傷つくよ。」


「お世辞じゃないんだけどなー。でも、あくまでそれで通すんだったらいいよ。私はこうするから。」


「な、ちょっと、ねえ、なにしてんのさ、神崎さん?」


「えー?旅人くんが歌ってくれないから、少し意地悪してるだけよ」


…いきなり名前呼びになってるし、意地悪してるって云う自覚はあるんだな。


「やばいでしょ。ほんとあなた力強いんだから、苦しい、くるしいいいってえええ!!」


周りの視線が一気に…いやさっきからだったが、一気に怖いものに変わる。


「もう、大きな声出さないでよ。…ねえ、なんでこんなに反応が薄いの?

顔も赤くもなってくれないし、意識してくれないのはなんでかな?」


急に頭が覚めて、「それは僕が君に惚れていないから」と云う言葉が浮かぶ。でもそうは言えない。


「……大した共通点もきっかけもないのに、人を好きになったりしないでしょ。好きでもない子にドキドキなんてしないし。」


よし、これでどうだ!…すぐに言い返してこない。『おおー!』とまわりから歓声が聞こえる。これは正解なのでは?


「………ふーん。そんなこともないと思うけどなー。」


ん?首が軽い。離してくれ…たの…か?

後ろを見ると、とても機嫌の悪そうな神崎さんがいた。

え?正解じゃなかったの?許してくれたんじゃなかったの?


なにはともあれ、時間稼ぎは成功だ。もう先生が来る…はず?


【ピーンポーンパーンポーン】あれ?



【えー、1年B組担当の川崎先生は、今日は体調不良でお休みです。もう少ししたら代わりの先生が来るので、それまで少し待っていなさい。】


なんだと!?あの鬼先生が…?カキにでも当たったのだろうか?


「もうちょっと話せそうだね?旅人くん?」



嫌だああああ。もう、疲れた。

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