第7話 思わず上がる口角。
例えば、文化祭では。
「うわっ!」
準備をしていた、とある日。
放課後の雷鳴と同時にアイツが慄いた。
その声に振り返ると、口を押えたアイツが居る。
「……何? もしかして雷、怖いの?」
ニヤリと笑いながら、からかい口調でそう詰め寄れば、反射的に「そんなんじゃない!」という言葉が返ってきた。
しかしすぐに聞こえた雷鳴に、アイツはまた大きく肩を震わせる。
今度は声こそ出さなかったものの、怖いという感情を隠せていない事には変わりない。
「嘘つき」
ジト目で責める様にそう言えばアイツはやはりと言うべきか、往生際も悪く「違う」と言い返す。
「別に嘘じゃねぇよ! ただ……」
「『ただ』?」
言い淀むので急かしてやれば、アイツは少し口を尖らせた。
「大きな音とか、そういう急な感じが苦手なだけで……」
ふいっと逸らされた視線が、宙を彷徨った。
これはコイツが気まずい時にする、癖の様な物だ。
その癖が出るあたり、その言葉はあながち嘘ではないのだろう。
しかしまぁ雷が怖いにしても、急な感じが苦手にしても、結局格好良くは無い事には変わりない。
(……コイツ、一見スペック高いし何でもできる完璧超人っぽいのに、割と弱点多いよね)
背が低い事。
球技が苦手な事。
人目にさらされるのが苦手な事。
急な音などが苦手な事。
でもまぁ人としての致命的な欠点という訳じゃないし、スペックが高いだけに、この辺でバランスを取っているのかもしれない。
主に、神様的な何かが。
等と考えていた所で、ハタと気付いた。
「ねぇ。じゃぁさー」
ニヤリと笑って、言う。
「お化け屋敷とかはどうなの? やっぱ苦手なの?」
そう尋ねれば、アイツは途端に嫌そうな顔をした。
「別に怖いのはそんなでも無い。……急に出てきたり、急に動いたりしなければ」
後半は、酷く小さな声だった。
しかしその声も、2人しかいない静かなこの部屋で聞くには十分の声量を持っている。
そんなアイツの反応に、私が喜ばない訳が無い。
「……っ! ちょっと! お前そんな『いじってやろう』みたいな顔するなっ!!」
アイツはそんな事を主張してくるが、私は聞かなかったふりで華麗にスルーする。
そして、思うのだ。
『急に出てこず、急に動いたりしないお化け屋敷』、そんなモノ果たして存在するのだろうか、と。
(うん、まぁ例えば高校生の文化祭の出し物とかだったらクオリティーはそんなでも無いだろうし、あり得る……のかなぁ)
なんて考えてみたが、答えは出ない。
だから私は、その答えを出す一番手っ取り早い方法を実行する事にした。
「ねぇ、今年の文化祭の出し物リスト、もう見た?」
「……見たけど」
実行委員会なんだから、確認済みなのは当たり前だろう?
そう言いたげな、残念な物を見る様な目で見られてしまった。
しかしそんなのは私だってとっくに把握してる。
把握しているからこそ、こんな事を思いついたりもする。
「じゃぁ知ってるよね? 今年は2クラス、お化け屋敷やる所があるんだ――」
「絶対に行かないからな!!」
独りでに上がっていく口角をそのままにそう言えば、食い気味で言葉を返された。
そのキレ気味な顔には、はっきりと「ふ・ざ・け・ん・な」の文字が書かれている。
しかしこんな所で簡単に諦める私では無い。
私にはまだ、『必殺☆文化祭実行委員の権限行使!』という手段が残されている。
(絶対にバレない様に、慎重に事を運ばなければ)
私は人知れず、そう決意した。
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