第2歩 徒歩とサイクルマ
目的地まではそこまで距離がありません。
寝音子は乗り物系アニマたちが行き交う道路の脇を小走りで駆けていきます。
道路は白線が引かれているだけで特に舗装などはなされていないため、地面を蹴るたびに砂利や砂が後方へ飛び転がります。
「はぁ、はぁ……休憩です……。」
そんな道中ですが、いかんせん体力がない寝音子です。小走りでもそう長くは持ちません。
休憩と称したふらふらゆっくりウォーキング、通称『疲れたよ
あぁ、だめ。ちょっと走るだけで心も身体も削れてしまいます。柔らかぁい消しゴムみたい……トホホ。
往年より不変だった自身の貧弱さを嘆いても仕方ないので、寝音子は別の事を考えることにしました。
「うーんしかし、サイクルマの免許を取ったらどこへ行きましょう?」
寝音子は悩ましくも少しわくわくしながら呟きました。無論、まだ教習代すら稼げていない現状では時期尚早といったところですが。
ノロノロと歩く寝音子を土埃を上げながら追い抜いていくのは、数多の乗り物系アニマたちです。
中型乗用アニマのサイクルマやバイコン。
大型乗用アニマのトラックマやテレファント。
バイスコンと違い免許の取得が必要ではありますが、何倍も速く走れるこれらのアニマを運転する事は、寝音子の幼少期からの憧れでした。
——ピピィィィ!
赤と黄と緑の三種の三角旗を持った信号人が、赤い旗とホイッスルで合図を出しました。
すると、たった今寝音子を追い越していった乗り物系アニマたちが一斉に止まります。
サイクルマとは、サイのような乗り物系アニマです。背中は乗用車のルーフとピラーのような形になっています。窓ガラスなどはありませんが、その中には硬い皮膚でできたシートのようなものが2〜6つほどあり、人が乗り込んだ状態で走ることができます。
「むっ! あれはっ!」
すると寝音子は見つけました。往来の何頭ものサイクルマの中で、
「ひゃー! あれってもしや『サイボルギーニ』じゃないですかぁ!」
車に車種があるように、サイクルマにもバリエーションがあります。例えばこのサイボルギーニは、横幅が広く平べったいフォルムをしており、太く強靭な四つ足によって
「はぁぁ……あんなスポーツサイ、一度でいいからドンブイコドンブイコと乗り回してみたいものですよ……。」
そう言って羨望の眼差しを向けたのもつかの間、落ちこぼれフリーターの自分には縁のない話だと諦観する寝音子でした。
まあそれも当然です。
サイクルマに限らず、すべての乗り物系アニマはエサの種類や配合によって背中の形、体の大きさ、走行能力などが決まります。
サイボルギーニやポルサイェのような高級サイクルマは、その高い走行能力や独特のフォルムを実現するために
そうこうしているうちに寝音子の息が再び整ってきました。
まあ、もう目的地は目前でしたけど。消耗が早ければ回復は遅いのが世の常です。
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