第11歩 みはねの母、襲来

 時間は17:30。

「ごめんお待たせー。ちょっと打ち合わせが長引いちゃって。」

 みはねの母・三月みづきがお店の裏口から入ってきました。

「ん? その子は?」

 三月はあたふたしながらネッコになりきる寝音子のほうを見ました。

 するとみはねは立ち上がり、

「お母さん聞いて!」

 何かが始まりました。寸劇めいた何かです。

「この子はね、ノラネッコたちに育てらた野生児なの! リクエストで空き家の掃除をしてる時に見つけて、お腹空かせててかわいそうだったから連れて帰ってきたの!」

 『この子』というのは寝音子のことでしょうか。

よくもまあ次々と嘘を並べられるものです。迫真の演技というべきかもしれませんが。

「……ふーん、それで?」

 三月が猜疑的な目であいづちを打ちます。

「最初は警戒してたけど、ニクザベスちゃんのおかげでだんだん打ち解けてきて……今ではほかのネッコちゃんに混ざってキャストもやってもらってるんだよ。」

「ふむふむ。」

「だからこの子がちゃんとした人間になるまで、ニクザベスと一緒にいさせてあげて欲しいの。ニクザベスも、1匹のキャストと仲良くなったことになるわけだから、ここにいてもいいでしょ……?」

 懇願するみはねの潤んだ瞳が三月の良心に——、

「いやいや、ダメでしょ。」

 響きませんでした。

 作り物の尻尾をソファの隙間に突っ込んで眠るフリをしていた寝音子は『ですよねー。』と思いました。

「……どうして? この前言ってた条件は満たしてるはずでしょ?」

「残念。ひとつ見落としがあるのよ、それ。」

 見落とし……どういうこと……?

 みはねは必死に屁理屈の欠陥を探しましたが、見つかりません。

「百歩譲ってその子が野生児だってことは認めてあげるわ。でもね……」

 三月はそう譲歩すると、

「人間を1とは数えないのよ! 野生児であっても人間は人間! 1キャストとは認められないわ!」

 と一蹴しました。そして、

「あと! 人間の女の子がキャストとかそれもう別の店だから!」

 とツッコみました。ごもっともです。このままでは開店時間が夜からになってしまいます。まあ、寝音子がまともにお酒をグラスに注いでいるところなんて想像できませんが。

「今週日曜にはその子を連れて行くから準備しときなさい。」

 そして2人は店の外へ追い出されました。

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