第8話 当日連絡なら逃げられないでしょ?



 そして、当日。


「はぁ?! いつの間にこんなっ! 絶対に行かないからな! お前1人で行ってこい!!」


 当日の実行委員が行う作業の1つに、『現場視察』というのがある。

 アトラクションの内容や安全面の確認などをする仕事なのだが、1人で校内の出し物全てを回る事は時間的に難しいので、委員達で分担し手分けして回る事になっているのだ。


 私とアイツは、例の漏れずその作業でもペアになっている。

 だから私は自分の持ち得る全てを用いて、自分達が回る場所の中に例の2つのお化け屋敷の内の1つを滑り込ませた。


 そう。

 全ては先日のアレの、検証の為に。


「っていうか、何で当日になって場所の変更なんてあるんだよ!」

「え? 2週間前にはもう変更はされてたよ?」

「はぁ?! 俺は今知ったんだけど!!」

「そりゃぁ今渡したからね」

「はぁ?!」


 2週間前、変更された時に私は「じゃぁアイツのは私が渡しとくね」と言って変更後の視察の分担表を2枚、受け取っておいた。

 それを今、アイツに渡したという訳だ。


 これらの手間も、勿論全て検証の為である。


「ちょっ!! 俺本当に嫌だから……!」

「大丈夫、大丈夫。もしも怖かったら私の腕ギュッてしてても良いから」


 全く動こうとしないので、私はアイツを引きずりながらそう言った。

 するとアイツは顔をカッと赤くして言い返してくる。


「だっ、誰がそんなことするかぁーっ!!」


 そんな事を言いながら、しかしそれでも自分の私情で仕事を投げ出せる様な奴では無い。

 アイツのそういう、馬鹿が付くほど真面目な所だけは信用している。



 その予想通り、アイツは自分の役割を結局拒否しきれなかった様だった。


「アンタ、何っていうか……そういう所は律儀だもんね」


 私は嫌な顔をしてトボトボと後を着いて来るアイツに、振り返って笑う。

 するとアイツは舌打ちをしながら、プイッと顔を大きく逸らした。



 こうしてアイツは結局、お化け屋敷の現場視察を私と一緒に行った。


 検証の結果は――。


「うっわっっ!!」

「ちょっ!!」

「きゃーっ!!」


 奇声を上げながら終始隣でガクブル状態だったアイツを、私は大爆笑で見守った。

 お陰でその後腹筋が痛くて困ったが、予想以上に楽しかったので良しとする。


 結局そのお化け屋敷の出来までには目が行かず、そこがどの程度の出来なのかは分からなかった。

 けど、笑い過ぎて涙に濡れた視界の中、どうにか安全性の確認だけは行って、現場視察は無事に(?)終了したのだった。


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