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「あれは 留学が決まった夏休みの帰省だったわ
あの日も 襲撃があって
みんな 息を潜ませ やり過ごしたの」
もう 大丈夫 と思ったのね
彼は 何時ものように 集会場に行き
練習を始めたわ このピアノで
神様は 残酷だわ
兵士が まだ 残っていたなんて」
老夫人は 涙で 声を詰まらせた
「後 何日かで ここを出るはずだったのよ
なのに 弾は 彼の頭を射抜いたの
すぐ 町の病院に運ばれたけど
わたしは 死んだものと 聞かされていたわ
わたしの家は 親戚を頼って外国に疎開したの
その前に お見舞いに行ったけど
最後に見た彼は まるで死人のよう
わたしは残るって 泣き崩れたけど
許されなかった」
老夫人は 涙でぬれた頬を 老人の頬に寄せた
「こんな 粗末なピアノで」
老紳士が 労るように ピアノを撫でた
「彼は 腕を磨いたのだね」
若い娘は 老紳士を伺うように尋ねた
「この方は 一体 どなたなのですか?」
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